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聖女ヒマリは告白の意味がわからない -鈍感聖女とツンデレ勇者の恋愛事情-  作者: 柚子猫


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16/51

16.鈍感聖女は、銀髪の影を追う

 ――甲高い悲鳴を聞きつけて、私たちは一気に駆け出した。

 カフェを飛び出し、声のした路地へ急ぐと、そこには呆然と座り込む一人の男がいた。顔色は真っ青で、肩を震わせている。


「お、おい……大丈夫か?」


 アルバートさんが声をかけると、男はがばっと顔を上げた。


「オ、オレの……オレの店の仲間が……! カフェで働いてる彼女がさらわれたんだ!」

「ええっ!?」


 思わず声が裏返る私。まさかの展開。いや、堂々と誘拐とかアリなの!?


「ちょ、それって例の誘拐犯じゃね? 噂になってたヤツ」

「……こんなに堂々とするものなのか」


 アルバートさんが眉をひそめ、莉央りおは腕を組んで唸る。

 私たちは慌てて男から詳しい話を聞いた。


「顔は……仮面で隠していた……だが、ひとつだけ覚えてる……。銀髪……とんでもなく、美しい銀髪の男だった……」

「銀髪……」


 私たちは一斉に顔を見合わせる。そんな目立つ特徴のある人、そうそういない。


陽葵ひまり、追跡の魔法とか使えないの?」


 莉央が真剣な表情で私を見る。


「任せて!」


 私は胸の前で手を組み、光の術式を紡いだ。


「――【追跡魔法ルミナス・トレース】!」


 地面に光の紋様が広がり、空中に王都の立体地図が浮かび上がる。そこに、赤い点がいくつも瞬きながら高速で移動していた。


「これって……」

「人攫いグループの足跡を可視化したのよ」


 赤い点はまるで風のように王都の出口へ向かっていた。


「なにこのスピード! 馬車どころか、馬でも追いつけないよ!」

「相手も何らかの魔法を使ってるっぽいね。フツーじゃあり得ない速さだし」

「……地上を高速で移動できる魔法……勇者パーティーで使えるのはエルリックだけだ」


 アルバートさんの言葉に、私はぐっと眉をひそめた。


「今から呼びに行っても、間に合わない!」


 焦りかけたその時、赤い点のいくつかがふっと止まった。


「な、なにごと!?」

「ご安心ください、容疑者の一部を拘束いたしましたわ」


 振り返ると、光り輝く魔法の杖を手にしたエリシア姫が、すました顔で立っていた。


「勇者様はすでに先行されていますわ。――まあ、あの方は勢いばかりで、後始末は結局わたくしの役目ですけれど」


 お嬢様らしい皮肉を添えたその言葉に、私と莉央は苦笑い。


「……すげー、息ぴったりじゃん」

「……いや、皮肉まじりだろ」

「二人とも頼もしすぎる……!」


 私たちも慌てて赤い点の方向へ駆けだした。


◇◆◇◆◇


 王都を出た林の中――。

 先に到着していた勇者様が、盗賊たちと激しく刃を交えていた。

 鋭い剣閃がひとつ走るたび、敵は次々と地に伏していく。


 だが最後に立ちはだかっていたのは、銀髪の男ではなく、大剣を振り回す筋骨隆々の巨漢だった。


「お前ら……ここは通さねぇ!」


 咆哮とともに大剣が振り下ろされる。

 勇者様が受け止めるも、衝撃で地面が大きく抉れる。


「くっ……!」

「ひまり! あたしらも行くよ!」

「うん!」


 私と莉央、アルバートさんも戦場に飛び込む。


「――【雷槍の奔流トレント・サンダースピア】!」


 莉央が杖を振りかざし、雷光の槍が空を裂くように巨漢へ突き刺さった。

 だが相手は怯むどころか、大剣を盾のように振り回して雷撃を弾き飛ばす。


「なにそれ、硬すぎでしょ!?」

「なら――俺が受け止める!」


 アルバートさんが突進し、転がっていた鉄の盾を拾い上げた。

 次に振り下ろされた大剣を、正面から――。


「ぐぅぅぅっ……だが、止める!」


 轟音と火花。衝撃で土煙が舞い上がる。

 それでもアルバートさんは一歩も退かず、盾を押し返していた。


「アルバートさん!」

「マジ硬ぇ! 絶対止めるマンじゃん!」


 莉央が笑い混じりに叫び、私は両手を広げる。


「――【聖域結界ホーリー・バリア】!」


 聖なる光の障壁が仲間全員を包み、巨漢の大剣の衝撃を和らげた。

 その隙を逃さず、勇者様が鋭く剣を振るう。


「はぁああっ!」


 火花とともに巨漢の体勢が崩れた、その瞬間――。


