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聖女ヒマリは告白の意味がわからない -鈍感聖女とツンデレ勇者の恋愛事情-  作者: 柚子猫


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25/51

25.鈍感聖女は、甘い告白に心が追いつかない

 最近、勇者様と顔を合わせる時間が減っている。

 ……べ、別に“好き避け”してるとか、そういうんじゃない。絶対に。だって、そんなはず――いやいやいや!


 理由は、あの誘拐事件。

 事件自体は無事に解決したけれど、城の警備体制が見直されて、エリシア様の護衛は倍増。勇者様も当然その護衛に駆り出されるようになった。


 国にとってもエリシア様にとっても、すごくいいことだ。

 だって勇者様とエリシア様が一緒にいる時間が増える――それはつまり、私がずっと望んできた“理想の未来”に近づいているってことだから。


 ……そう、いいこと。すごくいいこと。

 なのに、どうしてだろう。胸の奥が落ち着かない。もやもやして、気づけば勇者様を目で追ってしまっている。


 「エリシア様と勇者様がお似合い」――そう信じて、応援してきたはずなのに。

 なのに最近の私は、勇者様の姿を見かけるたび、どきっとしてしまう自分に気づいて……混乱するばかりだった。


 こんなの、おかしい。恋だなんて、そんなの――。

 でも、心臓の音は勝手にうるさくなる。

 ……ほんと、どうしたの私!


「ヒマリ様~?」


 机に突っ伏しかけた私に、セリーナが小首をかしげながら顔をのぞかせてきた。


「また“にらめっこ”ですか? さっきから表情がころころ変わってますよ」

「にらめっこじゃないから!」

「でも赤くなったり青くなったり……あっ、照れてるんです?」

「ち、違うってば!」


 必死に否定するけど、セリーナのにやにや顔は止まらない。


「もし気持ちが落ち込んでるなら――お出かけしましょう! 今日はいい天気ですし、中庭がおすすめですよ!」

「え、でも……」

「いいじゃないですか! 行きましょう行きましょう!」


 セリーナの勢いに押されて、私はしぶしぶ腰を上げた。


◇◆◇◆◇


 中庭へ向かう途中、城門脇の詰所の掲示板が目に入った。衛兵の見回り経路が細い線でびっしり描かれている。

 何気なく視線を滑らせた瞬間、線がぐるりと渦を巻き、どこかで見た魔法陣の輪郭に重なって見えた。


 目を凝らすと、ただの当直表に戻る。……気のせい、だよね。


 掲示板から目を離し、セリーナに促されて回廊を抜けると、噴水の水音と花の香りがふわりと濃くなった。

 陽射しはあたたかく、風はやわらかい。こうして歩いていると――最近、どういうわけか決まって同じ人に出会う。


「やあ、ヒマリ。やっぱり来てくれたんだね」


 そこに立っていたのは、第二王子エルリック様。

 陽を受けて輝く銀髪、洗練された所作、まるで絵本から抜け出した王子様のよう。


「え、あ、エルリック様……」

「そんなに驚かないでくれ。僕はただ、君に会えたことが嬉しいだけだから」


 さらりと甘い言葉を口にする。どうしてこの人は、こんなにも自然にそういうことを言えるんだろう。


「最近、勇者ノイシュとはどうなんだい?」

「ど、どうって……?」

「ほら、少しぎくしゃくしているように見えてね。僕の気のせいかな?」


 どきりと心が跳ねる。

 そう、最近勇者様とは会えていない。けど、それを不満だなんて思っちゃいけない。むしろ助かっているくらいだ。心の整理が全然できていないから。勇者様とエリシア様が結ばれるのを応援しているのに……どうして胸の奥にこんな感情が渦巻くのか、自分でもわからない。


 私が俯いたとき、エルリック様の目が一瞬きらりと揺れた。私の答えに満足そうにも、切なげにも見えて――その微妙な表情が、妙に胸に残った。


「仮の婚約は、この城の中だけの限定的なものだ。国民に発表されるわけでも、結婚式があるわけでもない」

「け、結婚式……」


 その言葉に思わず息をのんでしまう。

 仮とはいえ、勇者様と私は婚約している。夫婦、みたいなもの――そう意識した途端、胸がぎゅっと苦しくなった。


 ちらりと見たエルリック様の横顔に、ほんのわずか影が落ちた気がした。まるで私の心を読み取ったかのように……。


「いずれ勇者殿と妹のエリシアは結婚する。……君も、それを望んでいるんだろう?」

「そ、そうですね……」


 無理やり笑みを作ったけれど、胸の奥がずきんと痛む。


「そのあと、君はどうするつもりなんだい? 元の世界に帰るのかい?」

「それは……」


 答えられなかった。帰るつもりでいたのに、どうしてか言葉が出てこない。


 エルリック様が一歩、距離を詰めてくる。陽射しに銀髪がきらめき、近すぎるほどの距離で、彼はやわらかに笑った。けれど、その瞳の奥は揺るぎない真剣さで満ちていた。


「だったら――僕との未来を考えてみるのはどうかな?」

「えっ……」


 あまりに突然の言葉に、息が詰まる。


「ま、またそういうセリフ……! 誤解されちゃいますよ?」


 軽口でごまかそうとしたのに、殿下は笑わなかった。

 その声は絹のように柔らかく、どこまでも甘い響きを持ちながら――奥底には誤魔化しのない切なさが宿っていた。


「冗談じゃない。本気で言っているんだ。考えてほしいんだ、僕との未来を」


 その声は、絹のように柔らかくて、どこまでも甘く響くのに――奥底には誤魔化しのない切なさが宿っていた。

 微笑んでいるはずなのに、瞳だけは真剣で。まっすぐな視線に捕らえられて、胸がざわめいて、どう返せばいいのかわからなくなってしまった。

ここまでお読みいただきまして、ありがとうございます。

明日も更新予定です。


「面白い」とか

「続きが読みたい」とか、もし思っていただけたなら。

ブックマークや画面下の「☆☆☆☆☆」から評価を頂けるとすごく嬉しいです。


お手数だと思うのですが。

すごく、すごく励みになるので、よろしくお願いします(*ᴗˬᴗ)⁾⁾ペコ

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