9.鈍感聖女は、勇者の恋を全力で誤解する
王城での“仮新婚生活”にも、少しずつ慣れてきた。
もっとも甘い新婚生活なんてまったくなくて、毎日ドタバタばかりなんだけど。勇者様と過ごす時間は、やっぱり楽しい。
……ただ最近、勇者様はどこかおかしいんだよね。
何かをぶつぶつ思い出すみたいに小声でつぶやいては、急に妙な行動をしてくるのだ。
◇◆◇◆◇
ある夜、二人で部屋に戻ったときのこと。
勇者様が真剣な顔で、私のほうへぐっと身を寄せてきた。
「……おいヒマリ。前にも言ったけど……その、俺のことはノイシュって呼べ」
「えっ?」
「勇者様じゃねぇ! ノイシュ、だ!」
ああ、これ、前にも一度言われたやつだ。
今回も勇者様は必死に唇を動かしていた。「リオが名前で呼ばせて……距離を……」とかなんとか。
聞き取れなくて首をかしげると、彼は慌ててそっぽを向いた。
「勇者様、今なんて?」
「な、なんでもねぇ!」
……やっぱり、姫様との呼び方に慣れるための練習なんだ。
「ふふっ……勇者様は真面目ですね。エリシア様に自然に呼んでもらえるように練習してるんですね? じゃあ私でいっぱい練習してください!」
「~~っ! ち、ちがっ……もうやめろ!」
耳まで真っ赤にして頭を抱える勇者様。……ほんとに不器用だなぁ。
◇◆
翌日の昼、中庭を散歩していたとき。
「おいヒマリ! 手……出せ!」
「え? 手ですか?」
「い、いいから!」
差し出した手を、勇者様がぎゅっと握ってきた。
ひゃっ……! 大きくて温かい。けど勇者様の顔は真っ赤で、やたらと真剣。
「勇者様、今なんて言いました?」
「な、なんでもねぇ!」
「……わぁ! 姫様と自然に手をつなげる練習ですね!」
「ち、ちがっ……!」
そのやり取りを、通りがかった侍女たちが遠巻きに見ていた。
「まぁ……勇者様と聖女様、仲睦まじいこと」
「見ているこちらまで幸せになりますね」
……えっ? どうしてみんな、そんなに楽しそうに笑ってるんだろう。
◇◆
さらに翌日。勇者様は不自然に切り出した。
「……ヒマリ。あ、明日……街に行くぞ」
「えっ?」
「い、いいから! 夫婦なんだから……じゃなくて……」
また口元がぶつぶつ。「デートに誘えって……」って聞こえた気がする。
「勇者様、何か言いました?」
「な、なんでもねぇ!」
「あっ! 姫様をデートに誘う練習ですね!」
「~~~~っ!!」
勇者様は頭を抱えて真っ赤になってしまったけど、私は妙に納得していた。
◇◆◇◆◇
その夜、もっと大事件が起きた。
「……ヒマリ、ちょっと立て」
「はい?」
「い、いいから!」
勇者様が突然ぐっと近づいてきて、腰に手を回した。ふわっと体が浮いて――
「きゃぁぁっ!?」
勇者様に抱き上げられた――と思った瞬間、力が入りすぎて、そのままバランスを崩して床にごろん。
顔が近い。近すぎる。彼の息が頬にかかる距離で、口元が小さく動いた。
「リオの言う“ショウジョマンガ”のようなお姫様抱っこする予定が……」
「勇者様、今なんて?」
「な、なんでもねぇぇぇ!!」
勇者様は飛び起きて耳まで真っ赤。
私はぽかんと見送るしかなかったけど……あれ、今のって、やっぱりお姫様抱っこの練習?
ああ、きっとそうだ。エリシア様を抱き上げるために、私で予行演習してくれたんだ。
……うん、少しずつ、少しずつ。勇者様とエリシア様の距離は近づいている。
私が“仮結婚”をして、エリシア様との仲を後押ししてあげたおかげで、二人の仲が進展してるんだ。
きっともうすぐ二人が結ばれるにちがいない。
そう思うと胸があたたかくなって、幸せな気持ちになった。
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次回は本日20時すぎに更新予定です。
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