第五話「護衛路に潜む影」
光暦976年 8月11日 午前7時半 「フェルナ町 冒険者ギルド」
昨日は依頼を受けた後、日程を知らせてもらい、憤怒からずっと魔法を教わっていた。中でも、一部の無属性魔法はイリスにも伝授しておいた。
この世界では、適正属性以外の魔法を発動すると、魔力の性質が合わず非常に多くの魔力を消費してしまう。氷属性の魔力で火の魔法を使うようなものだ。
だが、無属性魔法はこの制約を受けない。誰にでも扱えるうえ、魔力の消費も少なめで、戦闘や探索で応用しやすい。
僕の場合、適正属性が無属性だったため、無属性魔法はさらに少ない魔力でより強力に扱える、扱いによっては全然化ける適正属性、それが無属性だ。
「おお、あなた達が…!」そう言いながら馬車から降りてくる商人、名前は「アーモット」と言うらしい。
「よろしくお願いします。」
「よ、よろしくお願いします。」と、僕達は返事をし、馬車の荷台に乗り込む。
「ここ最近は妙に魔物達が活発になっており、私達商人は困り果ててるんですよ…」
そう言う彼の荷台には珍しい品々が沢山並んでおり、骨董商だとわかる。
そんなこんなで僕達は馬車で町を出た、草木の香りが肺を満たし、太陽は眩しいくらいに輝いていた。
「レンさん、ここら辺ではどのような魔物が出るんですか?」
「ここら辺だと、普段ならブラッドウルフ、ブラッドラビットとか凶暴だが弱い魔物が出るはずだが…」と話していると商人が話しだす。
「いえ、最近は先ほども言った通り魔物の活動が活発となっておりまして…オーク、オーガ、中にはミノタウロスだとかワイバーンの目撃証言が…」
「ワイバーン!?こんなところになぜ…」と、僕は思わず叫んでしまう。
「そ、それは私にもわかりませんが…巷では悪魔が復活しようとしてるや、何者かが解き放っているなど、様々な憶測が飛び交っています…」と商人は語ってくれる。
そうして、次の瞬間、俺の『探知』に3体の反応が現れる。
俺の『探知』は半径30mを調べることができる。
「イリス、オークだ、恐らく3体…やれるか?」
「…!やってみます…!」
イリスは筋がいい、身体強化だって俺以上に使えている。
行けるはずだ
「ちょ!ちょっとお嬢さん!」そう行商人が声をかけるが、時すでに遅く、イリスは飛び出す。
「行っちゃったよ!?お兄さん追わなくて大丈夫なのかい!?」
「慌てないでください、あの子は…ちゃんと強いですから——」
(敵は3体…三角形型の陣形で歩んでいる。レンさんが言った通りだ…まずは…)
「『氷球』『脚力強化』」そう唱え、私はその氷のボールをオークの近くに投げ、空へ跳躍し、飛び上がる。
ガサッガサッと氷のボールが草むらに落ちる音が響き…
「ブモッ!?」オーク3匹はその音に反応に、瞬時にそちらを向く。
そうして、私は他2体のオークの背後にいるその1体の肩に肩車のようになるように乗り、そして瞬時に首を引き裂く。
「ブモォッ!?」と残り2匹のうち1匹が私に気づく。
「『腕力強化』『氷武器』」そう唱え、私は氷の短刀を手に出現させ、強化した腕力でその短刀を思いっきりオークの頭へ投げる。
次の瞬間、オークの頭から血が吹き出した。
残り1体——
「…?」
何かがおかしい——
残り1体はどこに…
「…っ!?『脚力強化』!」
その瞬間、私は直感的に飛び上がる。
「ブモォッ!」
その瞬間、私の真下を横薙ぎの巨大な棍棒が地面を抉った。
(危なかった…!)
そうして私は再びそいつと距離をとる。
土埃の中から真紅のその目はギラリと光っている。
パワーはやつの方が上、スピードは私の方が上、それに私は魔法を使える。
だが、気は抜けない——
(でも…私なら…やれる…!)
