19.鈍感聖女は、恋の誤解に追い詰められる
「ヒマリ様ー! もう朝ですよーっ!」
元気いっぱいの声とともに、セリーナがカーテンをばさっと開けた。差し込んだ朝日が部屋を満たし、一気に目が覚める。
「うぅ……もうちょっと……」
昨日はほとんど眠れなかった。
莉央が言っていた、セリーナの首筋の“キスマーク”。
私は直接見ていない。だけど、あれってつまり……そ、そういうこと!?
想像が暴走して、枕を抱きしめながら転げ回ったせいで、結局一睡もできなかった。
「ほらほら! 起きないと朝ごはんが冷めちゃいますよー!」
セリーナの笑顔が眩しい。
いや、ただ朝日がまぶしいんじゃない。あの子の笑顔を見るたび、胸がざわざわして顔が熱くなるのは――“あの話”を思い出すから。
「あ、あの……セリーナ?」
「はいっ? なんでしょう?」
「セリーナって……その……男の人と……」
言えない。絶対言えない。言葉が喉で詰まって爆発寸前。
「ん~~?」
セリーナが小首をかしげて目をぱちぱちさせる。
「べ、別に! なんでもないから! 気にしないで!」
「あっ、わかっちゃいました! ““好きな人と過ごす大人の時間”のことですねっ!」
「ちょ、ちょーーっと待ってぇぇ!! そんな直球で言わないでぇ!!」
顔が一気に真っ赤になって布団に潜り込みたくなる。なんでこの子、そんな無邪気に爆弾を投げてくるの!?
「えっと……セリーナって男爵令嬢なんですよね? じゃあ……お相手は婚約者の方とか……?」
「ないしょです」
悪戯っぽくウインクしてツインテールをぴょんと揺らすセリーナ。
やっぱり経験者なんだ……! そう思った瞬間、心臓がさらに跳ね上がる。
「でも――愛している人と抱き合うのって、すっごく幸せですよ? ……勇者様とは、まだしてないんですか?」
「な、ななななななななっ!? な、なに言ってるの!? 私と勇者様はそんな関係じゃないってば!」
「ほんとうですかぁ?」
「当たり前でしょ! 勇者様には、ちゃんと想ってる人がいるんだから! 私はそれを応援してるの!」
必死に胸を張ると、セリーナは一瞬きょとんとしたあと、目をきらきらさせて身を乗り出した。
「わかりました! つまり……勇者様が好きなのはヒマリ様、ですよね!」
「へっ!? な、なんでそうなるの!?」
「だって毎日いっしょにいて、呼び方で照れて、手までつないじゃって……完全に恋人同士ですもん! そのうち絶対、毎晩ラブラブになっちゃいますよ」
「ち、ちがぁぁぁぁぁぁう!!!」
爆弾みたいな一言を落としたセリーナは、はっとして背筋を伸ばした。
「そ、それでは! 用事を思い出しましたので失礼します!」
ぱたぱたと音を立てて部屋を飛び出していく。
私はその場に残され、顔を真っ赤にしたまま固まるしかなかった。
恥ずかしすぎて動けない。
そのとき、ガチャリと扉が開く。
勇者様が戻ってきて、私の顔を見て目を丸くした。
「……ヒマリ!? な、なにがあった!?」
「な、な、な……なんでもありません!!!!」
思わず叫んでしまった声が、部屋の壁に反響する。
勇者様はきょとんとしたまま立ち尽くし、私は真っ赤な顔を両手で覆うしかなかった。
◇◆◇◆◇
その日の午後、莉央と一緒に街へ買い物に出かけた。
「こっちの服って、思ったより普段着に近いのあるよね」
「ねー、助かるよね」
お揃いのように紙袋を抱えて歩いていると、がじろっと私を見る。
「で――どーだったワケ?」
「わ、わわわっ!? な、なにが!?」
「とぼけんなって。昨日、あの子に聞いたんでしょ? その……“夜のこと”」
「ちょ、ちょっと! 声大きいってばぁ!!」
私は小声で必死に答える。
「だ、だって……“好きな人と抱き合うとすっごく幸せ”とか……“毎晩一緒なら自然にそうなる”とか……! そ、そんなの想像したら……胸がドキドキしてっ!」
「ほらほら、完全に意識しちゃってんじゃん。顔まっかでアウトー!」
「ち、違っ……! そ、それは……!」
「いやいや、その反応。マジで済ませた人の顔なんだけど!? 経験者バレバレって感じ?」
「け、経験者じゃないしぃぃ!!!」
莉央と私の声が重なり、通りに響いてしまう。
その時、背後から影が落ちた。
振り返ると、勇者様とアルバートさんが立っていた。二人とも顔が真っ青に固まっている。
「……仲が良いとは思っていたが、まさか……ヒマリとリオがそういう関係だったとはな」
勇者様の声が震えていた。普段なら真っ赤になって怒鳴るはずなのに、その顔は蒼白で、拳を強く握りしめている。まるで、大切なものを奪われたみたいに。
「ち、ちがっ……! そ、そんなんじゃないから!!」
「誤解だからーーーっ!!!」
私と莉央が同時に否定する。
けれど勇者様は口を開きかけて、言葉にならず、苦しそうに視線をそらした。
その横で、アルバートさんが低くぼそりと呟いた。
「……リオが幸せなら、それでいい」
あまりに淡々とした声に、逆に焦りが込み上げる。
慌てて私と莉央は首をぶんぶん振った。
「だから違うってばぁぁぁ!!!」
結局、誤解を解くのに数時間もかかったのだった。
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