18.鈍感聖女は、女子会トークで撃沈する
仮の結婚とはいえ、私と勇者様に専属の侍女が付くことになった。
「ヒマリ様、勇者様。本日よりお仕えさせていただきます、セリーナと申しますっ!」
ぴょこんとお辞儀したその子は、以前盗賊にさらわれていた侍女で、エリシア様の顔見知りだった子だ。
黒髪をツインテールにしていて、動くたびにぴょんぴょん揺れる。まるでウサギみたいに元気いっぱい。
……私に似てる? うーん、どうだろ。いやいや、あそこまで元気じゃないし。
「ヒマリ様はわたくしの命の恩人ですので! なんでもいたしますよ! もちろん勇者様のことも!」
にっこり笑ってそう言われた瞬間、勇者様がわずかに肩を跳ねさせた。
そして、顔を赤くしてそっぽを向く。
「い、いらん……! 私は他人に世話されるのは苦手だ……! ――それに、ヒマリがいるから十分だ」
……結局、セリーナのお世話や話し相手は、ほとんど私担当になった。
勇者様はどうしてもって感じで拒否してたけど……そんなに嫌がらなくてもいいのに。
その時、一瞬だけ視線をそらした勇者様の横顔が、ちょっと拗ねてるみたいに見えて――いやいや、まさか。気のせいだよね。
◇◆◇◆◇
勇者様が外出している午後。
私は窓辺に腰かけ、ぼんやりと外の空を眺めていた。
あの事件から一週間。
エルリック様が捕らえた盗賊に魅了解除を試したけど、効果はなかった。
「魅了はかかっていなかったのだろう」という結論になったけれど……あの目の虚ろさは、やっぱり気になる。胸の奥に小さな棘が残ったまま、落ち着かない。
――こんなふうに悩んでも仕方ないってわかってるけど。
ため息をつきかけた、その時。
「陽葵~! 今大丈夫? 遊びに来たよー!」
元気な声と共に、扉を開けて入ってきたのは莉央だった。
その明るさに、さっきまでの不安が少しだけ和らいでいく気がした。
「暇してたんじゃない? ほら、あーしが相手してあげる!」
「もう……お姉さん気取り?」
「ふふん、感謝しなさいっての」
そう言って勝手に窓辺に腰かけた莉央は、髪をかき上げながらにやりと笑う。
その顔を見ているうちに、少しずつ部屋の空気が軽くなっていく。
「でさ、この間出かけた時、アルっとがさぁ――」
自然な調子で、莉央の話題はいつもの雑談に流れ込んでいった。
莉央が楽しそうに話していると、ふと私は気づいた。
「あれ、最近アルバートさんの話、多くない?」
「……っ!? べ、別に! そんなんじゃないし! たまたま一緒に出かけること増えただけだから!」
莉央は慌てて声を上げ、手をばたばたさせる。
「ううん、そうかなぁ? だって、アルバートさんって――」
言いかけた言葉を、私は慌てて飲み込んだ。リオに好意があるんじゃないか、なんて言ったら絶対怒られるに決まってる。
「ふふっ」
「な、なによその顔!?」
「なんでもないよ?」
「はぁぁぁ!? マジで違うから! アルっととはトモダチなだけだし! そーゆーんじゃないから、ホント!」
莉央は両手をぶんぶん振って、顔を真っ赤にして否定した。
普段はからかう側なのに、まさかこんなに慌てるなんて……めずらしい。
「ちょ、変な空気やめよ! ほんっとそーいうんじゃないから!」
必死に言い訳するその姿が、逆に怪しく見えてしまう。そう思ったら、自然と口元が緩んでしまった。
と、その空気に乗っかるみたいに、セリーナが勢いよく身を乗り出してきた。
「アルバート様、素敵ですよねっ! リオ様のお気持ち、わたしわかりますっ!」
「ちょ、ちょっと!? なんでアンタまで乗っかんのよ!? ……てか誰!?」
莉央が思わずツッコミを入れると、セリーナはぴょこんと背筋を伸ばして答えた。
「ヒマリ様付きの侍女をしております、セリーナと申しますっ!」
「あっ……この前の盗賊のとき助けた子じゃん。エリシア様が“ヒマリに似てるから覚えていた”って言ってた……」
「はいっ! その節は本当にお世話になりましたっ!」
勢いよく頭を下げる拍子に、ツインテールがぴょんぴょん跳ねて、まるで元気なうさぎみたいに見えた。
「セリーナちゃん、私たちと同い年なんだよ」
「へぇ〜、そうなん? 今いくつ?」
「えっと、今はまだ十六歳ですっ!」
「マジで? じゃあ同世代じゃん! 一気にトモダチ感あるわ〜」
莉央がにかっと笑うと、セリーナも嬉しそうにツインテールを揺らして笑う。
