14 凄腕
ホーク侯爵家は数年前にまだ30代のマキシムが当主へ就任していた。
いかにも才気煥発な方でローアン様は父君と彼がやり合う場面を何度も見たそうだ。
「と言うことは次の宰相を狙っているかもしれませんね」
「第一王子に宰相の座をちらつかされたら分からなくもないな」
どんどん怪しく思えてくる。
「とにかく裏取りだ。マキシム・ホークを調べるぞ」
しかしどうやって調べよう。
「私は父から諜報員を借りられるか聞いてみる」
「ボクはカフェとか調べてみるよ。ホーク家の使用人なら知り合いもいるから」
「それなら俺は酒場か。あそこの護衛が行きつけにしている店を知っている」
オスカーと隊長はカフェや酒場に行く口実を作っただけかもしれないけれど。
やだ私何すればいいんだ?
「ブライトは‥マキシム・ホークを知らないだろう。まずは王宮で顔を覚えろ」
「了解」
私はいつものように公爵家令息の護衛として王宮におもむいた。
マキシム・ホークは大臣の1人。宰相補佐をしているローアン様とは旧知の仲。
王宮なら顔を合わせる機会がいくらでもある。
「ねえ君。ホーク侯爵の執務室ってどこだろう」
王宮侍女を捕まえて部屋を教えてもらった。
「僕初めて会うんだけど、どんな人かな。怖い人じゃないよね」
甘えた感じで情報収集。
「そうですね、あまりお話したことはございません。クールな方って印象ですわ」
法案の根回しのための手紙を持って歩いていたら、進行方向の扉が開いて数人が出てきた。
「ほら、あの方ですよ」
「へえ、カッコいいじゃん」
いかにも切れ者の男は供を従え、私たちとは反対方向へ颯爽と向かって行く。
私は追いかけなかった。
後方を歩く護衛に目を奪われたから。
体格は他の護衛に劣る。しかし細くともまんべんなく鍛えられた筋肉から生み出されるスキのまったくない動き。
一挙手一投足から目を離せなかった。
背中がザワザワするのは魔力を察知したからだろう。強いだけじゃなく魔法も使えるらしい。
「そうなんですよ、ちょっと渋いのもまた人気で」
「やっぱり」
心あらずだけど侍女にはほほ笑みながら返事は返す。あの男に注目していることを悟られたくない。
チラッとだけ視線を感じた。
私は全力で優男を演じる。
「護衛もみんな強そうだ。僕じゃかなわないな」
「ふふ、分かりませんよ」
けして他の護衛のレベルが低いわけではない。オールデン公爵家とも引けを取らないだろう。
ただその男1人だけ段違いなだけで。
やっと視界から一行が消えた。
(私でも勝てない)
汗が頬を伝う。
「どういたしました? お部屋はあそこですけれど」
隣の女の子に心配された。
大丈夫と笑いながら、私はホーク卿の執務室に手紙を届ける。
部屋に残っていた側近は常人だけでホッとした。
「あそこの護衛にヤバいのがいました。下手に探らない方が身のためです」
上司の部屋で急いで報告。
「ブライトにそこまで言わせるとは、用心が必要か」
ハロルド隊長はすぐ公爵家へ使いを走らせた。
私は今まで通りの仕事を続ける。
相手に気を張りつめていることを悟らせてはいけない。
小さい頃家族にイタズラをしかけようとして何度説教されたか。
「これから何かしますって、バレバレなんだよ」
兄には笑われた。
「お前は女の子なんだぞ、こんな荒事は禁止だ。どうしてもやりたいのなら徹底的に隠し通せ」
父には叱られた。
「社交界では相手に敵意さえ気づかせてはいけないのよ。もっと精進なさい」
母の注文はレベルが高すぎてあの時は理解できなかった。
でも今なら分かる。
強敵相手には一瞬のスキが命取りになるのだ。
「ホーク家の護衛では筋肉少ない方ですね。でも私やオスカーよりはタッパも筋肉もあります。灰褐色の髪で目は細めで」
「ああ、あいつか。たまに酒場で見たな」
直接の接触は避けながら、ホーク家の護衛を徹底的に調査した。
男は数年前から雇われているらしい。
マキシム・ホークに常に付き従っているから当主の動向を探るのは難しいことなどが判明する。
「とにかく、マキシムが仕事の時は屋敷の調査をさせよう。来ない日だけ職場の聞きこみだな」
ローアン様が方針を決める。




