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聖女ヒマリは告白の意味がわからない -鈍感聖女とツンデレ勇者の恋愛事情-  作者: 柚子猫


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30.鈍感聖女は、絶望を刻む声を聞く

 ――やっぱり。これは【魅了魔法チャーム】だった。

 光に包まれた人々の瞳から、次々と虚ろさが消えていく。

 彼らはぼんやりと瞬きを繰り返し、次の瞬間、恐怖に突き動かされたように自分の手を見つめ、震わせた。


「お、俺は……」「どうして……こんな……」


 呻きと嗚咽が重なり、空気がひりつく。

 正気を取り戻したはずなのに、その顔には安堵も喜びもない。

 まるで自分自身を責めるかのように、歯を食いしばり、肩を震わせている。

 中にはその場に崩れ落ち、泣き声を押し殺しながら額を床に打ちつける者もいた。


 魅了の本当の怖さ――。

 操られていた行動をすべて思い出し、自分の意思でしてしまったと錯覚してしまう。

 その事実が、何より深く人を傷つけるのだ。


 私は拳を握りしめた。光が届いたはずなのに、救えたはずなのに、胸の奥はひどく重く沈んでいた。


「さすが聖女。これほどの人数を一度に解き放つとは……」


 ぞわり。

 低く、奇妙に歪んだ声が響いた。

 顔を上げると、混乱する人々のただ中で、銀色の仮面がこちらを見ていた。


 その声は合成音声のように人間と魔族の響きが混じり、不快な残響を伴って耳にまとわりつく。


「貴様……!」


 勇者様が即座に剣を抜き放つ。

 莉央りおも「マジで……最悪」と毒づきながら雷の魔法陣を展開した。


 だが、仮面の男は動じない。

 まるで余裕の支配者のように、微動だにせずに立ち尽くしている。


「その光……やはり脅威だ」

「だが聖女。お前の力が人を救うたびに――その心には絶望が刻まれていくのだろう?」

「その光……救いであると同時に、絶望を刻む刃だ」


 低音とざらついた声が交互に重なり、空気そのものを震わせる。

 正気に戻ったはずの人々が、自分の手を見つめて震えている。

 泣き叫ぶ声。嗚咽。記憶を取り戻した痛みに打ちひしがれる姿。


 その光景こそ、仮面の言葉を裏づける証拠のように私の胸を突き刺した。


「黙れ!」


 勇者様が鋭い剣閃を走らせた。

 だが仮面は一歩も動かず、紙一重でかわす。

 莉央が放った雷撃も、仮面の傾き一つで霧のように霧散してしまう。


「なっ……!」

「こいつ、マジやばすぎ!」


 仮面はわずかに首を傾け、今度は笑うように声を震わせた。


「人の光と魔の影――その狭間に立つ者よ。次に会う時こそ、その選択を迫ろう」


 ぞわり。

 不気味な言葉が胸に食い込み、息が止まる。


 次の瞬間、仮面は霧のように揺らめき、煙とともに闇に溶けていった。


「待てっ!」


 勇者様が追いすがるが、刃は空を裂くだけ。

 莉央も悔しげに「消えた……っ」と舌打ちした。


◇◆◇◆◇


 その直後だった。

 重い足音が地面を揺らし、鎧のきしみと共に鋭い掛け声が響く。


「ご無事で何よりです!」


 廃屋の入り口を突き破るように、近衛騎士団が雪崩れ込んできた。

 槍を構え、乱れた人々を取り囲むように陣を敷く。

 その先頭に立つのは――銀髪の第二王子、エルリック様だった。


 仮面が消えた直後の登場。

 それなのに彼は、まるで最初からここに駆けつけるために準備していたかのような落ち着いた顔で微笑んでいた。


「……助かった。エルリックが来てくれなければ、危なかった」


 勇者様が剣を収め、深く息を吐いた。

 その顔は、素直な安堵の色をにじませている。


「ほんとだよ、タイミング神じゃん。ありがと、エルリックさま」


 莉央も大げさに胸を撫で下ろし、軽く笑ってみせた。


 エルリック様は優雅に頷き、完璧な微笑を浮かべる。

 まるで絵画の中の王子のようで、その姿に騎士団の兵たちも恭しく頭を垂れた。


 ……だけど、私は笑えなかった。


 耳にこびりついた仮面の声。

 「その光は絶望を刻む刃だ」―――あの不気味な言葉が消えない。


 魅了は魔族のユニークスキル。

 旧貴族派など人間に扱えるはずがない。

 なのに殿下は、あまりにも自然にその名を口にし、すべてを“旧貴族派の陰謀”へと結びつけようとしていた。


 ……整いすぎている。きれいすぎる。


 近衛の足音が去ったあと、落ちた地図の端がめくれて風に揺れた。

 工事区画の赤い印だけを指で辿ると、気味が悪いほど滑らかな弧になっていく。


「……何かが、違う」


 胸の奥で小さく呟いた。

 騒然とする廃屋の片隅で、私だけがひとり、息苦しさを覚えていた。

ここまでお読みいただきまして、ありがとうございます。

明日も更新予定です。


「面白い」とか

「続きが読みたい」とか、もし思っていただけたなら。

ブックマークや画面下の「☆☆☆☆☆」から評価を頂けるとすごく嬉しいです。


お手数だと思うのですが。

すごく、すごく励みになるので、よろしくお願いします(*ᴗˬᴗ)⁾⁾ペコ


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