「――【拘束の鎖・強化エンチャント・レストレイント】!」


 エリシア様の声が林に響き、黄金の鎖が空間を裂いて現れる。

 巨漢の両脚を絡め取り、さらに全身を縛りつけ、地面へと叩きつけた。


「ぐっ……! くそ……っ!」


 地面に沈む巨漢。

 勇者様が駆け寄り、両腕をがっちり押さえる。

 アルバートさんはその上から体重をかけ、私は【封印結界】を展開して補強する。


「……ふぅ、これでやっと大人しくなったね」

「……やっぱエリシア様、半端ないわ」

「おほめいただいて光栄ですわ。……ヒマリが見てくださっていると思うと、自然と力が湧いてくるんですの」

「……助かったな」

「フン……お前らが遅いから、こっちはひとりで手間取ったんだぞ」


 ツンと顔をそむけながら、勇者様がぼやく。

 でもその手は、決して緩めず力強く巨漢を押さえつけていた。


 ――なんだかんだで、やっぱり一番頼りになるのは勇者様なんだよね。


 五人でなんとか捕縛に成功。

 少し遅れて衛兵たちが駆けつけ、周囲を取り囲んだ。


◇◆◇◆◇


 鎖に縛られた巨漢は、地面に叩きつけられたまま荒い息を吐いていた。

 その目は焦点が合わず、まるで深い霧の中に迷い込んだみたい。


「……様子がおかしい」


 アルバートさんが眉をひそめる。


「ただの盗賊って感じじゃないね。なんか、目が……」


 莉央も不安そうに呟いた。

 私は胸に手を当て、決意して一歩踏み出す。


「――【安らぎのセレニティ・ライト】!」


 青白い光が巨漢を包み、その濁った瞳にわずかな輝きが戻る。

 私はすかさず問いかけた。


「さらった人はどこ!? どこに連れていったの!?」


 荒い息の合間に、男はかすれた声を絞り出す。


「……森……南……はずれ……古い……小屋……」

「小屋!? 森の南……!」


 莉央と顔を見合わせ、私はさらに詰め寄った。


「誰と一緒に!? 銀髪の男は!?」

「……リーダー……銀の……髪……そいつが……」


 言葉はそこまでだった。

 再び目の光が濁り、力なく地面に崩れ落ちる。


「おい! しっかりしろ!」


 アルバートさんが揺さぶるけれど、もう反応はない。

 私は息を呑んだ。

 この感覚、知っている。


「……魔族に操られてる。これ……魔王討伐の旅で見たのと同じだ」


 胸の奥に嫌な記憶が蘇る。

 あの時も、人間が人間の意思を奪われて、ただ戦わされていた。


「じゃあ、この銀髪の男が……?」

「……関係してるかもしれない」


 莉央の顔も真剣になる。

 アルバートさんは黙って剣を握りしめていた。


「とにかく急ごう! まだ人質は無事かもしれない!」

「おっけ! 全力でいくしか!」

「……行くぞ」

「ぐずぐずしてる暇はない、走れ!」

「ヒマリ様のためにも、必ず救い出してみせますわ!」


 五人でうなずき合い、私は杖を握りしめた。


◇◆◇◆◇


 森を抜けると、小さな木立に囲まれた古びた小屋があった。

 すでに周囲は近衛騎士たちによって完全に包囲されている。


「……なんでこんなに準備がいいの?」

「マジでタイミング良すぎじゃん。もしかして、あーしたち“おとり”にされてたとか?」

「……あり得る」

「父上の手回しでしょうか……それにしても早すぎますわ」

「……つまり俺たちは、最初から狙われるよう仕向けられていた……ってことか」


 ぞくりと背筋が冷える。

 そう話していると、見知った顔が歩み寄ってきた。


「やあ、来るのが遅かったね」


 涼やかな声。

 姿を見せたのは――勇者パーティーの魔導剣士、エルリック様だった。


「エルリック様!」


 私が思わず声を上げると、彼は爽やかな笑みを浮かべて肩をすくめた。


「人攫いの集団なら、一足先に捕まえておいたよ」


 小屋の中を覗くと、縛られていた“カフェ店員”の女性が保護され、気絶した盗賊たちが転がっている。

 けれど――。


「……銀髪の男はいない」


 アルバートさんの低い声が、場の空気をさらに重くした。

ここまでお読みいただきまして、ありがとうございます。

次回はお昼ごろ更新予定です。


「面白い」とか

「続きが読みたい」とか、もし思っていただけたなら。

ブックマークや画面下の「☆☆☆☆☆」から評価を頂けるとすごく嬉しいです。


お手数だと思うのですが。

すごく、すごく励みになるので、よろしくお願いします(*ᴗˬᴗ)⁾⁾ペコ


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