「『脚力強化』『視力強化』!」そう叫び、地面が抉れるほどの脚力で私は駆け出す。
それに呼応するかのようにオークも向かってくる私に向かって棍棒を振り下ろす。
私はそれを寸前のところで避け、地面を思いっきり蹴り、オークの目に向かって『刺突』を仕掛ける。
そうして、私の剣は…そのオークの右目を貫いた。
「ブモォォォォォォ!」
「これで…おしまい、ゆっくり眠りなさい…『氷結』!」
そうして、わずかに時間が止まったかのように感じた。
そして、頭部の内側から氷が一気に広がり——顔が破裂した。
「はぁっ…はぁっ…」
「し、信じられない…!あんな小さな子が…!」アーモットは口を押さえ、目を見開いた。
そうして僕はそのイリスに歩み寄る。
その少女は僕に気づくとエメラルドグリーンの目を輝かせながら振り向く。
「レン…さん…」
「大丈夫か?」僕はその質問を投げかける。
「…はい…大丈夫…です…」
「…嘘をつくな、膝も腕も震えているじゃないか…」
膝が震え、剣を握る手もブルブルと大きく震えている。
呼吸は荒く、胸が上下に大きく揺れている。
(…僕みたいに憤怒に任せて殺してるわけじゃない、それにこの子はまだ10歳だ…仕方ないことか…)そう考えながら僕はイリスの頭にポンッと手を置き、言葉を紡ぐ。
「よくやった…上出来だ」
その言葉を聞いたイリスは、ふっと肩の力を抜き、嬉しそうに微笑み
「…はい…ありがとうございます…」という小さな声が、草原にかすかに響いた。
イリスの強さはこの成長の速さと研ぎ澄まされた感覚だけではなかった、イリスは思考速度がとてつもなく速い。
そのため、瞬時に身体強化の部位を切り替え、詠唱時間も短い。
そうして、僕達は馬車の荷台へ戻る。
今日はイリスはもう休めることにし、次からの戦闘は僕がすることにした。
「いやぁ!感激しました!まさかこんなにその子が強いなんて!」と本当に感激したようにアーモットは馬車を引く。
「僕もびっくりです、正直、僕の方が弱いかもしれませんね」と僕が言い、アーモットの方を向くと、アーモットの右前方から石斧が飛んできていた。
「危ない!」そう叫ぶと瞬時にアーモットに元まで床板を蹴る。
そうして僕はその石斧を掴み、払い除ける。
「あ、ありがとうございます、よ、よく今の攻撃に反応できましたね…」とアーモットが言う。
「…?」
(かなり遅い斧だったよな…)と思いながらも僕はさらに『探知』の効力を強くする。
そうして僕は、その結果を見て驚く。
「ブラッドラビットが20匹…!?」と僕は困惑の声を漏らす。
「ええ!?そ、そんな数大丈夫なんですか!?」と困惑の声を漏らすアーモット。
「…アーモットさん、奴らは僕が惹きつけます!だから先に行ってください!」そう言って僕は飛び出した。
魔物が人間を襲う理由、それは魔物は魔力で生きているが、魔力を自分で産み出すことができないからだ。
僕達人間は、『魔核』と呼ばれる見えない器官で魔力を作り出しているとされている。
つまり、無理やり魔力を放出すれば——
「キキッ!」
奴らは僕の魔力に吸い寄せられ、追ってくる——。
そうして、僕を取り囲むかのようにその大量のブラッドラビット達は集まる。
さて、どうする——
そんなことを考えてる間に、一斉に石斧が僕に投げられる。
避けては受け流し、受けては受け流す。
反撃しようと思えばできるが、キリがない…!
そこで僕は違和感に気づく。
なぜこの数のブラッドラビットの石斧の投擲を全て防ぎきれている?
