13 事件の裏側
『先日はおこしいただき感謝申し上げます。卒業して以来学園をなつかしく思っていましたのでデイジー嬢とお話できたのは喜びでした』
たわいもない内容に添えて、ローアン様の魅力をさりげなく推すのだ。
『お仕えしている公爵家のご子息はとても優しく、高位貴族の方なのに気さくな方です。デイジーのことをほめていました』
デイジーも近況を色々教えてくれた。
その中に寄り親のシルバー公爵家の話も出てくる。
『シルバー家のご令嬢にやっと輿入れがお決まりになりました。婚約を破棄されてからずっと沈んでいたからわたくしホッといたしましたわ。ブライト様は公子様をほめていらっしゃるけれど、あんな素敵な方を袖にするなんて。わたくしには彼の方が信じられません』
あれ? 婚約破棄騒動は元婚約者の自作自演ではなかったのだろうか。
『手紙を読みました。こちらとそちらでは齟齬があるようなので確認いたします』
勘違いがあったら相手に失礼だ。
失礼を承知でオールデン公爵家の見方をデイジーに伝える。
ローアン様が女性嫌いになるきっかけ。
愛した人と結ばれるため婚約破棄した直後にその恋人が失踪した事件。
元婚約者の家が慰謝料欲しさに仕組んだ罠だと思われてきた。
『こちらの認識が間違っていたら教えて欲しい』
数日後、ローアン様に元婚約者から手紙が届いた。
「ブライトも読んでくれないか? 意見が聞きたい」
蒼白なローアン様から手紙を受け取る。
『ごぶさたしておりますオールデン子息、最近は肌寒さも和らいできましたね』
手紙は時候の挨拶から始まる。
『昔を蒸し返すようで申し訳ありません。この場を借りてお伝えしたいことがございます』
私は手紙に目を走らせた。
『あなた様との婚約解消を願っていたことは事実でございます。その後あなたがご執心だった男爵令嬢がわたくしの手先だった噂が社交界で囁かれているとか。しかしわたくしも我が家も、あなたに別のお相手を当てがうことなどいたしません。おそらく他の勢力の仕業でしょう』
やはり聞いていた情報は間違っていたのかも。
『こちらの仕業と思われるのも心苦しいのでお伝えしました。元婚約者の情けとお思い下さい。身の回りにお気をつけあそばせ』
どうも令息の心を手に入れたとたん消えた男爵令嬢は、別の誰かの手先だったようだ。
「スノウ・シルバー嬢のせいではなかったのか‥私は何度間違えば賢くなれる?」
うつむき震える令息に私は歩み寄る。
「調べましょう、真実を」
責任感が強いわけではない。野次馬根性もあるだろう。
まあ女性に慣れさせる任務が必要なくなりそうだから、他の成果をあげたいだけかもしれないけどね。
私の宣言にオスカーも賛成した。
「そうだよ、ボクだって何があったか知りたいし。ローアン様を傷つけてシルバー嬢に責任なすりつけた犯人に責任とらせてやりたいですよ」
「これはオールデン家とシルバー家の間を裂こうとした陰謀かもしれません」
護衛隊長の言葉は妙に説得力があった。
私たちは情報を整理する。
公爵家の令息をたらしこんだのはライラ・サルバン男爵令嬢。
ローアン様の婚約が破棄された途端領地に戻った。
サルバン男爵自体は社交界に時々出席するらしい。
貴族年鑑を引っ張り出してスミからスミまで目を通す。
サルバン家と同じ派閥の貴族家の中に知り合いを探したすため。
連絡を取り男爵家の内情をさぐるのだ。
私も学生時代に仲が良かった令嬢に手紙を出した。
調査の結果、サルバン男爵家は羽振りがかなり良いことと、ライラ嬢が裕福な商人の妻になっていたことが判明した。
王国屈指の商会は大貴族とも関係を持つ。
「ヌメラウス商会はたしかホーク侯爵家とつながりが深いようはずだ」
しかしホーク侯爵家とオールデン家はどちらも第二王子派である。
「第一王子に鞍替えするとしても、まさかそこまでするか? 確かに私に問題がおこれば派閥も揺らぐが‥まさかねらいは父上?」
宰相の息子が恋に溺れて婚約破棄すれば、親の評判にも傷がつく。
現オールデン公爵に瑕疵をつけるのは難しいから息子をねらったのかもしれない。
「ホーク家を調べる必要が出てきましたね」
私はドキドキしてきた。




