表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女ヒマリは告白の意味がわからない -鈍感聖女とツンデレ勇者の恋愛事情-  作者: 柚子猫


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/51

14.鈍感聖女は、微笑みの裏に気づかない

 王城の庭園。噴水の水音と花々の香りに包まれた席で、王家主催のお茶会が開かれていた。

 銀器に紅茶が注がれ、焼き菓子の甘い香りが漂う。私たち勇者パーティは招かれて、王と妃、王子王女たちと顔を合わせていた。


◇◆◇◆◇


 開始早々、第一王子ダリル殿下が椅子をがたんと鳴らして立ち上がった。

 小太りの体を揺らし、顔を真っ赤にしながら、大きすぎる画集を抱えている。


「ひ、ヒマリ嬢っ! これを見給え! わ、わが筆で描いた百枚スケッチ集っ! 寝顔から食事の仕草まで! どれもっ……ああ、尊い!」


 机いっぱいに広げられた瞬間、私の似顔絵が散らばった。……え、えぇっと?

 しかも、どう見ても侍女さんに描かせたであろう、精密すぎる写生まで混じってる。


「わ、わたし……その……」


 思わず引きつった笑みで視線を泳がせてしまう。どう反応すればいいのかわからない……!

 なおもダリル殿下は勢いを止めない。


「君の祈りの姿は天使! いや女神! 我が魂は、すでに君のものだああ!」


 涎を飛ばしながら両腕を広げる姿に、侍女さんたちが青ざめて一歩引いていた。

 そこへ、エルリック様がやわらかな笑みを浮かべて口を挟む。


「兄上、その情熱……見事ではありますが、この場にふさわしいかは疑わしいですね」


 軽やかに画集を閉じ、私の前に落ちた一枚をさりげなく拾い上げる。


「ヒマリ嬢を困らせては本末転倒です。想いを伝えるならば、もっと――彼女が笑顔でいられるやり方でなければ」


 言葉は丁寧で柔らかいのに、不思議と反論を許さぬ響きがあった。


「お、おい……っ!」


 勇者様までが口を開いた。耳まで赤くして、そっぽを向いたままぶっきらぼうに言う。


「そ、そんな変なもん広げんな! こいつ、困ってんだろ!」

「む、むぅ……しかし私は……!」

「いいから黙って……い、いただけませんか、ダリル殿下! ……じゃなくて、とにかく座れ!」


 勇者様の一喝に、ダリル殿下は頬を膨らませながらも渋々腰を下ろした。

 張り詰めていた空気がわずかに緩む。


 すると、ずっとお行儀よく座っていた第三王子セオドル様が、ぱたぱたと椅子を降りて立ち上がった。

 その小さな足取りでテーブルを回り込み、まっすぐ莉央りおのもとへ駆け寄ると、するりと膝の上に乗ってしまった。


「リオねえさま! このお菓子おいしいね!」


 頬をすり寄せながらにこにこと笑う姿に、リオは目を丸くしてから吹き出した。


「ちょ、ちょっと~! なつきすぎ! でもかわいーから許す!」


 莉央が頭をなでてやると、セオドル様はうっとりと目を細める。

 そのとき、アルバートさんが小さく咳払いして、視線を逸らしたように見えた。

 きっと気のせいかもしれないけれど……無口な彼にしては珍しい気がして、私はちょっと胸がくすぐったくなった。


 そんな和やかな空気の中で、第一王女エリシア様の視線が私に注がれていることに気づく。


「……やっぱり、今日もお美しいですわ……」


 小さな声だったけれど、はっきりと届いた。

 恥ずかしさをごまかそうとしたのか、彼女は両手でカップを持ち直しながら、さらに続けてしまう。


「ヒマリ様の微笑みは、わたくしの心まで明るくしてくださいますの。お召し物も本当に素敵……ああ、毎日お隣で眺めていたいくらいですわ」

「えっ……あ、ありがとうございます……」


 思わず困ったように笑みを返したけれど、あまりに真っ直ぐな瞳に射抜かれて、少し頬が熱くなってしまった。

 ……ちらりと横を見ると、勇者様がむすっと視線を逸らしている。

 え、なにその反応。もしかして不機嫌……やっぱり嫉妬?


