11.鈍感聖女は、恋の探偵になる
最近のアルバートさん、なんか変だ。
元から寡黙であんまり喋らない人だけど……さらに輪をかけて無口になっている。
「アルバートさん、元気ないですね。何かありました?」
「……別に」
「いやいやいやいや、ぜったい何かありますよね!? そういう“何も言わない”のが一番あやしいやつです!」
わたしがじっと顔を覗き込むと、彼はばつが悪そうに視線をそらした。
……で、その目線の先にいたのは――莉央ちゃん。
なるほど。
確かに最近、莉央と勇者様はよく話している。前から仲良しではあったけど、ここ最近はやたら二人だけでコソコソしてるような……。
ま、まさか……!?
エリシア様がいるのに、浮気……!?
わたしの頭の中で警報が鳴り響いた。
いやいや、勇者様に限ってそんな――いやでも、あの二人の距離感、怪しすぎる!
「アルバートさん、ここは放っておけません!」
「……放っておけ」
「アルバートさん! 諦め早すぎです! 真実は自分の目で確かめないと!」
ということで。
気乗りしないアルバートさんを半ば強引に引っ張り出して、わたしたちは勇者様と莉央の尾行を始めたのだった。
◇◆◇◆◇
「しーっ、静かに! 今いいところなんです!」
「……お前の足音が一番うるさい」
言われてハッとする。
慌てて忍び足に切り替えたら――ドンッ! すぐ後ろの花瓶に足が当たった!
「ひゃあああ!?」
「……っ」
瞬間、アルバートさんがものすごい速さで花瓶をキャッチ。
セーフ! 花瓶セーフ! でも、わたしの心臓はアウト!
「し、死ぬかと思いました……」
「……こっちが死ぬ」
柱の陰から身を乗り出すわたし。
その先では、勇者様と莉央が真剣な顔でなにやら話し込んでいた。
「……で、タイミングはいつがいい?」
「うーん、やっぱり自然な流れで、相手を安心させてからじゃない?」
こ、これは……!
ぜったい恋愛相談じゃん!
「きゃー! アルバートさん聞きました!? 絶対そうですよ! 恋の作戦会議ですってば!」
「……主語が、聞こえない」
「そんなのエリシア様に決まってるじゃないですか!」
思わず声が大きくなって、慌てて口を押さえる。
危ない危ない。もしバレたら探偵活動は即終了だ。
そう思った矢先――「ずるっ!」と足がもつれて、前のめりに倒れかけた。
すぐにアルバートさんがドンッ!と抱きとめてくれたけど……
「ひゃあ……すみません……」
「……もう帰れ」
「ダメです! 真相が分かるまでは絶対帰りません!」
アルバートさんはこめかみに手を当てて、深々とため息。
……いや、わかりますよ? でも帰りませんけど!
その時、さらに二人の会話が耳に届いた。
「……やっぱ、俺には釣り合わないんじゃないか?」
「えー、なに言ってんのマジで! 全然そんなことないっしょ!」
「けど……あいつは綺麗で、立場もあるし……」
「だからこそだってば! ちゃんと伝えなきゃ始まんないって! マジ勇気出してガツンと行けば、絶対喜んでくれるから!」
――キャーーーー!!! 今の聞きました!?!?!?
どう考えても、今の「あいつ」ってエリシア様でしょ!?
綺麗で、立場があるなんて、他に誰がいるのよ! ド直球にエリシア様です!!
私は拳をぶんぶん振り回したい気持ちを必死で抑える。
あぁ、もうこれは決定的証拠。恋バナ探偵団(団員二人)としては完全勝利の瞬間!
「大事なのはさ、思ってるだけじゃダメってこと! ちゃんと口に出さなきゃ、気持ちなんて伝わんないんだよ」
「……言葉に、か」
「そそっ! マジ勇気出せば絶対イケるって!」
――うんうん! その通り! 莉央、ナイスアドバイス!
ちょっとノリが軽く見えるけど、肝心なところではすごく真っ直ぐで優しいんだから。
だって勇者様が想いを寄せるのは、いつだってエリシア様で――。
うんうん、そうよね。これはエリシア様へのアドバイスだ。
莉央、いい子だなぁ……勇者様を応援してるんだ。
旅の間も勇者様との距離感が近くてヒヤヒヤしたけど……こうして見てると、やっぱり本気で応援してるんだわ。
「ほら、アルバートさん! これで安心でしょ!」
「……そう、だな」
彼の肩から、ほんの少しだけ力が抜けた気がした。
でも――なぜか彼は、まだ首をかしげたままだ。
「……だが、なぜエリシア姫に……?」
「え?」
「……いや、なんでもない」
うーん? なんか含みのある言い方。
けどまあ、勇者様がエリシア様を想ってるのは間違いないんだし……。
よしっ、これで事件は解決!
探偵・ヒマリ、ここに推理完了を宣言します!
◇◆◇◆◇
「ふふっ。やっぱり勇者様はエリシア様が好きなんだなぁ!」
「……そう思うなら、それでいい」
「でしょでしょ! 誤解だったんですから、安心してください!」
「……本当に哀れだな、勇者は」
アルバートさんがぼそりと漏らした言葉は、私にはよく聞き取れなかった。
「え? 今なんて言いました?」
「……なんでもない」
そう言って歩き出す背中は、どこか苦笑を含んでいて。
私は小首をかしげながらも、「まぁいっか!」と気持ちを切り替える。
――だって真相はもう分かったんだもの。誤解が解けて良かった!
鼻歌まじりに後を追う私と、何も言わずに付き合うアルバートさん。
そんな凸凹コンビの尾行大作戦は、無事に幕を閉じたのだった。
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