1.鈍感聖女は、勇者の告白を見送りました
私の前に立っているのは、金髪碧眼の美青年。
凛とした気配は、まるで女神様の祝福そのものを映したかのよう。
「お見送りありがとうございます、勇者様」
「ああ……。ヒマリも、元気で……」
彼は、この異世界で最強の存在。
一緒に旅を続けてきた仲間であり、聖剣を携えた勇者様。
けど彼、なぜか私と視線を合わせてくれない。私の顔を見ると石化でもする呪いにかかってるのかな?
「陽葵、急ぎなって~。転送ゲート閉まっちゃうんだけど~。あーしたち、リアル帰還タイムなんですけど~!」
親友の莉央が大声で私を呼んでいる。
「勇者様、私たちはもう行きますね」
「……っ」
彼は顔を赤らめ、何かを言いかけて口を閉ざし、視線をさまよわせた。
本当は伝えたい言葉があるんだろうけど……不器用なんだから。
――やっぱり応援してあげたいな。
私は、勇者様の隣にいる人物へ視線を移した。涙をこらえて微笑む黒髪の美少女は、この国の第二王女エリシア様。
「エリシア様、勇者様はアナタを心から想っています。どうか勇者様と末永くお幸せに!」
大きな瞳をさらに見開くエリシア姫。
本当に愛らしい。
勇者様には少しもったいないくらいだけど、国王陛下との約束を果たして魔王を討伐したんだし、これでハッピーエンドだよね。
「あの、聖女様! それは誤解でして!」
「いきなり何言ってるんだお前!」
真っ赤な顔で否定する勇者様とエリシア様。
素直じゃないなあ、二人とも。最後にナイスアシスト、私!
「さ、莉央! 行こう!」
「陽葵まじ恋愛だけはポンコツすぎて草~。でもまぁ、そこがギャップ萌えってやつ?」
「んー? 二人が笑ってくれたら私たちも幸せになるでしょ?」
にやにや笑いの莉央に背を押され、私は勇者様たちに背を向けた。
そのまま転送ゲートに足を踏み入れると、眩い光が私たちを包み込む。
「まってくれ! オレはお前のことが……!」
周囲に転送魔法の光があふれる。
勇者様の声の続きを聞く前に、私の視界は真っ白に染まっていった。
◇◆◇◆◇
「ちょっと、陽葵。何ボーっとしてるん?」
放課後のハンバーガーショップ。
私は異世界にいた時の記憶を振り払って、ハンバーガーを手にした親友に謝った。
「ごめん莉央。考え事してた」
「ふーん。まぁ、何考えてたか、大体分かるけどね」
「え?」
「向こうの世界でのことっしょ?」
「そ、そんなこと……もぐもぐ」
私は莉央のジト目から逃れるように顔を逸らしつつ、ポテトを頬張る。
高い位置で結んだポニーテールが、ストローを振るたびに楽しげに揺れていた。
「でも分かるぅ~。あーしも満員電車とか乗るとさ、爆炎魔法で全部吹っ飛ばしたくなるんよ、ガチで!」
「それやったら国際ニュースになるよ? SNSで文字通り炎上するからね?」
「くぅ~~異世界じゃ魔法撃ち放題だったのにぃ! チートタイム、カムバーック!」
私たちが異世界に行ったのは……高校二年生になった春。
向こうで一年ほど過ごしたはずなのに、こちらの世界では三日間行方不明だっただけらしい。
で、今は夏休み前のテスト期間中。
騒動も落ち着いて、日常は何事もなかったように戻っている。
「やっと魔王倒して帰ってきたのに、テスト勉強とかマジだるいんですけど~。魔法で全部消し飛ばしたいわぁ~」
「莉央、それだとテストじゃなくて学校が消滅するから!」
「そうだ~。陽葵の魔法に、一瞬で知識を覚えられるやつあったじゃん? なんだっけ? 聖女の祝言、みたいな~」
「【女神の祝福】のこと? ズルだからテストでは使わないよ。莉央にも貸さないし」
「え~マジでケチすぎ~!」
莉央は不満そうに唇を尖らせ、ジュースをズゴゴとストローで吸い上げる。
「あーし的にはさ~、魔王ボコった瞬間が人生の頂点だった気がする~!」
「まだ高校生なのに頂点早すぎじゃない?」
「だってさ~、【大魔法使いリオ様】とか言われて世界中から超リスペクトされてたし~。陽葵も【花の聖女様】って呼ばれて悪くなかったっしょ?」
「私はただ、みんなを癒したり支えたりしてただけだよ。聖女とか……なんか笑っちゃう」
「マジで? 陽葵ってさらさら黒髪ロングで、見た目は清楚系美少女そのものじゃん。ぴったりだと思うけど~」
莉央はストローを杖みたいに振って、私に向けてくる。
「もぅさ~、こっちの世界にも魔物いてほしかったわ~! ゴブリン百匹倒してテスト満点とか、あーしたちなら余裕なのに~」
「向こうに残るって選択肢もあったんだよ?」
