27.鈍感聖女は、二つの想いに翻弄される
エルリック様の告白。
「僕との未来を考えてみるのはどうかな?」――あの真剣な瞳が、まだ頭から離れない。
莉央ちゃんに「もう答え出てんじゃね?」ってあっさり言われたけど……そんな簡単に結論なんて出せない。
だって私は――。
……エルリック様は優しくて、頼りがいがあって、誰にでも堂々と接することができる人。
魔王討伐の旅の途中でも、彼の言葉に助けられたことは何度もある。
強引なところもあるけど、それすらも“王子様”って感じで。女の子なら誰だって一度は夢中になっちゃうような人。
それなのに、どうして。
どうして彼の顔を思い浮かべた次の瞬間に――勇者様のことが浮かんでくるの。
「なんでここで勇者様が出てくるのよ!」
自分で自分に突っ込んで、思わず枕に顔を埋める。
胸の奥がずっとざわざわしていて、心臓は勝手に早鐘を打つばかり。
……もう、整理できない。
こういうときは――やっぱり頼れるのは、リオちゃんだ。
なんでも話せる親友だから。彼女はきっと、私よりずっと冷静に物事を見てくれるはず。
◇◆◇◆◇
神殿の仕事が終わった夕暮れ、薬草袋を抱えて廊下を歩いていると、背後から聞き慣れた声が飛んできた。
「おい、ヒマリ」
振り返れば、そこに勇者様。
逆光に照らされて立つ姿は、いつもより少しカジュアルな軽装。なのに、どうしてこんなに胸が高鳴るんだろう。
「また残ってただろ。無理してるの、バレバレなんだよ」
「ち、違います! 平気です!」
「ぷるぷるしてた」
「してません!」
むきになって否定した瞬間、勇者様が小さく鼻で笑った。
……ずるい。そんな何気ない笑みひとつで、私の心臓が勝手に跳ねる。
でも、今日は誤魔化さない。
リオちゃんに「本音ぶつけろ」って言われたんだから。勇気を出さなきゃ。
「……勇者様。相談があるんです」
「なっ……そ、相談!?」
びくっと肩が跳ねる勇者様。なぜか耳が真っ赤になって、わたわたと視線を逸らす。
「お、おい待て! そ、相談って……お、お前、まさか……」
「えっ?」
「べ、別に! 俺はそんな、か、告白とか、全然期待してねぇからな!」
ちょ、ちょっと待って!?
何を勘違いしてるの!? 顔から火が出そうなんだけど!
「こ、告白なんて一言も言ってません!」
「い、言ってねぇよな!? ああ、そうだよな!? ったく、焦らせんな!」
完全に焦ってるの勇者様のほうなんですけど!?
私は胸を押さえて深呼吸する。ダメだ、心臓が落ち着かない……。
「……で、相談ってなんだよ」
真っ赤な耳を隠すように顔をそむけながら、勇者様が促してきた。
私もようやく気持ちを整えて、口を開く。
「実は……最近、お城の空気が少しおかしい気がするんです」
「おかしい?」
途端に、勇者様の表情が真剣に変わった。
さっきまでのツンデレ反応とのギャップに、胸がさらに締め付けられる。
「はい。見張られてるというか、監視されてるというか……表面は普通なのに、胸の奥がざわざわするんです」
「……」
勇者様は黙って聞いてくれていた。そして、小さく頷く。
「……俺も感じてた」
「えっ……」
やっぱり。気のせいじゃなかったんだ。
「言ってくれて助かった。……一人で抱え込むなよ」
真剣な声。だけど、次の瞬間には少し照れたように顔をそむける。
「……か、仮にでも夫婦なんだからな。お前のこと気にするのは当然だろ」
また、心臓が大きく跳ねた。
“仮”だってわかってる。そう、これは仮の婚約。夫婦ごっこみたいなもの。
だけど――勇者様のその言葉が、嬉しくて仕方なかった。
◇◆◇◆◇
その夜。窓辺に立つと、月明かりが部屋を静かに照らしていた。
ふいに思い出すのは、エルリック様の瞳。あのときの真剣な告白。
彼は待ってくれている。答えを出すまで。
でも私の心は、勇者様の一言で揺れてばかり。
勇者様への気持ちは、もう誤魔化せない。
けど勇者様はエリシア様を……。
そして、エルリック様も誠実に想いを向けてくれている。
お城の不穏な空気と、揺れ続ける自分の心。
窓の外は穏やかな月夜なのに、私の胸の中は嵐のようだった。
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