5.鈍感聖女は、お茶会で恋の火種をまき散らす
王城の庭園に設けられた白亜のテーブル。
白い大理石で縁取られた噴水から水が涼しげに舞い上がり、バラやラベンダーの甘い香りが風にのって漂ってくる。
花の香りと水音に囲まれて、豪華なお茶会が始まろうとしていた。
その中央、青と白のクロスが掛けられた丸テーブルには、銀食器と小花をあしらったティーセットが並んでいた。
甘いケーキや果物が盛られた皿を前にして、まるで夢のような「お茶会」の舞台だ。
「わぁ……! 本当に絵本みたい……」
私は思わず声をあげてしまった。
だって、こんな豪華なお茶会なんて、元の世界にいた頃は絶対に経験できなかったから。胸が弾んで仕方ない。
「ねぇ陽葵~、昨日の夜どうだったの~?」
ポニーテールにまとめたピンク色の髪をぶんぶん揺らしながら、莉央が身を乗り出してきた。
にやにや笑いで完全にからかいモードだ。
「ど、どうってなにが!?」
「決まってんじゃ~ん。同じ部屋で寝たんでしょ? 何もなかったのかな~? ホントにぃ~?」
「寝室はちゃんと別々だよ。それに、私たちは契約結婚なんだから!」
「えぇー? マジでぇ? 勇者さま、ビビって何もできなかった系~?」
莉央が勇者様をちらっと見て、にやにやする。
勇者様はカップを乱暴に置き、顔を赤くしながら言い返した。
「だ、だれがビビっただ! 俺がっ……っなにかすると思ったのか!?」
「えー? するんじゃないのぉ? だって新婚さん」
「ちょっ……っ、黙れリオ!!」
声を裏返す勇者様に、私はあわてて手を振った。
「莉央、ダメだよ! 勇者様は私に興味なんてないってば!」
「えっ? ち、違っ……!」
勇者様がふいっと顔を背ける。耳まで真っ赤だ。
……うん、この反応、ちょっとかわいいかも。けど私はにっこり笑って場を和ませることにした。
「勇者様は一途で誠実なんだから、安心していいんだよ」
そんな微妙な空気の中――。
「ヒマリさまぁ!」
ぱたぱたと駆けてきたエリシア様が、私の腕にぎゅっと抱きついてきた。
「ヒマリさまぁぁぁ……っ!」
「ひゃっ、エ、エリシア様!?」
お姫様の薔薇みたいな香りがふわっと広がって、私は慌てて受け止めた。
「昨日ぶりですけど!? え、ちょ、そんな泣かないでください!」
「昨日だろうと今日だろうと、わたくしにとっては長すぎるのですわぁぁぁ……っ!」
……いや、そんな勢いで抱きしめられたら、心臓もたないんですけど!?
「昨日からずっと落ち着きませんでしたわ……! 本当にご結婚なさったなんて……」
「え、ええと……仮の、ですけど……」
「仮でもっ! ヒマリ様が他の男性のものになるなんて……」
頬をふくらませるエリシア様。
勇者様をちらっと睨んでいるのに、私は気づいてしまった。
いやわかってますとも! 勇者様がエリシア様を大好き過ぎて、私に嫉妬してることくらい。
「エリシア様、嬉しいんですけど! 勇者様の視線が怖いので落ち着きましょう、ね?」
「勇者様……ヒマリさまに無体を働いたら、わたくし絶対許しませんから!」
「はぁ!? 俺は何もしてねーし! つか、なんで俺が悪者みてぇになってんだよ!」
勇者様の声が裏返り、テーブルの上のティーカップがかたんと揺れる。
莉央はそれを見て、肩を震わせて笑っていた。
「出た、陽葵の天然応援モード!……これ三角関係? 最高の修羅場じゃん!」
「笑いごとじゃないから! 私はみんな仲良くしてほしいのに!」
私は両手を広げて、場を明るくまとめようと必死になる。だってせっかくのお茶会なんだから、楽しくしたい。
その時、背後から涼しい声が響いた。
「――やぁ。修羅場などと呼ぶにはあまりに可憐すぎる光景だ。むしろ“舞台”だね。ヒマリ、君という主役がいる限り、世界はすべて祝福に変わる」
ゆったりと歩み寄ってきたのは、銀髪をなびかせた第二王子のエルリック様だった。
椅子を引いて私の隣に腰掛けると、優雅に微笑む。
「勇者ノイシュ、聖女ヒマリ。ご婚約、おめでとう。――たとえ仮初めだとしても、君の笑顔がこうして輝いているなら、祝福するに値すると思わないか?」
「は、はい……ありがとうございます! 仮ですけど」
にこやかに告げながらも、彼の瞳がほんのわずかに揺れているのを、私は見てしまった。
……あれ? なんだか少し……寂しそう?
でも今この場で、暗い空気は似合わない。だから、笑顔を返す。
「でも、こうしてまた集まれて嬉しいです!」
私の言葉に、ほんの一瞬だけエルリック様の瞳がやわらいだ気がした。
その視線に気づいたのか、エリシア様は眉をひそめてエルリック王子を睨む。
「ヒマリ嬢、君が微笑むだけで、この庭園の薔薇も、噴水の雫も、すべてが君を称えているように見えるよ」
「お兄様、ヒマリさまを惑わせるようなこと、なさらないでくださいね」
「ふふ……妹よ、それは嫉妬というものでは?」
「ち、違いますわっ!」
ますます赤くなるエリシア様。
その横で、勇者様はカップを強く握りしめていた。
「……お前、あまりヒマリに歯の浮くセリフを言わないでくれよな」
「おや、勇者ノイシュも嫉妬ですか?」
「ち、ちげーよ!!」
また声が裏返ってる。
莉央は「ぷぷぷっ」と必死に笑いをこらえていた。
そんな賑やかな空気の中、無言で席に着いたのは――大盾を背負ったアルバート。
彼は当たり前のように莉央の隣に腰掛け、皿にケーキを取り分けてそっと差し出した。
「……甘いの、好きだろ」
「えっ、あ、ありがとアルっち! マジ神~!」
「わぁ、アルバートさんってほんと頼りになりますね。莉央も幸せそう!」
「ちょ、陽葵! 変なフラグ立てんなし!」
莉央が笑顔で受け取ると、アルバートはわずかに口元をほころばせた。
普段無表情な彼の、ほんの少しの変化。
でも、それは莉央に向けられた確かなアピールだったりして。
ツンデレ気質で強いのに、不器用でちょっと可愛い勇者ノイシュ。
ピンクのポニーテールを揺らし、陽キャ全開で場をかき回す大魔法使いの莉央。
大盾を背負い、いつだって寡黙にみんなを守ってくれた戦士アルバート。
冷静沈着で策士、でも時々意地悪に笑う第二王子エルリック様。
そして――冒険には出なかったけど、いつも陰から私たちを支えてくれたエリシア姫。
こうして顔をそろえると、やっぱり「私たち勇者パーティー」なんだなぁって思う。
ちょっと騒がしくて、ちょっと恥ずかしくて、でも……大好きな仲間たちと、また一緒に笑えることが何より嬉しかった。
――そんな風にして始まった勇者パーティー再会のお茶会は、和やか……なのか騒がしいのか、とにかく賑やかに幕を開けたのだった。
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次回は本日22時30分すぎに更新予定です。
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