「残るとか言って~、陽葵こそ、勇者のことどーすんのって話じゃね?」
「勇者様のことってなに?」
「だってあの勇者、陽葵にガチ惚れしてたじゃん」
「ぶっ!」
莉央の言葉に、私は思わずドリンクを噴き出した。
「しまった……【癒しの魔法!】」
周囲の服やテーブルを癒しの光で元の状態に戻す。
慌てて周りを見渡すと……よかった、誰もこっちを見ていない。
「莉央! 何てこと言うのよ!」
「あいつ陽葵に好き好きアピールしてたし、もう付き合うもんだと思ってたわ~」
「ないない! むしろ嫌われてたよ私!」
私の言葉に、莉央はきょとんとした顔をする。
「ほら、旅の途中で立ち寄った花祭りあったでしょ?」
「【花の都ショコラテア】のやつ? 男が好きな女に花冠贈るってロマンチックな祭り~」
「皆を誘ったら勇者様だけ『俺は遊んでる暇はない』って言ったんだよ!? 冷たくない?」
「それ~、勇者がこっそり花冠を準備してたパターンじゃん……」
莉央の目がなぜか哀れむように優しくなる。
「戦闘中だって、私にだけ『下がってろ』って言うの。完全に戦力外扱いでしょ!」
「いやそれ、守ってるつもりだったんじゃ……」
「舞踏会では『下手だから俺以外と踊るな』だよ? どんだけ私嫌いなの?」
「……ツンデレにも限度あるわ」
私は真剣に頷きながら続ける。
この話をすれば、さすがに莉央も納得してくれるはず。
「実は勇者様から、好きな人の話をされたことあるんだよね」
私はその時のことを思い出して、目を閉じる。
「『俺の好きな人は、さらさらの黒髪で、凛とした眼差しで……』」
「それ勇者の声マネ?」
「『一緒にいるといつも癒される、大切な存在』だって」
「勇者それを陽葵に話したんだ!?」
「『世界が違っても乗り越えたい』って言ってたし」
「もうガチ告白じゃん!」
「だから違うってば! 勇者様が想ってるのはエリシア様だよ」
「――あんた誤解力の女神すぎ」
莉央が呆れたようにため息をついた。
「エリシア姫って旅の仲間じゃないじゃん? ちゃんと理解しよ?」
「だって『故郷を忘れるくらい幸せにしたい』って言ってたよ。完全にエリシア様のことだよね?」
「もしそれが姫様なら……故郷を忘れさせる理由は何?」
「『魔王を倒したら故郷の村で一緒に暮らしたい』とも言ってたよ? お城から連れ出す意味じゃない?」
私は腰に手を当ててドヤ顔を決める。
どうよ、これでも人間観察は得意なんだから!
「“きれいな黒髪”で、“違う世界に住んでて”、“いつも癒してくれて”、おまけに“故郷を忘れさせたい”存在――ねぇ……?」
「勇者様は直接伝えられないみたいだったから、転送ゲートに入る前に私が背中を押したんだ。今頃二人で幸せになってるはず!」
「……え、マジでそう思ってんの?」
莉央はドン引きした顔でつぶやく。
「あーしの親友、つよすぎ案件なんだけど」
「え? 誰かの恋が叶うのって、見てるだけで元気出るじゃん。応援したくない?」
「――最強ツンデレ勇者も、鈍感系ヒロインには勝てなかったかぁ~」
「莉央、ちゃんと話きいてた……?」
言いかけたとき、店内がざわついた。妙にキラキラしたものが視界に……。
「え?」
「うぇ!?」
そこに立っていたのは、聖剣を腰に携えた勇者様。
きらびやかな鎧姿はどう見ても「異世界から来ました」って感じ。
ハンバーガー屋の中で周囲の視線を独り占めにしていた。
「すっごい……イケメン過ぎ~……」
「新しいゲームの宣伝?」
「コスプレイベントかも……」
そんな小声が飛び交う中、勇者様がこっちを向いたかと思うと、店内に響き渡る声を上げた。
「やっと見つけた!」
「はぇ!?」
みんなの視線が集中する中、勇者様は真っ直ぐ歩いてきて私の前に立つ。
「……久しぶり。忘れ物を……届けに来たんだ……」
ぎこちない笑みを浮かべながら、彼は袋から取り出したものを私の頭にそっとかぶせた。
え? これ……花冠?
花の都ショコラテアの、あの伝説の……?
「……どうか俺と結婚してくれ!」
久しぶりに勇者様としっかり目が合った。
時間が止まったみたいに、胸が高鳴る。
でも――ん?
「あのー……勇者様? 渡す相手、間違えてません?」
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次回は本日18時すぎに更新予定です。
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