21 敵地に出陣
私は言いつけ通りデイジーの護衛になった。
学校への送り迎えに同行し、買い物へ行きカフェでお茶をする。
伯爵令嬢の心が誰に向いているのかを周囲に見せつけるため。
ローアン様に向けられた毒牙が、後輩にまで届いたらたまったものじゃない。
「はあ~ブライト様をいつも独り占めなのは幸せだけど‥友達は減ってしまったわ」
デイジーは学校で私のファンに取り囲まれたらしい。
「お姉様はお仕事で仕方なくって答えたら、それなら我が家で雇うって王女様までが血眼になりましたの」
あー第二王女のセシリア様か。
確か卒業式でラブレターもらったっけ。
そんなある日、ローアン様から緊迫した手紙が届いた。
ホーク家の開催する舞踏会に招待されたらしい。
『恋人を連れてこいと書いてあったが、デイジー嬢を連れては行けない。オスカーに頼んだら断られた。我が家ならともかく、他家で通用する礼儀作法は知らないらしい。私のパートナーを君に頼めないだろうか』
表向きはまだ同じ第二王子派閥だから断れないのだそうだ。
『君の方が子爵の出だからと推薦された。みな賛成するのはなぜだろう?』
書面からローアン様の天然な表情が伝わってくる。
『その日にデイジー嬢へ代わりの護衛が用意できるならお引き受けいたします』
フローレス伯爵に断ってから私は了解の返事を書いた。
そして夜会当日。
私は卒業パーティーで一度だけ袖を通したドレスを身にまとった。
鎖骨も腕も隠れる色気のないドレスだが、今の私にはちょうど良い。
デイジーの敵になりそうな男をあぶり出すのだ。
立ち回りに気を配らないドレスで良かった。
ウィッグだけは公爵家に用意してもらっている。
私の髪色に合わせてあるそれは、今夜私が身に着けている物の中で一番お高かいかもしれない。
「思ったより似合っているな。カツラも自然だ」
ローアン様は笑いながらエスコートしてくれた。
緊張しながら馬車を降りる。いよいよ敵陣へ乗りこむのだ。
私がホーク侯爵家へ足を踏み入れるのはこれで3度目。
オスカーがはりきって化粧をほどこしてくれたから、私の顔は原型を留めていない。凄腕の護衛に見られても気がつかれないはずだ。
「ようこそローアン卿」
玄関ホールに入ると、当主のマキシムがうさんくさい笑顔で出迎えた。
「お連れの方の名をうかがっても?」
「ブライア・センタリオンですわ」
美人の奥様はどこまで夫の計画を知っているのだろう。
彼女の実家だって第二王子派だったはずだ。
「楽しんで下さいまし」
疑心暗鬼で胃が痛くなる。華やかなパーティーを楽しむどころじゃない。
1回はぎこちなく踊ったが、2曲目に進む気はおきなかった。
2人で壁際にたたずむ。
「とりあえずお前を狙う男はいないようだな」
「今夜は顔だけ確認して、後日手を出すのかもしれません」
今度こそ完全にローアン様を女性不審におちいらせる予定なら、恋人にまた裏切らせればいい。
同じ場所につけられた傷は重症になる。
(私にお誘いがかかるか、実家に縁談が舞いこむか)
本名を名乗ったのは敵の出方を確かめるためだ。まあ実家に縁談が来ても寄り親であるオールデン家の了承なしには取り決めないだろう。
かどわかしも私であれば撃退可能。
(そこら辺の男なら3人くらいはのせるはず。でも相手の攻勢を待つだけなのは面倒なんだよね)
マキシム・ホークの計画はまだ分かっていないし、こちらの予想が外れることもある。どんな手を使うかは早めに認識しておきたい。
(先に仕掛けるか)
我が家の家訓は先手必勝である。




