40.鈍感聖女は、信じる理由を見つける
あの結婚式から数日後。
私たちは、勇者様の生まれ育った村に身を寄せていた。
式は中止。――結婚式から勇者様をさらったのは、私たち自身。
だから魔法陣が発動しなかったのは、ある意味「予想通り」だった。
けど世間に広まった噂は、見事にねじ曲がっていた。
「勇者が聖女とエリシア姫をさらった」
「大魔法使いリオと戦士アルバートは脅されて従った」
……いや、待って?
さらったのは私と莉央とアルバートで、勇者様はむしろ被害者でしょ!?
まるっと逆に広まってるとか、情報操作すぎて笑えない。
なのに勇者様には「国家犯罪者」という肩書きだけがしっかり貼られてるんだから、理不尽すぎる。
でも、この村の人たちは違った。
「ノイシュはそんな奴じゃない」「聖女様も姫様も事情があるんだろう」――そう言ってくれる。
その優しさが、胸にじんとしみた。
◇◆◇◆◇
作戦会議の前、ひとときの休息。
縁側でお茶を囲む私たちの横で、庭先の勇者様が剣を振っていた。
真剣そのものの背中。だけど――。
「ヒマリさまぁ~」
エリシア様がぴとっと腕を絡めてきた。うるんだ瞳で、甘えるように頬を寄せてくる。
「え、エリシア様? あの……暑いんですけど……」
「嫌ですわ! だって……こうして一緒にいられるんですもの……」
ぎゅーっと抱きつかれて、私はもう真っ赤。
勇者様がこっちを見てフリーズしてるのがさらに痛い。いや、視線が熱すぎるんですけど!?
そして勇者様がぽつり。
「……俺は、国王から“結婚相手は聖女ヒマリだ”って聞かされてたんだ」
「……は?」
心臓が跳ねた。頭が真っ白になる。
式で隣にいたのはエリシア様だったのに……意味がわからないっ。
「で、でも……結婚式で発表されたのはエリシア様と勇者様で……」
「だから混乱したんだよ! 俺だって“は?”ってなったんだ!」
「えっと……つまり勇者様は、エリシア様が花嫁って聞かされてなかった……?」
「そ、そういうことだ! ……ったく、人の気も知らねぇで……」
「?」
勇者様は耳まで真っ赤にして髪をかき乱し、そっぽを向いた。
人の気……? もしかしてエリシア様のことが好きだから、混乱したってこと?
「――勇者様。ヒマリ様を困らせるような態度はやめていただけます?」
横からすっと割り込んできたエリシア様は、にっこり……だけど瞳が全然笑ってない。
「ヒマリ様は私の花嫁です。勇者様がどんなに想いを寄せても、それは報われませんわ」
「はぁ!? 誰がそんな……!」
「顔が真っ赤ですわよ? 図星ですわね!」
「ち、ちげぇって言ってんだろ!!」
――えっ……えっ!?
勇者様がエリシア様に気持ちを寄せてて、エリシア様はそれを真っ向から拒絶……?
え、エリシア様って勇者様のことが好きなんじゃなかったんですか!?
なのに、なんで私に絡んでくるんだろう。
胸の奥がぐらぐら揺れて、余計にわからなくなる。
……まるで恋愛劇の舞台に立たされてるみたいに。
◇◆◇◆◇
「……一時しのぎにしかならない」
剣を収めた勇者様が真顔で言う。
「魔王を復活させようとしてる奴がいる。必ずまた仕掛けてくる」
「例の銀髪の仮面の人……?」
「可能性は高い」
背筋に冷たいものが走る。
「でもさ、街のど真ん中で魔法陣完成させるとか、盗賊にできる?」
「……考えにくい」
アルバートさんが短く答える。無駄のない声が重くて、空気が引き締まる。
「だから、一度エルリックと合流して――」
「待って!」
思わず声を張り上げた。
「エルリック様は……魔族でした! 礼拝堂で見たとき、確かに気配を感じたんです!」
勇者様の瞳が大きく揺れる。
「陽葵の言葉、あーしは信じてる」
「……魔法陣の件を踏まえれば、十分あり得る」
莉央とアルバートさんの声が重なった。見てはいないのに、私を信じてくれている。
「はぁ!? そんなわけねぇ!」
勇者様が声を荒げる。
「アイツは……俺の親友なんだ! 魔王討伐の旅も一緒に戦ってきた! 信じられないなんて……!」
「でも勇者様、魔族の気配は確かにあったんです!」
「気配なんて曖昧だろ!」
「曖昧でも、私は感じたんです! 間違いなく!」
「……俺は信じたいんだ、あいつを!」
「信じたい気持ちと、事実は別です!」
互いに言葉をぶつけ合う。喉が痛くなるくらい必死に。
「アナタは勇者なんです! たくさんの人の希望を背負ってきたんでしょ! だから――本当に正しいものを選んでください!」
声が震えた。嫌われてもいい。勇者様が迷わず進めるなら、それでいい。
「……ちがう」
勇者様が、私の肩をがしっと掴む。
その目は、苦しみを抱えたままの真剣すぎる眼差し。
「俺は……希望や運命なんかより、手放したくないものがある」
……え。
え、えええええ!? なんでそんな誤解されるような言い方するんですか勇者様!?
しかも今このタイミングで!? 誤解だってわかってても……顔が熱くなってまともに見れない!
「わ、わたくしは……ヒマリ様を信じます!」
エリシア様が勢いよく宣言する。
「……俺も、ヒマリを信じる」
勇者様の低い声が重なった。
二人同時の真剣な視線に、頭が真っ白になる。
戸惑うのに、それ以上に胸があたたかくて、涙がこぼれそうになる。
「はぁ~、正妻戦争をリアルタイム鑑賞とか役得すぎ! 観客席ポジ最高!」
莉央がちゃかしつつも、どこか本気であたたかい声を出す。
「……ヒマリは、信じられる」
アルバートさんのぼそっとした言葉が重なった。
茶化す声と支える声、その両方があたたかくて――思わず笑みがこぼれた。
――そうだ。
私にできるのは、信じること。そして、応援すること。
勇者様を、仲間を、そして自分自身を。
まだ戦いは終わらないけど、この気持ちがあればきっと――乗り越えられる。
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