49.鈍感聖女は、真っ直ぐな想いに揺れる
どうしよう。
エリシア様に突然プロポーズされちゃって、胸の奥がまだどきどきしてる。
あの真っ直ぐな瞳で「ずっと愛していました」なんて言われて……正直、今でも頭がぐるぐるしている。
だけど、その一方で――勇者様の気持ちも知ってる。
彼がエリシア様をどれだけ大切に思っていたか、私はずっと見てきた。
旅の間も、戦いの時も、あの人はエリシア様を守るために何度も傷ついて、それでも立ち上がってきた。
だからこそ、私は心配だった。勇者様はどんな顔をしているんだろう。傷ついてはいないだろうか。
……いや、きっと大丈夫。
勇者様なら、いつか必ず素敵な相手に出会える。そう信じていた。
◇◆◇◆◇
「ヒマリ」
夕焼けに染まる城下の裏庭。
背後から呼ばれた名前に振り返ると、勇者様――ノイシュが立っていた。
剣を腰に差したまま、不器用な立ち姿。でもその瞳は、いつもよりずっと真剣だった。
「勇者様……」
胸が高鳴る。いやいや、落ち着いて。きっと“エリシア様を幸せにしてくれ”とか、そんな話をするために呼ばれたんだ。
だから私は、先に言わなきゃって思って――。
「だ、大丈夫ですよ! 勇者様なら、絶対に素敵な人と出会えますって!」
一生懸命に励ましたつもりだった。これなら勇者様も少しは楽になるはず――そう思ったのに。
「……は?」
返ってきたのは、ぽかんとした声。え、なにその反応!? え、え、励ましのつもりだったんですけど!?
「えっと、その……勇者様は立派だし、頼りがいあるし、優しいし……絶対に素敵な女性が――」
「お前だ」
「……へ?」
「俺が好きなのは……ヒマリ。お前だ」
「ええええええええええええええええっ!?」
頭が真っ白になった。耳まで真っ赤になってるのが自分でもわかる。
な、なに言ってるのこの人!? だって勇者様って、エリシア様が……!
「ずっと伝えてたつもりだった。だけど……お前ってほんと鈍感だからな」
「し、失礼な! だ、だって、そんなの……」
「わかるだろ普通」
「わかりません! だって勇者様、いつも不愛想で!」
言い合いなのに、顔が近い。鼓動がバクバクして、息まで乱れる。
「不愛想じゃねぇ! 照れてただけだ!」
「今さら照れ隠ししてたとか言われても!」
「……もう一度言う。ヒマリ。俺はお前が好きだ」
真正面から、まっすぐに。
その言葉に胸を撃ち抜かれて、呼吸が苦しくなる。
「な、なんでそんな……急に……」
「急じゃねぇ。ずっとそうだったんだ」
「っ……!」
これまでの旅の記憶が、一気に蘇る。
初めて出会った日、不器用に手を差し伸べてくれたこと。
魔物に囲まれたとき、血だらけになりながら私を庇ってくれた背中。
夜、怖くて眠れなかった私に「バカだな」って呟きながらも焚き火のそばで一晩中見張ってくれたこと。
全部、全部、彼らしい不器用さで――でも、確かに優しくて。
勇者様の手が伸びてきて。
途中でためらい、でも覚悟を決めたみたいに私の手をぎゅっと握った。
「……っ!」
「手、冷たいな」
「う、うるさいです!」
「でも、ちゃんと掴んでるからな。もう絶対離さねぇ」
大きくて、温かくて、少し汗ばんでて……不器用そのものの手つなぎ。
だけど、その不器用さが愛おしくて、胸がぎゅっと締め付けられる。
「勇者様……いえ……ノイシュ……」
「……なんだ」
「そんな真剣な顔、ずるいです」
「お前のせいだろ。俺を真剣にさせてんのは」
――でも。
頭の中に浮かんでしまうのは、あのときのエリシア様。
潤んだ瞳で「愛していました」って言ってくれて、頬まで真っ赤にして、黒髪が揺れて……。
必死に想いをぶつけてきたあの姿を、私がどうして忘れられるんだろう。
あんなにも真剣に支えてくれて、導いてくれた彼女の気持ちを、無視できるはずがない。
勇者様の瞳。
エリシア様の瞳。
どちらを見ても、胸が締め付けられて、答えなんて出せそうにない。
「……私も――」
言葉はそこで途切れた。
私の答えは、まだ心の奥にしまったまま。
夕焼けの光が、赤く二人の未来を照らしていた。
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次回で最終回の予定です。
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