11 可憐な後輩
「ブライトお姉様?」
私は昔散々聞きなれた呼び方で呼ばれる。
ギギギと首を回すと、数歩先に学性時代の後輩がいた。
(やっべえ)
背筋が凍る。
「失礼」
一言断ってから彼女の腕をつかみバルコニーへ引きずりこんだ。
(どうする? 事情を説明する? いや仕事内容は他言禁止だし)
どこまでなら伝えられるのだろうか?
「お姉様、どういたしましたの?」
キョトンと首をかしげるこの子は‥確かデイジー・フローレス。
私は女子校に通っていた。
女子校には当たり前だが男子生徒がいない。
私のような背の高い中性的な顔立ちの生徒は男子の代わりにモテモテになったのだ。
私も面白がって彼女たちの要望に乗っかっていた。
気がついた時には学園の有名人になってしまう。
後輩たちにも随分付きまとわれた記憶がある。
その中でもデイジー・フローレスは特に熱心で、私の親衛隊のメンバーだった。
(事情をバラしたら何を要求されるか分かったものじゃない!)
ダラダラ汗を流す私に、彼女は笑顔で言い切った。
「やっぱりお姉様は心が男の方だったのね♡」
うん、問題ない。
それで押し通そう。
心は折れるけどそれが一番だ。
私は今だけ心と体の性別が違うことにする。
「そ、そうなんだよ。実は今、女性だって隠しながら働いていてさ。黙っていてくれると助かるんだけど」
デイジーは満面の笑顔でうなずいた。
何か最近の私、周りを騙してばっかりだな。心が痛むよ。
「分かりましたわ。でも、その代わりに‥ダンスを1曲踊っていただける?」
何が来るかと身構えてはいたが、お願いはかわいらしいことだった。安心して手を差し伸べる。
「もちろんですよ、お姫様」
事情を知っている相手だし手加減はしなくてもいいかな。
会場に戻り全力で踊った。
「はあああ、やっぱりブライト様のリードは最高ですわぁ♡」
とろけそうになるデイジーを支えていると、ローアン様に手招きされる。
令嬢をイスに座らせてから主の元に急ぎ戻った。
「お前、目立ち過ぎだぞ」
何の用かと思ったらお小言だった。
周りを見渡すと幾多の令嬢からウットリと見つめられているねえ。
「う、すみません。知り合いに会えたのでつい」
「そうか、あの令嬢と‥」
頼むので恋仲とか邪推しないで下さい。
「か、かわいい子だったな‥仲が良かったのか?」
そうなるよねーと思ったが、ローアン様の様子がいつもと違う。
「その、ブライトの恋人とかじゃないんだよな?」
若君の目はデイジーを追っていた。
(え)
これはもしかしたらもしかするのか?
私では無理だったことだけどデイジー嬢には可能だと?
「話したければ連れて来ますよ」
気軽なフリで提案し、ローアン様の様子をうかがう。
「いやいやいや、別にそこまでしたいわけじゃないんだ」
否定されてしまったが、それでも興味はあるらしい。
「彼女の名前を教えてくれるか」
とりあえず私はデイジーについて、出身校以外の情報を教えた。
伯爵家の3女だとかほがらかな子だとか猫が好きだとか。
「婚約者とか‥思い人はいるのだろうか?」
さあ、と受け流す。
好きな男? が私かもしれないことは黙っておこう。
公爵令息の心の氷が溶けるかもしれないのに、なぜか心がモヤモヤする。
(なんで‥ああそうか)
それは自分がしたいことだったから。私じゃない他の令嬢に嫉妬しているんだ。
私は頭を振る。
今は仕事中だ。ショックからは目をそらしておこう。




