2 問題の令息
春のチャレンジに参加してみました。まあ主人公が働き出す場面から始まるのでおかしくはないはず?
「ローアン様、新しい護衛が決まりました。こちら寄子の子爵家のご子息です」
執事から私が直接仕えることになる令息を紹介される。
今いる場所は公子様の執務室。
「初めましてブライト・センタリオンです。本日からよろしくお願いいたします」
本名がブライアなので呼ばれてもすぐ返事ができる名前にした。
女学校時代はしょっちゅうブライト様とかブライアン様って呼ばれていたから聞き逃す心配もないし。
「ああ、分かった」
言葉少なに返しているこのイケメンが令息か。
プラチナブロンドのすき間からのそくアメジストの瞳は警戒心が高めだ。
(ふふふ今は心が氷に閉ざされているけれど、これから少しずつ溶けていくのね!)
宰相である父を補佐する有能君なら、いつでも落ちてきていいのだよ。カモン♡
まあ今のところバレた様子はない。
執事は部屋を去り、私は扉の側にひかえた。
部屋にはローアン様以外に側仕えがいる。文字通り男ばかりの職場。
ここから護衛の仕事がスタートする。
いつ女だと見破られるかヒヤヒヤしながらね。
初めからバレてしまったら嫌われるだけ。せめてドキドキ展開を経験してから女だって分かって欲しい。
乙女心は複雑なのよ。金貨も欲しいし。
初めての職場に見えない展開、ワクワクするのは止められない。
(働くからには護衛の仕事も認められたいんだよね)
優秀な女騎士って憧れるじゃん。私は部屋全体を意識した。
公爵家令息のローアン様は執務机に座って書類を読んでいる。
時々側仕えに意見を求め、命令を下す。
側仕えは部屋を出入りするが、ローアン様はずっと机から動かない。
時間が淡々と経過した。
公爵邸に侵入する賊などいないし、誰もこっちを注意しては見ない。
思ったより楽な仕事になるかもしれないな。
コンコン、と扉の外側から音が。
「お坊ちゃま、お茶の時間でございます」
私が扉を開くとガタイの良いメイドがワゴンを運んでいる。
目線は私と同じくらいだ。
彼女はローアン様の部屋に入りテーブルにカップを並べた。
(これくらいなら許容範囲なのか?)
女性が苦手でも時々近くに寄るのは耐えられるのかもしれない。
しかしこっそり公子様の顔色を確認すると眉をひそめていた。
たぶん嫌なのだろう。
私の視線に気がついたようで、メイドはにやっとした。
「お坊ちゃま、こちらは新しい護衛ですか?」
ハスキーボイスの彼女は、主人がうなずくのを見て私に向かってヒザを曲げる。
「初めまして、ボクは坊ちゃまの側仕えでオスカーです」
「ああ、紹介がまだだったな。こいつは男なんだが今はメイドの役割もさせている」
「え」
とてもそうとは見えなかったが、メイドは女装した男子だった。
私は唖然とする。
確かに注意して観察すれば体つきはごつごつしていた。
自分以外に異性のフリをしている人間がいるとは思わないから違和感も持たなかった。
思いこみって大きいのだなと痛感する。
私が不審に思われなかったのもそのせいかもしれない。
「坊ちゃまが少しでも女性に慣れてくれるよう、こうしてスカートをはいています。あなたも慣れて下さいね」
彼はいたずらっぽくほほ笑む。だんだん小悪魔に見えてきたぞ。
「まあ肝心のローアン様がまだ慣れてくれないんですけど」
それは同感。だって側仕えがいきなり女装したら誰だって驚くでしょうが。
「お前の女装に慣れないだけだ」
ほらやっぱり。
「まあまあ」
メイドは主人をなだめている。
「オスカー様でしたか。僕はブライト、どうぞお見知りおきを」
オスカーは私にウインクした。
「こちらこそ、これからよろしくね♡」
なんだろう、いつもの私よりかわいいんじゃないか?
負けた気がするのは‥なぜだろう。




