4.鈍感聖女は、新婚部屋でフラグを量産する
王城の一角にある“新婚部屋”は、まるで絵本から飛び出してきたような空間だった。
ふわりと香る花、金糸で縁取られた天蓋付きのベッド、壁には豪奢な絵画が掛けられていて、足元には厚い絨毯が敷かれてる。
「うわぁ……すごい……! こんな部屋、見たことない……。ほんとに“お姫様部屋”みたい……!」
でも、この部屋を“仮の夫婦”として使うのは、私と勇者様なんだ……。
胸がちょっとどきどきする。
そんなとき――。
「……おい」
不意に勇者様が低い声で切り出した。
ちらりと視線をこちらに寄こして、髪をかき上げる仕草。耳までほんのり赤い。
「お、お前さ……男と二人きりで、こんな部屋にいて……怖くねぇのかよ」
「え?」
「だ、だから! 俺は男なんだぞ!? いくら王の命令で夫婦になったからって……っ」
勇者様がもごもご言葉を詰まらせる。
顔は真っ赤、目も泳ぎまくり。
……あれ、なんでそんなに動揺してるんだろう?
「あはは、大丈夫ですよ勇者様!」
「は、はぁ!? な、何がだよ!」
「だって勇者様はエリシア様のことがお好きなんですから、私にどうこうしようなんて思いませんよね?」
「~~~~っ!」
「それに……誰かが幸せになれるなら、私まで幸せもらった気になるんです。お得でしょ?」
勇者様は赤くなったを隠すように、ばっと顔を背けた。
「ばっ、バカかお前は! 俺が誰を……な、何を考えてるかなんて……!」
「ほら、やっぱりそうですよね! だから私にはぜーったいに何もしません!」
「ち、ちげぇっ……!」
ぶんぶんと手を振って否定するけど――どう見ても図星。
「ふふっ、可愛いなぁ勇者様。ツンツンしてますけど、ほんとは優しいんですもんね」
「な、なにがだよ!」
私はにっこり笑った。
――うん、やっぱり勇者様とエリシア様ってお似合い。
だからこそ、私が仮の奥さんをやって二人をつなげなきゃね!
そもそも私が“仮結婚”を了承したのは、国王様の条件を聞いたから。
頭の中に、ほんの数時間前交わしたやり取りがよぎる。
◇◆◇◆◇
『聖女よ、仮初めの結婚ならば問題ないな?』
『仮初めってどういうことですか』
『互いに好きな相手が出来るまでの、名目上の結婚ということだ』
うーん、それなら……って、それだけじゃダメ!
『困ります。だって私、元の世界にも家族がいます。また突然長い間いなくなったら、親が絶対に心配します!』
『では、どうすればいい?』
『もし私がどれだけこちらに滞在しても、帰るときは“来た時と同じ時間”“同じ状態”で戻してください。これが条件です!』
ちょっと時間さえあれば、勇者様とエリシア様をラブラブにできる気がするんだよね。そうしたら私は仮初めの結婚をやめちゃえばいいんだ。
で、どれだけ異世界に滞在しても“来た時と同じ時間”“同じ状態”にしてもらえるなら、何十年もたってお婆さんになっても安心だし。
うん、私って天才かも!
『――ふむ。それくらい容易いこと。安心せよ、必ずそうしてやろう』
国王陛下はにこりと笑ってそう言った。
その瞬間、私の胸はふわっと軽くなる。ああ、よかった。これで心配性のお母さんも安心だ。
……けど。
なんだろう、胸の奥にひっかかる違和感。
国王陛下の目、笑ってるのに――どこか冷たく光ったように見えた。気のせい……だよね?
◇◆◇◆◇
「勇者様。私、仮の奥さんですから安心してくださいね!」
「はぁ!? 安心ってなんだよ!」
「だから、ちゃーんと勇者様とエリシア様をくっつけてあげますって!」
「ばっ……お、お前なぁ……っ!」
勇者様が真っ赤になって髪をかきむしる。
その姿がもう、「図星です」って言ってるみたいで、私はほっこりしてしまう。
「そうだ。あとで莉央の部屋にも行こうっと」
私に付き合って王宮に来させちゃったけど、ちゃんと部屋がもらえてるみたいでよかったな。
――と、そのとき。
コンコン、と控えめなノック音がして、すぐに扉が開かれた。
「――失礼しますわ!」
軽やかな声とともに現れたのは、黒髪をゆるやかに巻いた少女。
宝石みたいに輝く瞳は涙で潤んでいて、白と青を基調としたドレスの裾がひらりと舞う。
リボンとレースがあしらわれたその姿は、本物のお姫様というより――まるで天使だった。
「ヒ、ヒマリさまぁぁぁっ!!!」
次の瞬間、エリシア様は全力疾走で飛び込んできて、私にぎゅうっと抱きついてきた。
ふわっと薔薇のような甘い香りが広がり、胸に柔らかな感触が押しつけられる。
「ひゃっ……え、えぇぇぇ!? エリシア様!?」
「うぅぅ……うわぁぁぁぁん……っ!! やっと……やっとお会いできましたわぁぁっ……!」
肩に顔をうずめて、エリシア様はぼろぼろ涙をこぼす。
その姿があまりにも可愛くて、同性の私でもドキッとしてしまった。
「も、もう半年も……半年もお会いできなくて……わたくし、どれほど寂しかったことか……! 夢にまで見て……本当に、二度と会えないのかと……!」
「ちょっ、ちょっと待ってください、そんな泣かないで……! ほら、私ここにちゃんといますから!」
ぎゅうぎゅうと抱きしめられて、身動きがとれない。
でもエリシア様の熱い気持ちがストレートに伝わってきて、胸がじんわり温かくなる。
……うん。やっぱり、エリシア様はすっごく魅力的だ。勇者様がお嫁さんにしたくなるのも納得。
「うふふ……うふふふ……! 本当に……本当に、こうしてまた触れることができるなんて……!」
「エリシア様ぁぁぁ……! そんなに喜んでもらえて、私も嬉しいですっ!」
と、そんな私たちを見て――勇者様は頬を真っ赤にしながら、そっぽを向いていた。
「な、なに泣いてんだよあいつ……陽葵も困ってんじゃねーか……」
「ふふっ……勇者様、やっぱり優しいですね」
「だ、誰が優しいかっ! 勘違いすんな! ……だいたいお前、なんでそんな嬉しそうに抱きつかれてんだよ!」
「え? だって、エリシア様と私は大親友ですから!」
「だ、だーかーらっ! そういうことじゃねぇ!」
勇者様のツッコミに、私とエリシア様は顔を見合わせて思わず笑ってしまった。
この部屋に、ほんのり甘い空気が満ちていく。
――やっぱり。
勇者様とエリシア様は、すごくお似合いだ。
私? 私はその幸せを全力で応援する役目。
国王陛下と交わした「時間の約束」に守られているから、思い切り頑張れる。
仮の奥さんとして、絶対に二人を結びつけてみせる!
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次回は本日20時すぎに更新予定です。
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