15.鈍感聖女は、ラブラブ作戦を応援する
王都の城下町は、いつ訪れても活気に満ちている。石畳の道の両脇には、香ばしい焼き菓子を並べた屋台や色鮮やかな布地を売る店が軒を連ね、人々の笑い声が絶えない。遠くから見える城壁の白さと、空の青さが鮮やかに溶け合って、まるで絵本の中のような景色だった。
――そんな町並みを、勇者様とエリシア様が並んで歩いていた。
護衛の尾行が少し後ろについていて、そのさらに後ろを、私たち三人がこそこそついていく。遠目からの観察だから、表情ははっきり見えないけれど……。
「なぁ、意味あるのか?」
アルバートさんがぼそっとつぶやく。
「あるわよ!」
「あるっしょ!」
私と莉央は声をそろえて叫んでいた。
「だって、勇者様とエリシア様の初デートなんだから!」
「そーゆーの見守るの、めっちゃ楽しそうじゃん? 理由とかいらなくね?」
「……はぁ」
あきれ顔のアルバートさん。ま、分かってないなぁ。
ちなみに、私たちはそれぞれ変装中。
私は――莉央がコーディネートした、ウサ耳パーカーにサングラス。可愛いのか怪しいのか、よく分からない組み合わせ。
莉央は、派手な色のスカーフに短いスカートで、ギャルっぽさ全開。
そしてアルバートさんは、農夫みたいな質素な服を着込んでいる。
「……ねぇ、これやっぱりおかしくない?」
自分の格好を見下ろして、思わずぼやく私。
すると莉央がにこっと笑って肩をぽんと叩く。
「全然イケてるって! 陽葵、マジ似合ってんだから自信もちな?」
「そ、そうかな……?」
少し安心したけど、やっぱり不安は消えない。
そんなやり取りを見ていたアルバートさんが、低くぼそり。
「……おまえら、どう見ても怪しいぞ」
「えー? あーしのはちゃんと“ギャルかわ”じゃん?」
「いや、目立ちすぎて隠れる意味がない」
「ひどっ! アルバート、ガチ説教モード?」
「……まぁ……かわいいが」
最後のひと言に、莉央の目がきらっと光る。
「ちょ、今“かわいい”って言った!? 聞いた? 陽葵!」
「う、うん、聞いたけど……」
「……言ってない」
アルバートさんはそっぽを向いてしまった。
――いやいや、それ完全に照れてるやつ。
「ほら、あの角を曲がったわよ!」
私が声をひそめると、三人で慌てて追いかける。
◇◆◇◆◇
二人が入っていったのは、小洒落たカフェだった。
勇者様はシンプルな黒いチュニックにマント姿。髪を隠すフードをかぶっていても隠しきれないイケメンオーラがだだ漏れ。
一方のエリシア様は淡い桃色のワンピースに白いケープ。上品さと可愛らしさが混じっていて、思わず「似合ってる!」って叫びたくなるほどだ。
「ちょ、ふたりマジ美男美女すぎじゃん。逆に目立ってんだけど」
「……あいつら、隠れる気あるのか」
莉央とアルバートさんの言葉に、私はうんうんとうなずく。
私たちもこっそり店に入り、かなり離れた席に座って観察を続ける。
やがて運ばれてきたのは巨大なパフェ。ストローが二本、ハート型に絡んでいる。
……なにこれ、完全にラブラブ強制アイテムじゃん!?
でもエリシア様はにっこり笑ったまま、手をすべらせて床に落とした。
……え、今のわざとに見えたけど……気のせいだよね?
その直後、店の奥から小声が届いた。
「……ラブラブ作戦A失敗です……」
……はい? 今、作戦って言った?
次に、店内を白い子ウサギがぴょんぴょん駆け回った。
エリシア様は「まぁ」と席を立ち、抱き上げて飼い主らしき客に渡す。すると店内の客たちがわざとらしい拍手。
その間に店員が、勇者様の椅子をぐっとエリシア様の席の隣へ寄せる。
しかし勇者様は窓の外を眺めたまま、まったく反応しない。
戻ってきたエリシア様は、にっこりと笑いながら椅子を元に戻して腰を下ろした。
裏でウサギを抱えた客が小声で報告するのが聞こえてくる。
「……ラブラブ作戦失敗Bです……」
報告員の表情はどんどん暗くなり、今にも泣き出しそう。
「あ、泣きそうになってる……」
「やば、同情しちゃうわ」
「……任務で心を折られるやつも珍しい」
三人で小声でささやき合う。なんだか、こっちの胸まできゅっとなった。
「いやー、もうさ、客も店員も全員グルじゃね?」
「……王様の差し金だな」
「……二人とも、うまくいけーって、つい応援したくなるよ」
莉央がギャルっぽく茶化し、アルバートさんが低くツッコミ、私はそっと祈るように呟いた。
さらに楽団が現れ、甘い旋律を奏で始めた。店内は一気にロマンチックムード。
続いて、店員が花束を勇者様に差し出す。
勇者様は困ったように受け取り、ひとまずエリシア様へ差し出す。
だが、エリシア様は固まった笑顔のまま受け取らず、代わりに近くの店員へ「どうぞ」と渡してしまった。
演奏が途切れ、店員や護衛たちの顔が一斉に青ざめる。
そしてまた聞こえる、小さな報告の声。
「……ラブラブ作戦C失敗です……」
報告員はついに涙ぐみ、肩を落としていた。
「……泣いちゃったよ」
「マジかー、これはメンタルやられるっしょ」
「……気の毒だ」
その姿を見て、私も胸がチクっとする。いや、もう泣きたいのはこっちだよ……。
「いやー、マジで見てらんないんだけど。空気読めっての」
「……茶番だ。あんな仕込みで恋が芽生えるか」
「勇者様、エリシア様……がんばって!」
私たちはそれぞれの反応をしながら、遠くの席で成り行きを見守る。
――ぜんぶ王様の仕込み。けれど、どうあがいても二人は自然体のまま。
見ているこっちが気まずくなりかけた、そのときだった。
店の裏手から甲高い悲鳴が響き渡った。
「――誰か! 助けてくれ!」
私たちは顔を見合わせ、一斉に席を立つ。
どうやら、茶番の次に待っていたのは――本物の事件らしい。
ここまでお読みいただきまして、ありがとうございます。
明日も回更新予定です。
「面白い」とか
「続きが読みたい」とか、もし思っていただけたなら。
ブックマークや画面下の「☆☆☆☆☆」から評価を頂けるとすごく嬉しいです。
お手数だと思うのですが。
すごく、すごく励みになるので、よろしくお願いします(*ᴗˬᴗ)⁾⁾ペコ




