44.鈍感聖女、堕ちた王子と再会する
――突き進んだ先で、待ち構えていた影。
やっぱり……いた。
闇の奥に、妖艶な姿が浮かび上がる。紅い瞳、濡れたように艶めく黒髪。肌は不気味に光沢を帯び、人とも獣ともつかない。背には大きな黒翼を広げ、見る者の心を圧する存在感。
色欲の魔物――ベルサリス。
かつて勇者様と共に討ち倒したはずの、魔王軍四天王。
「どうだ、俺の作り出した地獄は!」
低い声が石壁を震わせた。
「この城に生きる人間すべてがお前らの敵だ!」
直後、廊下の奥から荒々しい足音と呻き声。
操られた人々が再び無数に押し寄せてくる気配。私は両手をかざす。
「――光よ、私たちを守って! 【加護結界】!」
白光が奔り、広間を取り囲むように壁を築いた。押し寄せた人々が結界に激突し、鈍い衝撃音を立てる。
必死に叩いているけれど、中には入ってこれない。
壁の内側に残った人々は、勇者様や仲間が一瞬で制圧してくれた。
「ちっ、聖女の力か。相変わらずうっとおしい……だが、この程度の結界など!」
ベルサリスの黒い爪が振り下ろされる。
「守りは任せろ!」
アルバートさんが大盾を差し出し、火花が散った。
すかさず、勇者様の剣が閃き、ベルサリスの腕と打ち合った。衝撃で空気が震える。
「……やはりその剣か! 聖剣、忌まわしい!!」
「どっかーん! まだまだ行くよ! 【爆裂火球】!」
莉央の爆炎が立て続けに炸裂し、床が裂けて瓦礫が弾け飛ぶ。
ベルサリスが舌打ちして飛び退いた瞬間、私は思わず声を張り上げた。
「――光よ、縛って! 【浄縛の鎖】!」
足元から白光が伸び、鎖のように絡みつく。
ベルサリスの動きがピタリと止まり、黒い翼が大きく軋んだ。
「ぐっ……! 忌々しい……!」
「――やぁッ!」
エリシア様の剣が鋭く閃き、ベルサリスの片腕を切り飛ばす。黒い血が飛び散った。
「ぐぅ……! おのれ人間の分際で!」
「はぁッ!」
勇者様の聖剣が続けざまに振り抜かれ、黒翼の片方を切り落とす。
「調子に乗るなよぉ!!」
ベルサリスの絶叫。瘴気が渦を巻き、失われたはずの腕も翼も瞬く間に再生した。
「人間風情が……二度も我ら魔族に勝てると思うな!」
「くらえぇ!!」
掌から炎が奔り出る。広間全体を焼き尽くすほどの炎熱。
「消えて……!」
私は祈りを込め、光で覆う。炎は光に呑まれ、音もなく掻き消えた。
「な、なんだと……!? やはり忌まわしい! 聖女の力は!」
「ヒマリィ!!」
「任せろッ!」
ベルサリスが突撃してきた瞬間、アルバートさんが大盾で受け止めた。轟音が響き渡る。
「あるっち、ナイス!」
「ならば……再び動け!」
ベルサリスが嗤う。結界内で倒れていた人々が再び立ち上がり、虚ろな瞳でこちらに襲いかかる。
「うわ、ゾンビゲーかよ! これじゃマジでエンドレスじゃん!」
「ヒマリ! 【魅了魔法】の解除を!」
「ダメです!」
必死に首を振りながら、胸が締めつけられる。
あの瞳は助けを求めているのに、私には解いてあげられない。
「以前も……魅了を無理に解いた人は心が壊れてしまったから。傷つけずに救うには――ベルサリスを倒すしかない!」
苦しい。だけど、それが真実だった。
「ふはは! その甘さこそが、お前らの弱さだ!」
ベルサリスの嘲笑が、広間全体を震わせる。次の瞬間、空気そのものが爆ぜた。
――広間が轟音に包まれた。床石が砕け、壁が崩れ落ちる。
――黒い光柱が地の底から噴き上がり、夜空を貫くように天井を裂いた。
――耳をつんざく咆哮と振動が広間を蹂躙する。
「おおお……我らが王が、復活された!」
兵士とも民ともつかぬ声が、絶望と歓喜をないまぜにして轟く。
礼拝堂の一角が崩れ落ち、瓦礫を押しのけて現れたのは――。
漆黒の翼。血に濡れたような角。人の形をとりながらも、瞳はすでに人ではない。圧倒的な瘴気をまとったその存在。
――エルリック様。
「……恐怖も絶望も、お前の涙さえも、すべて僕に捧げろ。ヒマリ……お前はもう、僕だけのものだ」
その声に、ぞくりと背筋が凍りついた。
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