50.鈍感聖女は、騒がしい幸せに包まれる
あれから――それぞれの人生がまた動き出した。
勇者様――ノイシュは、今は「元の世界」と「こっちの世界」を自由に行き来している。
彼がかつて魔王討伐の褒章として受け取った【転送の指輪】。
実は勇者の力なら自由に使えるんだって。
その効果を知っていたのは勇者様だけで、あとで王様が両手を振り上げて「ずるい!」と悔しがった話は、今も城の笑い話になっている。
エリシア様はというと、相変わらず私のことになると一途でまっすぐ。
「花嫁修業ですの!」と言いながら礼儀作法から料理まで、なんでも本気で取り組んでいる。
侍女たち曰く、毎日欠かさず日記に“今日の私とヒマリ様の一日”を書き記しているらしい。……その一途さに胸がぎゅっとなる。
もちろん、みんなを私の家族にも紹介した。
まじめな父は最初すっごく疑ったけど、異世界に連れていって会ってもらったら、さすがに観念して納得してくれた。
母はというと、「まあ! 素敵じゃない!」とあっさり受け入れてしまった。……うん、やっぱりおおらかだなあ。
莉央とアルバートさんは相変わらず。
ただ最近、莉央が「アルバートまじで空気読めない!」って愚痴る回数が増えてる。……素直じゃないんだから。
エルリック様は――セリーナを含めて五人の女性と結婚した。
セリーナが正室なんだって。他の奥様たちも楽しそうで、思った以上に平和な家庭を築いている。
先日領地に遊びに行ったときも、セリーナさんは元気いっぱいで、エルリック様とすごくお似合いだった。
あの笑顔なら、きっと大丈夫。
そして私はというと、学校と異世界を行き来する毎日。
ちょっとドキドキ、でもとても充実している。
◇◆◇◆◇
「期末テストなんて、魔法でドカーンって吹っ飛ばせたらいいのにな~!」
放課後のハンバーガーショップ。
莉央がポテトを指揮棒みたいに振り回しながら、危ない発言をかます。
「ちょっと! やめてよ! ほんとに炎上するから!」
「あははっ、炎上? むしろ派手でカッコいいじゃん」
にやにや笑う莉央に、私は思わず机を叩いた。
もう、なんでそうなるの!?
「ヒマリー!」
突然、背中から抱きつかれた。
「えっ、エリー!? どうして!?」
振り返ると、つややかな黒髪を揺らした美少女――エリシア様。
いや、もう“エリー”って呼んでる。
今日はなんと、私と同じ制服を着ていた。
白いブラウスにリボン、深い藍色のスカート。気品あふれる彼女には驚くほど似合っていて、周囲の視線を独り占めしている。
「おもてむきは“こちらの教育機関で学びたい”って理由にしましたの。許可はちゃんといただいてきましたわ」
「えぇ……絶対に根回し大変だったでしょ……」
「ヒマリは、嬉しくないの?」
真っ直ぐな大きな瞳に射抜かれて、胸がどきんと跳ねた。
「も、もちろん! 嬉しいに決まってます!」
「ふふっ。相手の世界を知ることも、花嫁修業の一環ですから!」
「ちょ、ちょっと待ってください! 声が大きいですって!」
……と思ったら、周囲からどよめき。え、今度はなに!?
「ヒマリ! 聞いてくれ!」
振り向けば、金髪のイケメンが立っていた。
ノイシュ――勇者様。彼も同じ制服を着ていて、めちゃくちゃ目立っている。
周囲の女子たちが「だれ!?」「モデル!?」「ハーフ!?」と騒ぎ出した。
「俺も学校とやらに通えることになった! これで毎日一緒だ!」
「なっ……!」
「わかってると思いますけど!」
すかさず、エリーが前に躍り出る。
「ヒマリの正妻は、わたくしですから!」
「俺は“嫁”になるつもりはねぇけど……ヒマリは嫁なんだよ!」
「ちょ、なんで言い直すんですか!?」
なんだこの修羅場!? 注目されてるからやめて~~!
「陽葵、大変だねー」
「……だな」
低い声で相槌を打つ人影。
え、なんで自然にいるんですか、アルバートさん!? 制服姿が似合いすぎて逆に怖いんですけど!?
「莉央、知ってたでしょ!」
「まあね?」
莉央がポテトをかじって肩を竦める。
気づけば、私の周りは大騒ぎ。
黒髪のエリー、金髪のノイシュ、無口なアルバート、にやけた莉央。
みんな制服姿で集まってるなんて、どこの乙女ゲームですか!?
でも――不思議と、笑顔になってしまう。
にぎやかで、平和で、ちょっとドキドキする日常。
こんな幸せな日々が、ずっとずっと続きますように。
ここまでお読みいただきまして、ありがとうございました。
物語は以上で完結になります。
このお話が少しでも心に残りますように。




