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聖女ヒマリは告白の意味がわからない -鈍感聖女とツンデレ勇者の恋愛事情-  作者: 柚子猫


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21/51

21.鈍感聖女は、星空の下で恋を疑う

 馬車を降りた瞬間、思わず息を呑んだ。

 空気が違う。王都の喧騒とはまるで別世界。

 川のせせらぎがさらさらと耳に届いて、遠くで鳥の声が響いてくる。

 見渡せば、濃い緑の森と畑の広がり、その向こうには澄んだ湖がきらきらと光を反射していた。


「わぁ……!」


 莉央りこも「インスタ映え~!」と叫びそうな勢いで杖を構えてくるくる回っている。

 アルバートさんですら、静かに目を細めて頷いていた。


「ここは……?」


 私は思わず口にする。

 隣の勇者様は、少しだけ照れたように肩をすくめた。


「……俺の故郷だ」


 その言葉に、胸がほわっと温かくなる。

 勇者様の生まれ育った場所。勇者様の原点。ここが――。


◇◆◇◆◇


 村長さんに迎えられ、私たちは村の広場に集まった。


「よく来てくださいました。最近、村の近くで魔物が暴れておりまして……ぜひ勇者殿たちのお力を!」

「お任せください!」


 私たちは声をそろえて答えた。うん、こういうときはやっぱり勇者パーティーだ!


 そのときだった。


「まぁ……ノイシュ!」


 透き通るような声と共に、ひとりの女性が駆け寄ってきた。

 肩までの金髪がさらさら揺れて、陽の光を受けてきらめく。

 大きな瞳は澄んでいて、笑みを浮かべるとその場がぱっと華やぐように感じられた。

 ……えっ!? す、すっごく綺麗! ど、どう見ても勇者様の恋人じゃないですか!?


「えっ!? 勇者様、こ、この方は……!」


 私が狼狽するより早く、莉央がすかさずにやにや顔で肘で突いてくる。


「やだ~勇者サマ、ヒマリがいるのに浮気ぃ?」

「……勇者殿」


 アルバートさんまでじっと見てくる。

 さらにエリシア様は――ぷるぷる震えている!?


「……そんなの、困りますわ」


「わぁ~恋人さんですか!?」とセリーナまで目を輝かせる始末。


 ち、違いますからっ! 勇者様はエリシア様一筋なんですからー!!


「な、なにか勘違いしてないか!? こ、この人は……!」


 勇者様が顔を真っ赤にして叫ぶ。


「俺の母親だ!!」

「ええええええええっ!?」


 全員の声がきれいに重なった。


 勇者様のお母さんは、私とセリーナを交互にじぃっと見比べた。

 ……え、な、なに? どうしてセリーナと比べられてるの!?

