37.鈍感聖女は、祝福の裏の罠を見抜く
喉がきゅっとつまる。ページに並ぶ不気味な文字は、見ているだけでじわじわ頭が痛くなりそうだった。
「……魔王召喚の儀式」
声にした瞬間、空気が一気に重くなる。
莉央が口を尖らせて眉をひそめた。
「いやいや、ちょっと待って。魔王って、あのラスボス魔王だよね? あーしらが一年かけてようやく倒した、あの」
「……そうだね」
胸の奥に浮かんでくるのは、あの旅の記憶。
森の奥で魔物の群れに襲われ、必死で結界を張った夜。
街が燃え、泣き叫ぶ子どもたちの声に心をかき乱された日。
絶望的な炎に飲み込まれそうになった仲間を、震える手で癒やした瞬間。
そして――最後の決戦。
空を覆うほどの魔族と魔物の軍勢。四天王ひとりが国を丸ごと潰すほどの力。
その中心に立つ、赤黒い瞳の存在。
「目が合った瞬間……体が動かなくなったの。まるで、世界が全部終わっちゃうって告げられたみたいで」
背筋に冷たいものが走り、思わず腕を抱く。
莉央も苦い顔で肩をすくめる。
「……うん。あのときは、マジで泣き入るかと思った。ゲームだったら即リセットボタン案件」
「でも、莉央の雷撃に何度救われたか」
「へへっ、まあね! でも一番は勇者サマでしょ。あの人の剣がなきゃ、全員バラバラにされてた」
「アルバート様の盾も、エルリック様の氷魔法も……全部なかったら、誰も帰れなかったよね」
氷の壁で軍勢を封じ、冷静に道を切り拓いたエルリック様の背中。
あのときは、間違いなく頼れる仲間だった。
「……なのに、どうして今は……」
喉の奥で言葉が消える。
さっき感じたあの気配――仲間だったはずの彼から漂った“魔族”の恐怖が、胸の奥をざわつかせていた。
◇◆◇◆◇
視線を再び禁書に落とす。
紙には「一か所に集めた大量の命」という禍々しい文言が刻まれていた。
「……一か所って」
「うん、どう考えても教会のことだよね」
莉央の声が低くなる。
「てかさ、人がいっぱい集まるときって、もう決まってんじゃん」
「礼拝堂で人が最も集まるとき……王族の結婚式」
二人で同時に声を揃える。
「ってことは……勇者様とエリシア様!?」
心臓が大きく跳ねた。
仮婚約の終わり、そして発表された結婚。
あの祝福の鐘が、もし儀式の合図だとしたら――。
「勇者様……! エリシア様……!」
口にしただけで血の気が引いていく。
◇◆◇◆◇
そのとき。
バンッ、と禁書庫の扉が乱暴に開かれた。
「ヒマリ様~! 号外ですよー!」
「「セリーナ!?」」
声が重なった。よりによって、こんな場所に!
「ちょ、なんであんたが禁書庫にいるの!?」
「え? だって私、ヒマリ様の侍女ですから!」
「それ、理由になってないから!!」
莉央が全力でツッコミを入れる。
私は慌てて禁書を閉じたが、セリーナはまったく気にする様子もなく、にっこり笑って号外を差し出してきた。
「ほらっ! 三日後に結婚式なんですって!」
「三日後!?」
「はっや! 婚約したばっかじゃん!」
莉央が号外をひったくり、目を走らせる。私も肩越しにのぞき込んだ。
確かにそこには、大きな見出しが躍っていた。
――勇者ノイシュ様と第一王女エリシア様、三日後に結婚式。
「……間違いない」
「狙いはこの結婚式だね」
背筋に冷たいものが走る。
結婚式という祝福の場を、生贄の祭壇に変えようとしている。
「どうするの、陽葵」
「……決まってる」
二人は顔を見合わせ、同時に声を重ねた。
「――結婚式を、止めなきゃ」
「――結婚式を、ぶっ壊すっしょ!」
声がぴたりと重なる。
禁書庫に響いたその響きは、まるで最初から打ち合わせしていたみたいに息ぴったりだった。
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