42.鈍感聖女は、守る戦いを選ぶ
大地を震わせる重い足音。地平線の向こうから土煙が立ちのぼり、王国軍の大部隊がずらりと姿を現した。
鎧が擦れ合う金属音、槍の穂先の鈍い光。規律正しい列が、黒い壁のようにこちらへ迫ってくる。
数百……いや、千近いかもしれない。
「……やっぱり来たね」
思わず息を呑む。勇者様の故郷なんだから、狙われるのは当然だ。
でも、その圧力に負けそうになる私とは対照的に、村の人たちは――。
「はいはい泥準備できたぞー!」
「丸太こっちに転がしとけ!」
「おら、網をもっとしっかり結べ!」
……なんでこんなにやる気満々なんですか!?
勇者様のパパは腕まくりして鍬を構えてるし、ママは大盾を片手に仁王立ち。妹と弟たちなんて、石を袋いっぱいに詰めて得意げに見せてきた。
「お兄ちゃんの村は、わたしたちが守るんだ!」
「いくぞー!」
子どもたちの元気な声に、逆に心臓がバクバクしてくる。
「来るぞ!」
勇者様が剣を抜いた瞬間、王国軍の鬨の声が轟いた。地面が震える。
「泥投げろーっ!」
村人たちの大合唱とともに、用意していた泥水の桶が一斉にぶちまけられた。
兵士たちの鎧や兜にべっとり張り付き、足元をすくう。
「ぬ、ぬかるんで……!」
「うわっ、転んだ!」
ドサドサと兵士が倒れ込み、後ろから来た者が突っ込んでさらに大混乱。まるで運動会の障害物競走だ。
「今だ! 縄を引け!」
勇者パパの声に合わせて、仕掛けていた丸太が一斉に転がる。
ごろごろごろ……どーん!
兵士たちがまとめて吹っ飛び、地響きのような悲鳴が上がった。
「どうだ、必殺丸太流し!」
「お父さん、技名つけてる場合じゃないです!」
私が突っ込む横で、勇者ママが大盾を構え、突撃してきた兵士をまとめて跳ね飛ばす。
妹弟たちが投げた石が兵士の兜にカンカン直撃して、兵士たちは情けない声を上げて転んでいった。
「勇者様一家、強すぎません!?」
私が叫ぶと、後ろから莉央の爆笑が聞こえた。
「陽葵、準備OK? 爆炎ド派手にいくっしょ! どかーん!」
莉央の魔法が炸裂し、地面を焼き抉る。
立ち上る土煙と火の粉で兵士たちの視界が一気に塞がれ、行列が乱れる。
「みんな、危ないっ!」
私は両手をかざし、光の膜を広げた。
透明なドームのようなバリアが仲間を包み、飛んできた破片や火の粉を弾き消す。
「ヒマリ様は私が守りますわ!」
エリシア様がすぐ横で剣を抜き、迫る兵士を一閃。その笑顔が可憐すぎて、むしろ怖いくらいだった。
「おおっ、助かった!」
「さすが聖女様と姫様だ!」
村人たちの歓声に、顔が熱くなる。
「アルバートさん!」
「おう!」
アルバートさんが大盾を構え、突撃してきた兵士をまとめて押し返す。金属音が轟き、兵士たちがドミノのようにばたばた倒れていく。
「すごい……」
感心する暇もなく、私は必死で走り回った。
泥に転んで怪我をした兵士、丸太に巻き込まれた兵士。敵も味方も区別なく、倒れた人に光を降ろして治す。
「な、治った……」
「て、敵なのに……」
回復した兵士たちが呆然と私を見上げてくる。
「……ヒマリ! 敵を応援するなしーっ!
「ケガしたままじゃ痛いでしょ!? 放っとけるわけないじゃん!」
そのとき。
「うおりゃああああ!!」
勇者パパが鍬をぶん回し、兵士をまとめてすっ飛ばした。
「村をなめるなーっ!」
「お義父さん強すぎる!」
ママは盾を振り回し、莉央の炎が爆ぜ、アルバートさんの突撃が轟く。
勇者様の剣が閃き、私の回復が走り回る。
そして村人たちが泥や石や丸太で後押しする。
――こうして王国軍は、ぐちゃぐちゃに翻弄され、完全に崩壊していった。
土煙と怒号に包まれた戦場が、やがて静かになっていった。
丸太に巻き込まれ、泥に足を取られ、石に打たれ、勇者様の剣と仲間の魔法に翻弄された王国軍は――ついに力尽きたのだ。
広場には、鎧のまま転がる兵士たちがずらり。村の人たちが縄で縛り上げ、あっという間に捕虜にしてしまった。
「……む、無理だ……」
「勇者のパーティーに勝てるわけねぇ……」
うなだれる兵士の声は、敗北の色に染まっていた。
その姿に、私は思わず歩み寄る。
「大変なお仕事でしたね。本当におつかれさまでした」
にこっと笑みを浮かべると、兵士たちがぽーっと目を丸くした。
中には顔を赤らめて慌てて視線を逸らす人までいて――なぜ?
「お、おい! だから敵を応援するなって言ってるだろ! ……俺以外に笑いかけんな!」
勇者様は口を尖らせて、子どもみたいにそっぽを向いた。
「えぇ!? 応援じゃなくて、ねぎらっただけです!」
「結果的に士気上げてんだよ!」
「陽葵、最強の回復スキル“天然スマイル”発動しちゃってんじゃん!」
「な、なにそれ……!? そんな魔法、ないからねよ!」
私の必死の否定に莉央は爆笑。そこへエリシア様が一歩前に出て、兵士たちを鋭く睨みつける。
「ヒマリ様に見惚れるなんて許しませんわ。ヒマリ様は私のものですもの!」
「エリシア様まで!?」
私の叫び声に、兵士たちは青ざめて首をぶんぶん振っていた。
◇◆◇◆◇
兵士を押さえ込み、村の人たちと仲間で一息ついたとき。
ふと、胸に冷たい疑念が広がった。
「……やっぱり普通じゃないよね。王国軍をここまで動かせるなんて、絶対裏に誰かいる」
「国王が黒幕、ってことか?」
「……可能性は高いな」
莉央は苦々しく笑いながら腕を組む。
「やっぱ王様じゃん。ったく、だるすぎ。式も魔法陣も、ぜーんぶアイツの仕業で決まりっしょ」
ぞくりと背筋が震えた。
あの結婚式、魔法陣、そして兵士たちの大規模な動員。全部、国王陛下の意思が絡んでいるのだとしたら――。
「次にどう出るかはわからない。でも、このまま黙って見てるわけにはいかない」
勇者様が剣を見つめ、低く言う。
「だったら、こっちから動くしかないよね」
私の言葉に、みんなの視線が重なる。
莉央がニヤリと笑い、アルバートさんが無言でうなずき、エリシア様は真剣な眼差しで私の手を握った。
――逃げるんじゃなくて、挑む。
次の一歩は、私たちから動くから。
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