空虚の終わりではなく、己を鍛える始まり
朝日が忍び寄るように大地を照らし始め、夜が明ける。露に濡れた木々の葉が陽光を反射している。
鳥たちが飛び立ち、新しい一日が始まる。コーヴィアンは釣り竿と何点かの道具をバッグに詰め込む準備をしていた。
「今日こそノクティラ山の湖の魚を征服してやる」
彼は鏡の前に立ち、祖母にもらったネックレスを握りしめると、胸の奥に何か引っかかるものを感じた。
コーヴィアンはその白い石のネックレスを握りしめながら微笑んだ。
「始まりは虚無の終わりじゃなく、自分を鍛える経験なんだ」
「ふと、父さんが神様や英雄の伝説を話してくれた時の言葉を思い出しちゃったよ」
ドアを開けると、そこには一人の上級生が鋭い目つきで立っていたが、彼は軽くうなずいただけで階段の方へ去っていった。
[あの先輩にはいつも驚かされる。まるで幽霊みたいだ] とコーヴィアンは心の中で思った。
コーヴィアンは寮舎「シリウス」から外へ出ると、さっきの先輩がグラウンドの真ん中に立ち、空を見上げているのが見えた。
コーヴィアンが歩き出そうとした瞬間、その先輩が彼に近づいてきた。
「待て、お前、魚釣りに行くのか?」と先輩が尋ねた。
「はい、釣りに行こうと思ってます」とコーヴィアンは答えた。
「俺の名前はサイラス・ベイリーだ、後輩」とサイラスは静かに言った。
「よろしくお願いします、サイラス先輩」とコーヴィアンは返した。
「で、お前の名前は?」とサイラスが尋ねた。
「コーヴィアンです、先輩」とコーヴィアンは答えた。
「お前、貴族じゃないだろ?」とサイラスが尋ねた。
「私はただの平民です、先輩」とコーヴィアンは答えた。
「結構…」とサイラスは静かに言った。
「ここらの貴族の生徒どもにはうんざりなんだ。自分たちを偉いと思い込んでるガキばかりでな、自己中で」とサイラスは付け加えた。
「すみません先輩、今からノクティラ湖に行きたいので」とコーヴィアンは言った。
コーヴィアンはすぐにレモリア学園の門へと向かい、門番に出会った。
「おはようさん、坊主。釣りに行くのか?」と門番が尋ねた。
「はい、ノクティラ湖に釣りに行こうと思ってます」とコーヴィアンは答えた。
門番は詰所へ行き、牛の心臓が入った袋を持ってきて、コーヴィアンに渡した。
「これは何のためですか?」とコーヴィアンは尋ねた。
「それを湖に投げ入れるんだ。魚を集めるためにね」と門番は答えた。
「ありがとうございます」とコーヴィアンは言った。
「じゃあ、戻ってくる時に俺にも魚を一匹持ってきてくれよ」と門番は微笑んだ。
「はい、では行ってきます」とコーヴィアンは言った。
「ああ、暗くなる前に戻って来いよ」と門番は言った。
コーヴィアンは微笑み、うなずいた。しばらく歩いていると、誰かが自分をつけてきている気がした。
「きっとラスクがまた俺を驚かせようとしてるんだ」とコーヴィアンは静かに呟いた。
振り返ると、なんとサイラスが片手を上げていた。
「俺も一緒にノクティラ湖へ釣りに行きたい」とサイラスは言った。
「でも、どうして先輩は声をかけてくれなかったんですか?」とコーヴィアンは尋ねた。
「お前が先に行っちまったからだ。それと、俺のことはサイラスでいい。『先輩』と呼ばれるのは好きじゃない」とサイラスは言った。
「ごめんなさい、早く行きたくて」とコーヴィアンは言った。
「いいさ、さあ行こう。お前が釣りをするところを見てみたい」とサイラスは言った。
二人はノクティラ湖へ向かって歩き出したが、コーヴィアンは突然立ち止まった。
「どうして止まるんだ?」とサイラスが尋ねた。
「ちょっと待って、サイラス。あのランプを持っているおじいさんに聞きたいことがあるんだ」とコーヴィアンは答えた。
二人はその老人に近づいた。
「すみません、おじいさん」とコーヴィアンは静かに声をかけた。
「やあ、何か用かい、若者?」と老人は答えた。
「どうしていつも人に質問をしているんですか?」とコーヴィアンは尋ねた。
「私はただ、物事を尋ねることで、他人の考えを知りたいだけなんだよ」と老人は答えた。
「旦那、もしかしてあなたが、昼間にランプを持って歩いてるって言われてる『狂人』ですか?」とサイラスが尋ねた。
「ああ、そうだよ、若者。人々は私のことを、変な質問をする狂人だと思っている」と老人は答えた。
老人はランプを二人の方へ掲げた。
「さて、君たちに尋ねたい。『リーダー』とは何だと思う?」と老人は付け加えた。
「集団の方向性を決める者のことだ」とサイラスは言った。
「どんな状況でも決断を下せる人のことです」とコーヴィアンは言った。
「君たちの答えに感心したよ、若者たち」と老人は微笑んだ。