そのやり取りにつられて、私もつい笑顔になった。
ほのぼのした空気が流れて――その矢先。
「で、それよりっ! さっきの恋バナの続きですけど!」
セリーナが勢いよく身を乗り出してきた。
あまりの元気さに、私とリオは同時に「え、今そこ戻るの!?」って顔になってしまった。
「なんで戻すのよ! 今いい感じに世間話してたじゃん!」
「え、でも……私も聞きたいけど?」
気づいたら口が勝手に動いていて、私は少し照れながら笑った。
「ですよねーーっ!」
セリーナはパッと顔を輝かせ、机に手を叩く勢いで同意する。
息ぴったりで盛り上がる私とセリーナに、リオは「はぁ……なんであんたら意気投合してんのよ」と頭を抱えていた。
「もう! ……マジでなんでもないってば! あいつがいちいち誘うから、一緒に出かけることが増えただけ! それ以上も以下もないの! はい、この話おしまいっ!」
莉央は顔を真っ赤にしながら、両手をぶんぶん振って話を打ち切ろうとする。
「えーーー」
「えーーー」
私とセリーナの声が、ぴったりハモってしまった。
「ちょ、やめてよその合いの手! ほんっとムカつく!」
莉央はわざとらしくぷいっと顔をそらす。
「それより! あんたはどうなのよ!」
「わ、私?」
「そうよ! 勇者様とエリシア様とのこと。どうなってるのよ!」
リオの真剣な目に押されて、私は少し戸惑った。けれど、すぐに頭に浮かんだ光景があって――思わず口を開く。
「うん、いい感じだと思うよ! だってこの前なんて、二人で窓辺に並んで腰かけて、すっごく楽しそうに話してたの。見てた私まで顔が熱くなっちゃったくらい。それにね、書類を一緒に覗き込んだときなんて、顔が触れそうなくらいで……思わず息止めちゃったんだよ。おまけに、お茶のカップを取り違えたのに、そのまま普通に飲んじゃって……あれはもう、見てるこっちがドキドキしたんだから!」
にこにこと語る私に、リオとセリーナは同時に固まった。
「ちょ、ちょっと待って!? それ、ガチでイチャついてるやつじゃん!? え、ヤバくない!?」
「ひゃぁぁぁぁっ! 聞いてるだけで顔が赤くなりますっ! も、もうお似合いすぎてどうしましょうっ!」
セリーナは耳まで真っ赤になって、慌てて立ち上がる。
「わ、わたし急に思い出しましたっ! お洗濯たたみっぱなしでしたっ! し、失礼しますーーっ!」
声が裏返りながら、あからさまに動揺した足取りでバタバタと部屋を飛び出していった。
「え、えぇ? どうしたんだろ……」
私が首をかしげると、莉央は腕を組んでため息をついた。
「……あー、やっぱ勘違いしてたわ。アンタ、さっきから“勇者様とエリシア様”のこと話してたんでしょ?」
「え? そうだけど?」
「勇者様は……誰が好きだと思ってんの?」
「え? エリシア様でしょ!!!」
私は迷いなく即答。にこにこと笑った瞬間、リオの顔が盛大に引きつる。
「はぁ!? マジか……アンタほんっとに気づいてないんだね」
「でも、セリーナなんで急に出てっちゃったんだろ? 勇者様とエリシア様のラブラブ話に興奮しすぎたとか?」
「……あの子、そんなにウブじゃないわよ」
「へ?」
「首筋に――キスマーク残ってた」
私の思考はその瞬間、ぷつんと音を立てて止まった。
そして次の瞬間、一気に顔が真っ赤になる。
「……き、キスマーク!? そ、それって……そーいうこと!? こ、こいびと同士が……え、その……! うわああああああああっ!!!」
頭の中に、どうしても言葉にできない“その先”が浮かんでしまって、慌てて両手で顔を覆った。
だめだ、考えちゃだめ! でももう想像が止まらないっ!
私の悲鳴が部屋に響き渡る。
「ま、案外ああいうタイプの子の方が進んでるもんよ」
私は顔を真っ赤にしたまま、必死で首をぶんぶん振るしかなかった。
「で、でも……だって……」
「同じタイプでここまでピュアなの、マジであんたくらいよ」
莉央のギャルっぽい冷静すぎる一言に、私はその場でカチコチに固まったまま動けなくなった。
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次回は明日更新予定です。
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