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聖女ヒマリは告白の意味がわからない -鈍感聖女とツンデレ勇者の恋愛事情-  作者: 柚子猫


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19/51

19.鈍感聖女は、恋の誤解に追い詰められる

「ヒマリ様ー! もう朝ですよーっ!」


 元気いっぱいの声とともに、セリーナがカーテンをばさっと開けた。差し込んだ朝日が部屋を満たし、一気に目が覚める。


「うぅ……もうちょっと……」


 昨日はほとんど眠れなかった。

 莉央りおが言っていた、セリーナの首筋の“キスマーク”。

 私は直接見ていない。だけど、あれってつまり……そ、そういうこと!?

 想像が暴走して、枕を抱きしめながら転げ回ったせいで、結局一睡もできなかった。


「ほらほら! 起きないと朝ごはんが冷めちゃいますよー!」


 セリーナの笑顔が眩しい。

 いや、ただ朝日がまぶしいんじゃない。あの子の笑顔を見るたび、胸がざわざわして顔が熱くなるのは――“あの話”を思い出すから。


「あ、あの……セリーナ?」

「はいっ? なんでしょう?」

「セリーナって……その……男の人と……」


 言えない。絶対言えない。言葉が喉で詰まって爆発寸前。


「ん~~?」


 セリーナが小首をかしげて目をぱちぱちさせる。


「べ、別に! なんでもないから! 気にしないで!」

「あっ、わかっちゃいました! ““好きな人と過ごす大人の時間”のことですねっ!」

「ちょ、ちょーーっと待ってぇぇ!! そんな直球で言わないでぇ!!」


 顔が一気に真っ赤になって布団に潜り込みたくなる。なんでこの子、そんな無邪気に爆弾を投げてくるの!?


「えっと……セリーナって男爵令嬢なんですよね? じゃあ……お相手は婚約者の方とか……?」

「ないしょです」


 悪戯っぽくウインクしてツインテールをぴょんと揺らすセリーナ。

 やっぱり経験者なんだ……! そう思った瞬間、心臓がさらに跳ね上がる。


「でも――愛している人と抱き合うのって、すっごく幸せですよ? ……勇者様とは、まだしてないんですか?」

「な、ななななななななっ!? な、なに言ってるの!? 私と勇者様はそんな関係じゃないってば!」

「ほんとうですかぁ?」

「当たり前でしょ! 勇者様には、ちゃんと想ってる人がいるんだから! 私はそれを応援してるの!」


 必死に胸を張ると、セリーナは一瞬きょとんとしたあと、目をきらきらさせて身を乗り出した。


「わかりました! つまり……勇者様が好きなのはヒマリ様、ですよね!」

「へっ!? な、なんでそうなるの!?」

「だって毎日いっしょにいて、呼び方で照れて、手までつないじゃって……完全に恋人同士ですもん! そのうち絶対、毎晩ラブラブになっちゃいますよ」

「ち、ちがぁぁぁぁぁぁう!!!」


 爆弾みたいな一言を落としたセリーナは、はっとして背筋を伸ばした。


「そ、それでは! 用事を思い出しましたので失礼します!」


 ぱたぱたと音を立てて部屋を飛び出していく。

 私はその場に残され、顔を真っ赤にしたまま固まるしかなかった。

 恥ずかしすぎて動けない。


 そのとき、ガチャリと扉が開く。

 勇者様が戻ってきて、私の顔を見て目を丸くした。


「……ヒマリ!? な、なにがあった!?」

「な、な、な……なんでもありません!!!!」


 思わず叫んでしまった声が、部屋の壁に反響する。

 勇者様はきょとんとしたまま立ち尽くし、私は真っ赤な顔を両手で覆うしかなかった。


◇◆◇◆◇


 その日の午後、莉央と一緒に街へ買い物に出かけた。


「こっちの服って、思ったより普段着に近いのあるよね」

「ねー、助かるよね」


 お揃いのように紙袋を抱えて歩いていると、がじろっと私を見る。


「で――どーだったワケ?」

「わ、わわわっ!? な、なにが!?」

「とぼけんなって。昨日、あの子に聞いたんでしょ? その……“夜のこと”」

「ちょ、ちょっと! 声大きいってばぁ!!」


 私は小声で必死に答える。


「だ、だって……“好きな人と抱き合うとすっごく幸せ”とか……“毎晩一緒なら自然にそうなる”とか……! そ、そんなの想像したら……胸がドキドキしてっ!」

「ほらほら、完全に意識しちゃってんじゃん。顔まっかでアウトー!」

「ち、違っ……! そ、それは……!」

「いやいや、その反応。マジで済ませた人の顔なんだけど!? 経験者バレバレって感じ?」

「け、経験者じゃないしぃぃ!!!」


 莉央と私の声が重なり、通りに響いてしまう。


 その時、背後から影が落ちた。

 振り返ると、勇者様とアルバートさんが立っていた。二人とも顔が真っ青に固まっている。


「……仲が良いとは思っていたが、まさか……ヒマリとリオがそういう関係だったとはな」


 勇者様の声が震えていた。普段なら真っ赤になって怒鳴るはずなのに、その顔は蒼白で、拳を強く握りしめている。まるで、大切なものを奪われたみたいに。


「ち、ちがっ……! そ、そんなんじゃないから!!」

「誤解だからーーーっ!!!」


 私と莉央が同時に否定する。

 けれど勇者様は口を開きかけて、言葉にならず、苦しそうに視線をそらした。


 その横で、アルバートさんが低くぼそりと呟いた。


「……リオが幸せなら、それでいい」


 あまりに淡々とした声に、逆に焦りが込み上げる。

 慌てて私と莉央は首をぶんぶん振った。


「だから違うってばぁぁぁ!!!」


 結局、誤解を解くのに数時間もかかったのだった。

ここまでお読みいただきまして、ありがとうございます。

今日はあと一回に更新予定です。


「面白い」とか

「続きが読みたい」とか、もし思っていただけたなら。

ブックマークや画面下の「☆☆☆☆☆」から評価を頂けるとすごく嬉しいです。


お手数だと思うのですが。

すごく、すごく励みになるので、よろしくお願いします(*ᴗˬᴗ)⁾⁾ペコ


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