「しかしリーダーとは、集団の過ちの責任を取ること、あるいは、何を犠牲にし何を守るかを選べる者でもある」と老人は付け加えた。
「あなたの考えはとても興味深い。貴族の連中からそんな話を聞くことは滅多にない」とサイラスは言った。
老人は微笑んだ。
「『犠牲にし、守る』というのは、どういう意味ですか?」とコーヴィアンは尋ねた。
「もし二人の者がいて、一人は重い病気、もう一人は致命的な深手を負っている。だが、治癒の薬は一つしかない。君たちはどちらを選ぶ?」と老人は質問を返した。
「俺は深手の方を治す。病人の方は休んでいればいい」とサイラスは答えた。
「僕は二人とも治す方法を探します」とコーヴィアンは答えた。
「答えてくれてありがとう。しかし、集団の良し悪しは、リーダーの考え方次第だ。そして、君たちはきっと素晴らしいリーダーになるだろう」と老人は言った。
老人は歩き去ろうとした。
「待ってください、旦那」とサイラスは言った。
老人の足が止まった。
「どうしたね、若者?」
サイラスは金貨の入った袋を取り出した。
「これを受け取ってください」とサイラスは言った。
老人はそっとその袋を押し返した。
「私は金のためじゃないんだ。自分の考えを整理し、自分を磨くためにやっている」と老人は静かに言った。
「しかし、せめて何かお返しをさせてください」とサイラスは言った。
「どうしてもと言うなら、食べ物を恵んでくれないか」と老人は言った。
「おい、コーヴィアン。あの店に行って、パンとチーズと燻製肉を買ってきてくれ」とサイラスは金貨を一枚渡しながら言った。
「なんで僕が行くんですか?」とコーヴィアンは尋ねた。
「いいから、ぐずぐずせずに行け」とサイラスは言った。
コーヴィアンはその店に行き、パン、チーズ、燻製肉を買い、袋を持って二人のところへ戻った。
サイラスはコーヴィアンから袋を受け取り、老人に渡した。
「ありがとう、若者」と老人は言った。
「いいえ、こちらこそお礼を言いたいです」とサイラスは答えた。
「おじいさん、あなたのおかげで、視野が広がりました。ありがとうございます」とコーヴィアンは言った。
老人は微笑み、食べ物の入った袋を担いで去っていった。
[今度こそ、あのおじいさんの名前を聞かなきゃ] とコーヴィアンは去りゆく老人を見送りながら心の中で思った。
「さあ、ノクティラ山の湖へ行こう」とサイラスは言った。
「待ってください。僕の飼い狐のルーシーを迎えに行きたいんです」とコーヴィアンは言った。
「じゃあ、歩きながら行こう」とサイラスは言った。
「はい、先輩」とコーヴィアンは答えた。
数時間後、彼らは三人(コーヴィアン、サイラス、ルーシー)でノクティラ山に到着した。
見渡す限りの巨木、密集した葉でやや薄暗い森の中は、空気が少し湿っていた。
「なかなかいい森だな」とサイラスは深呼吸しながら静かに言った。
「先輩、どうして僕が貴族かどうか尋ねたんですか?」とコーヴィアンは尋ねた。
サイラスはしゃがみ込み、地面に何かを書くために小枝を拾った。
「ああ、俺はベイリー家の貴族の息子だからな」
「先輩が貴族だったなんて。てっきり裕福な商人の息子かと」とコーヴィアンは言った。
ルーシーがコーヴィアンの肩から降りてサイラスに近づき、突然、止まらずにクシャミをし始めた。
「コーヴィアン、こいつをどけてくれ。俺は猫と狐の毛にアレルギーがあるんだ」とサイラスは鼻をこすりながら言った。
「すみません先輩。ルーシー、おいで」とコーヴィアンは言った。
ルーシーは再びコーヴィアンの肩に上がった。
「先輩、釣りをしながらのんびりできる良い場所を探しましょう」とコーヴィアンは言った。
「わかった。でも、その狐を近づけるなよ」とサイラスは目を赤くし、鼻水を垂らしながら言った。
彼らはノクティラ湖のほとりを歩いた。湖面には多くの水草が生え、数匹の昆虫が湖の上を飛び交っていた。
「ここが良さそうだ」とコーヴィアンは言った。
コーヴィアンは釣り竿の準備をし、牛の心臓を湖に投げ入れてから釣りを始めた。
「それ、門番の爺さんの牛の心臓だろ?」とサイラスが尋ねた。
「はい、そうです、先輩」とコーヴィアンは答えた。
サイラスはあくびをして口を押さえた。
「コーヴィアン、釣り終わったら起こしてくれ」
「はい、先輩」とコーヴィアンは答えた。
サイラスは低い枝のある木のところへ行き、自分のマントで顔を覆って眠った。
「あの影はどうしてずっと『ご主人様』と呼び続けるんだろう。『支配するか、支配されるか』の意味も含めて、まだ考えちゃうな」とコーヴィアンは呟いた。
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