「勇者殿、聖女殿。……そなたらの“仮の婚約”も、もうひと月になろうな」


 国王陛下の言葉に、勇者様は慌てて咳払いして、そっぽを向いた。


「べ、別に深ぇ意味なんかねぇだろ! 仮なんだからよ!」


 私は首をかしげながら、思ったことをそのまま口にしてしまう。


「はい、もちろんです。だって勇者様には、もっと綺麗で高貴な方がお似合いですもん!」

「なっ……! お、俺はそんなこと一言も言ってねぇ!! お前はすぐそういうこと言うからややこしくなんだよっ!」


 勇者様は耳まで真っ赤にして否定していた。……やっぱり素直じゃない。


 そのやり取りを見ていた王族の方々は、穏やかな笑みを崩さぬまま視線を交わしていた。

 私にはただの事実を言ったつもりなんだけど……どうしてか、まるで私が勇者様を想っているみたいな空気になっていた。


 そこに、王妃様が白磁のカップを細指で持ち上げ、紅茶をひと口含んでから、やさしく言葉を紡ぐ。


「出会いとは、不思議なものでございますわね。共に戦い、共に時を過ごすうちに、心は思いもよらぬ形に動くこともございます。……婚約が仮のものであれど、その間に本当に大切に想えるお相手と巡り合うのならば、それはむしろ喜ばしいこと」


 柔らかな声色に包まれながら、私は思わず背筋を伸ばした。


 王妃様が私に目を向け、ふわりと笑みを深められる。

 その落ち着いた眼差しは、いつも変わらず私を大切にしてくださっていて――胸の奥があたたかくなった。


「勇者様も、聖女様も……もし特別に感じられる方が現れているのなら、遠慮なくお話しくださってよろしいのですよ」


 勇者様は頬を赤くして、ぶっきらぼうに答える。


「……べ、別に俺は他にどうこうとかねぇよ」


 私も慌てて、つい口が滑ってしまった。


「わたしもありませんよ。だって勇者様は、まだ“その気”になってないですもん。これからですよね?」


 私としては、ただ事実を言っただけのつもりだった。

 でも、国王陛下と王妃様がちらりと視線を交わして、なんだか妙に含みのある笑みを浮かべた気がして――ぞわっと背中が熱くなる。


 ち、違う! そんな空気じゃない!

 私は勇者様のことを好きだなんて、一言も言ってないのに!

 慌てて口を開きかけたけれど、場の流れに飲まれて声が出せず、私はただ紅茶のカップをぎゅっと握りしめてしまった。


◇◆◇◆◇


「では……話を変えよう」


 国王は咳払いをし、声を低める。


「近頃、街で人が消える事件が続いておる。勇者殿、そなたに調査を頼みたい。……息抜きにもなろう」


 私は思わず息をのんだ。けれど、国王陛下は間を置かず言葉を重ねてくる。


「同行者は、エリシアとする。行方不明者の中に、彼女の知人もおるゆえな」


 王と妃は、穏やかな笑みを浮かべていた。

 表向きには「信頼」と「必要性」の体裁を整えている。けれど……二人の視線の奥に、言葉にしない思惑がにじんでいるように感じられる。


 その瞬間、エリシア様がぱちりと瞬きをし、ゆるやかに表情をこわばらせた。


「……え? わ、わたくしが勇者様と……?」


 小声ながら、はっきりと嫌そうな色がにじむ。


「お、おい勝手に決めるな!」

「わぁ! 勇者様とエリシア様のペア調査ですね! なんだか素敵です! きっと息もぴったりですよ!」

「だ、だから勝手に決めつけんなっての!」


 勇者様が真っ赤になって突っかかる。

 しかしその横で、エリシア様はぴしゃりと言い放った。


「ありえませんわ! 勇者様と二人きりなど……むしろ邪魔です!」


 思わず息をのんだ。お茶会の場の空気が、ぴんと張りつめた気がする。

 エリシア様は胸の前で両手を組み直し、今度は熱のこもった瞳を私に向けてきた。


「わたくしはヒマリ様とご一緒がよろしいのです! 勇者様と歩くくらいなら、ヒマリ様と並んで……その方が、ずっと望ましいのです!」

「おい、こらぁぁぁ!!」


 勇者様が声を裏返して叫ぶ。

 私は返事に困って、ただ曖昧な笑みを浮かべるしかなかった。


 その様子を見て、国王陛下と王妃様は視線を交わす。

 笑みを保ちながらも、瞳の奥にかすかな不快の色を宿していた。


「……エリシア。お前の気持ちはわかった。だが、この件は個人の好みで決められるものではない」


 国王陛下の声は穏やかだが、有無を言わせぬ響きを帯びていた。


「行方不明者にお前の知人がいる以上、無関係ではおれぬ。そして勇者殿の力を添えれば、調査も確実に進もう。よって、二人で向かうのが最も妥当であろう」

「……人の縁とは、思うようには参りませんわね」


 王妃様は紅茶を口にしながら、瞳の奥にかすかな不満をにじませていた。

ここまでお読みいただきまして、ありがとうございます。

次回は本日の夜に更新予定です。


「面白い」とか

「続きが読みたい」とか、もし思っていただけたなら。

ブックマークや画面下の「☆☆☆☆☆」から評価を頂けるとすごく嬉しいです。


お手数だと思うのですが。

すごく、すごく励みになるので、よろしくお願いします(*ᴗˬᴗ)⁾⁾ペコ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