22 敵がハニートラップを発動した!
「しばらく離れてみますか?」
こそっとローアン様に提案すると、彼も賛成してくれた。
「むむ‥ではあちらで話をしてくるから少しだけ1人でいてくれ。いいか、この部屋からは出るな。無茶はするなよ」
私はパートナーと別れ壁の花になってみた。
「あの、初めまして。自分と踊っていただけますか」
メイクのおかげだろうか、それなりに声がかかる。
ドコソコ男爵家の次男とかナントカ子爵家の三男とか、パッとしないけれど安全そうな令息とダンスを踊った。
(ついでに本当の婚約者を探してもいいのかな)
何も起きないので、少々気をゆるめた時だった。
「美しい姫君、どうか僕に貴方と踊る栄誉を」
絵にかいたようなイケメンが近づいて来たのだ。
(お、これはあやしい)
私は緊張を隠し、ヒザを曲げる。
男は優雅すぎる仕草で私の手を取った。
「僕はなんて幸運なんだろう。見てごらん、他の男たちが嫉妬している」
ステップを踏みながらささやいて来る。いやまあこっちをガン見しているのはロータス様だけだけど。
「ああ、愛しい人。髪も瞳も立ち姿も、まるで女神だ」
お世辞だと分かり切っていても浮かれてしまう。
もっと言え。
曲が終わった。
急いで離れようとするも男は私の手をつかんだまま。
「もう離してくださいな、戻らないと友人が心配します」
「心配などさせておけばいい」
腰を引き寄せられる。
「向こうで、休みませんか‥あれ?」
別室に移動しようとしたのだろうね。まあ私は動かないけれど。
そのくらいの力で揺らぐ私ではないからな!
「おほほほ」
笑ってごまかしている内に、ロータス様がやって来た。
「私の友人に何か?」
問答無用で優男を引きはがしてくれる。
「予想通りでしたね」
「ああ、敵状は観察できたし、帰るか?」
しかしそう上手くは終われない。マキシム夫妻が割りこんできた。
「ロータス卿、せっかくお出でいただいたのですからもっと楽しんで行かれませんと。向こうに年代物のワインがございます。ご友人もどうか妻とお知り合いになっていただきたい」
私は侯爵夫人につき合う羽目になった。
「センタリオン家の奥様とは何度かお目にかかりましたわ」
とりとめのないことを話す。
「今のお若い方にはどのようなことが人気なのかしら」
「若いだなんて、ホーク夫人は私と変わらないではありませんか、おほほ」
「まあお上手」
カクテルを飲みながら、中身のない会話をやり取りする。
上等な酒はおいしいが飲み過ぎてはいけない。
「これおいしいでしょう? もう一杯おあがりなさいな」
グラスを渡された時ってどう断るんだっけ?
酔っても体は動くのだが、上手い返しが思いつかない。
大体そこまで酔う前に、お花摘みに行きたくなっちゃうじゃん。
「お、お二階を借りてもよろしいかしら」
トイレのためその場からやっと離脱した。ある意味助かったかも。
メイドに案内されて無事用を済ませ、会場に戻ろうとした時。
「やあ、またお会いしましたね」
優男が廊下をふさいでいた。私の動きを見ていたのだろう。
それともここまでがマキシムの計画なのか?
「疲れたでしょう、一緒に休みませんか」
こいつをかわすだけなら簡単だった。
しかし背後から忍び寄るもう1人に、酔った私は気づけない。
目の前の男へ気を取られ過ぎたらしい。
ゴンッ!
後頭部のするどい衝撃に、私は意識を失った。
結局力技に持ちこまれました。
二階を借りるがトイレを借りる意味になるのはミスマープルに載っていたので使ってみました。
パディントン発の作品です。




