26.鈍感聖女は、恋の正体に気づいてしまった
エルリック様からの告白。
あの一言が、ずっと頭の中でぐるぐる回っている。
「僕との未来を考えてみるのはどうかな?」――あの真剣な瞳。
思い出すたびに胸がきゅっと締め付けられて、心臓の音がどんどん速くなる。
でも、私……どう思ってるんだろう。
エルリック様のこと? それとも――。
「なんでここで勇者様が出てくるのよ!」
思わず声が漏れて、顔を覆った。自分でも整理ができなくて、もやもやばかりが募る。
こういうときは――やっぱり莉央ちゃんだ。
なんでも話せる親友だから。しかも最近、私の気持ちを見透かしてるみたいにニヤニヤしてくるし……。
◇◆◇◆◇
「エルリック様からの告白? うっそマジ? ガチか~! いや~そっち来たか~!」
「そ、そっちって何よ」
「いーや、こっちの話! 気にしなくてよし!」
莉央はニヤリと笑う。絶対なんか知ってる顔。
「でさ、どうすんの? 王子からのガチ告白だよ? しかも超イケメン、金持ち、ハイスペック。玉の輿一直線!」
「それは……わかってるんだけど」
莉央ちゃんの言葉に、胸の奥がざわめく。
条件で見れば完璧すぎる相手。だけど――それだけで答えなんて出せるの?
「他に好きな人いるとか?」
「そ、それは……」
言葉に詰まってしまう。心臓の音がばくんと跳ねたのを、自分でもはっきり感じた。
「ほら、もう結論出てんじゃん?」
「け、結論って?」
「んふふー、それはあーしから言わない! 親友でもさ、自分で気づかないと意味ないっしょ」
「けち。親友なのに」
「だからだよ。親友だからこそ、口出しはしないの!」
ふっと笑う莉央を見て、胸の奥が少し軽くなる。
きっと彼女の言うとおりなんだ。自分の気持ちくらい、自分で整理できなくちゃ。
「で、もうひとつの相談って?」
「それがね……ちょっと言葉にしづらいんだけど」
深呼吸して口を開く。
「勇者様の故郷から帰ってきてから、お城の空気が少し……おかしい気がするの」
「へぇ? どんなふーに?」
「見張られてるというか、監視されてるというか」
「誘拐事件があったし? それかさー、エルリックの花嫁候補になったからじゃね?」
「ばっ……な、なんでそうなるのよ!」
顔が熱くなる。もう、莉央ちゃんったら!
「まぁでも、あーしも違和感はある。アルっちとも話したし」
「やっぱり……」
「うん、言葉にしづらいけど、微妙~な空気感っていうかさ」
そう。表面上は何も変わってないのに。確かに漂う、言い表せない不安感。
「……似てるよね。色欲の魔物ベルサリスに支配された街に」
「それそれ! それが言いたかった!」
思い出す。あの街のことを。
一見すごく幸せそうなのに、みんな心の奥は支配されてた。笑顔の裏に潜んだ恐怖。
接触する人たちがことごとく操られてて、どうにもならなくて……。
あのときの戦いは、本当に、心底ぞっとした。
「でも、魔の気配は感じないの」
「……それよ」
ぞわり、と背筋が粟立つ。
気配がないのに、不自然に空気が重い。気持ち悪いくらいに。
「……勇者様に相談した?」
「な、なっ……そんなこと勇者様に相談できるわけないでしょ!!」
思わず大声をあげてしまい、顔が真っ赤になる。
そ、それってつまり……恋の相談ってことでしょ!? い、いや、告白になっちゃうじゃない! そんなの無理無理無理!!
「え? あーし、普通に“魔の気配”のこと言ったんだけど?」
「~~~~っ!!」
「……ま、でも恋バナでもいいけどね?」にやりと笑う莉央ちゃん。
「そ、そんなのじゃないってば!」
慌てて否定したけど、胸の奥はぐちゃぐちゃで。熱くて、苦しくて、うまく呼吸ができない。
「勇者様いま忙しいし……それにエリシア様と一緒だろうし。私が少し調べてみる」
「ちょ! 陽葵! そういうとこだってば!」
「えっ?」
「アンタさ、恋愛でもそう! 本音くらいぶつけなさいよ!」
れ、恋愛!?
胸がバクバクして、頭が真っ白になる。
「ホントはもう自分の気持ちに気づいてんでしょ?」
「…………うん」
かすかな声で、でもはっきりと口にしていた。
本当はずっと前からわかってた。見て見ぬふりして、蓋をしてきただけ。
勇者様のことを思い出す。
魔物から庇ってくれた背中。夜に毛布をかけてくれた手。
訓練で疲れてるのに、私のことになるといつも真っ先に駆けつけてくれる姿。
照れ隠ししながら渡してくれた髪飾り。
どんなときも仲間を想って、決して諦めない瞳。
気づけば、その全部に惹かれてしまっていた。
「ほら、決まりじゃん」
「り、莉央ちゃん……」
「よし! 勇者サマに相談行こ! ついでにみんなも集めよ!」
ぐいっと腕を引かれて、思わず前につんのめる。
「当然! アンタの恋愛も全力で協力するから! ……親友だからね!」
いたずらっぽく笑う莉央ちゃんに、胸がじんわり熱くなった。
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