 視線を行ったり来たりさせたあと、お母さんは最後に勇者様の表情をちらっと見て、ふっと微笑んだ。


「ああ……あなたが、ヒマリちゃんね」

「えっ!? ええええっ!?!?」


 両手をぎゅっと握られ、私の心臓は一気に跳ね上がる。

 勇者様、ばっ、と顔を真っ赤にして「なっ、なにを勝手に!」と叫んでいるけど……お母さんの笑顔はまるで確信しているようだった。


◇◆◇◆◇


 その後、勇者様の家へ招かれると、小さな妹や弟たちが「兄ちゃん!」「おかえり!」と次々に飛びついてきた。

 勇者様はうろたえながらも優しく抱きとめ、子どもたちの笑い声が家いっぱいに広がる。


「わー! お姉ちゃんかわいい!」

「この杖ピカピカだ!」


 莉央は子どもたちに取り囲まれて「ちょい待ち! それガチ高いやつだから壊されたら泣くんだけど~!」なんて言いながらも笑顔。

 アルバートさんは「……危ない」と弟をひょいと抱き上げ、そのまま子どもたちに大きな木みたいによじ登られていた。

 セリーナは一緒にかくれんぼを始めて、庭の茂みに本気で隠れていたし。

 エリシア様に至っては、妹ちゃんに「お姫さまみたい!」と目を輝かされ、すっかり照れていた。


 そんなとき、まだ幼い弟くんが首をかしげながら、私と勇者様を見比べてぽつり。


「この人が……兄ちゃんのお嫁さん?」

「なっ!? ち、ちがう!! そ、そんなんじゃねぇ!!」


 勇者様は耳まで真っ赤にしてぶんぶん首を振る。

 その必死さに子どもたちは「えー?」「照れてるー!」ときゃあきゃあ大はしゃぎ。

 私は「そうだよね! 勇者様のお嫁さんはエリシア様に決まってるもんね!」と胸を張って大きくうなずいた。


 その横で、莉央は「ぷっ」と吹き出し、セリーナは「きゃ~!」と頬を押さえ、アルバートさんですら小さく「……勇者の気持ちは明らかだな」とつぶやいた。


 ……みんな、なんだかとても自然に家族に溶け込んでいる。

 勇者様の家はあたたかくて、笑顔で満ちていて。

 そんな中に自分がいることが、ちょっと不思議で、でもすごく嬉しかった。


◇◆◇◆◇


 夕食が終わり、子どもたちの笑い声がようやく落ち着いたころ。

 勇者様のお母さんがふっとこちらを見て、にこやかに微笑んだ。


「……少し、お話しできるかしら」


 その声にうなずいて、私は外へ出る。


 夜空は王都よりもずっと澄んでいて、星がまるで手を伸ばせば届きそうなくらい瞬いていた。

 勇者様のお母さんは、その星空を見上げながら静かに言った。


「あなたとはゆっくりお話しておきたかったのよ」

「……私?」

「ええ。あの子、あなたのことを大切にしているみたいだから」

「えっ……? い、いえ、勇者様はエリシア様を――」

「それはないわ」


 即答。私は思わず絶句する。


「ノイシュは小さい頃に勇者としてお城に連れて行かれてね。なかなか家族とは会えなかったの。……それでね、あの子が最初に覚えた魔法は“手紙の魔法”だったのよ」

「手紙の魔法……」


 もちろん知っている。どんなに遠くにいても一瞬で届けられて、返事だって受け取れる高度な魔法。

 そういえば――魔王討伐の旅の最中も、勇者様はしょっちゅう手紙を書いていた。


「その魔法を使って、あの子は一度も欠かさず家に手紙を送ってきたわ」


 ……え? 家に?

 じゃあ、あのときの手紙、全部――エリシア様宛じゃなかったの!?


「最初は気遣いの言葉ばかりだったけれど……あるときから、“ヒマリ”って名前が出てくるようになったの」

「え……!」

「文面も変わったわ。堅苦しい挨拶よりも、あなたとの旅のことを楽しそうに綴るようになって。……ね、そんな手紙を何度も読んでいたら、母親としてはやっぱり思うのよ。『一度、この子に会ってみたい』って」


 お母さんは優しい瞳で私を見つめる。


「ああ、この子が……手紙に出てきたヒマリちゃんなんだって。今こうして会えて、本当に嬉しいわ」

「ち、ちがいますっ! 勇者様が好きなのはエリシア様で――」

「それはないわ」


 またもや即答。きっぱりと言い切るその声に、私は言葉を失う。


「ふふ……ごめんなさいね。あなたに会えたのが嬉しくて、つい言っちゃったの。……でも、あくまで母親の勘だから。……ここだけの秘密にしておいてね?」


 お母さんはお茶目に笑って、夜空の星を見上げた。

 私は……私はもう頭の中がショート寸前だった。

 え、なにそれ!? 勇者様が、私を……!?

 いやいやいや、そんな、ありえないでしょ!?

 だって勇者様はエリシア様と――あ、でも……そういえば旅の途中であんなことが……。

 いやいやいやいやいや!!!


 顔が熱い。心臓がうるさい。思考はぐるぐる。

 星空はすごく綺麗なのに、私の頭の中は花火みたいにパーンって弾けて真っ白だった。

ここまでお読みいただきまして、ありがとうございます。

明日も更新予定です。


「面白い」とか

「続きが読みたい」とか、もし思っていただけたなら。

ブックマークや画面下の「☆☆☆☆☆」から評価を頂けるとすごく嬉しいです。


お手数だと思うのですが。

すごく、すごく励みになるので、よろしくお願いします(*ᴗˬᴗ)⁾⁾ペコ


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