「『身体強化』『視力強化』」そうして僕はその魔法を発動した。
(…やっぱり遅い…!これなら…いける!)
「『魔力弾』!」そう紡いだ瞬間、僕の手のひらから光弾が発射される。
「キュッ!」
(まずは1匹…斧が1つ無くなっただけで大分避けやすくなった…)
そうして僕は確信するこれは、間違いない、憤怒との稽古の成果だ。
僕の動体視力、反射速度、動き、全てが成長している。
そうして僕は隙を見てさらに手に魔力を込め、その言霊を紡ぐ。
「魔力弾!」そう唱えると光弾は地面に当たり、小規模な爆発を引き起こす。
(これで4匹はやった…残りは15匹…これなら…!)
そう思い、僕は隙を見て…地面を蹴った。
そこからは一瞬だった——
紙を切るかのように、一太刀で僕は全てのブラッドラビットを切り裂いていた。
「…すごい…体が軽い、それに周りが遅く見える…」
『それは体の使い方を覚えたからだな、お前の肉体自体はまだ貧弱なままだから安心しろ』と憤怒の声が脳内に響き渡る。
「はいはい…精進しますよ〜…」
* * *
「よっと…」そうして僕は馬車の荷台に着地する。
「…!?あの大群から生きて帰ってきたのですか!?」とアーモットは驚愕の声を漏らす。
それと同時にイリスがバッと抱きついてくる。
その少女は僅かに目に涙を浮かべていた。
(心配させてしまったな…)と思い僕はその少女の頭をゆっくりと撫でたのだった。
そうして僕達は野営地を設置する。
「近くにある村には行かないんですか?」
「ええ、お金もかかりますし、それに私の場合に盗まれるのが怖いので…」
そういうとブラッドラビットの肉で作ったスープを器に注ぎ、僕達2人に差し出してくる。
「…わぁ…!」と、イリスは目を輝かせる。
「おお、いただきます。」と、目を輝かせながらスープを見つめるイリスを横目に僕はスプーンを口に運ぶのだった…
食べ終わると、イリスは満足したのか寝てしまった、まだ子供らしいところがあって可愛いなと思い、僕はイリスを撫でる。
「ふふ、こうやってみると親子や兄妹ですな」と笑うアーモット
「そうかもしれませんね、後片付けをしたら早く寝てくださいね、見張りは僕がします」と言い、僕は立ち上がる。
「助かります…では、おやすみなさい」
* * *
光暦976年 8月11日 午前9時半
護衛2日目
馬車の中には穏やかな時間が流れていた。
今日も快晴で、嫌になるほど熱い。
「レンさん、どうですか?サーチには何か映りましたか」とアーモットが聞いてくる。
「いえ、今の所は何も…」と言いながら、僕は自分の膝の上に乗ってウトウトしているイリスを撫でる。
その瞬間、イリスが目を開き、瞳孔を細くさせ、両耳をピンと立てて尻尾をブンブンと大きく振り、冷や汗をかきながら周りをキョロキョロと見渡す。
そうして、僕がイリスが見る方をみるとそこにいたのは…ローブを被り、ゆっくりと歩み寄ってくる武装したミノタウロスだった。
鉄の胸当て、鉄の大斧を持ち、謎のローブを被っている。
ミノタウロス人間のような動体を持つが、下半身と頭は牛のようでな二足歩行の魔物、ランクはB、Cランクであるコカトリスより強敵だ。
こいつをイリスが相手するのは…厳しいだろう…
イリスはまだ子供だ、こう言う時は、俺が行くしかないだろう。
「イリス、待機だ、アーモットさんは任せたぞ」そう言って僕は再び馬車から飛び出す。
「…!ま、待ってくださ——」そんなイリスの声が遠ざかっていく。
(さてと…どうした物か…)と考えていると
『魔力コントロールが下手くそなお前が勝てるのか?』と、脳内に憤怒の声が響き渡る。
(う、うるさいな…なんとかするよ…)
「『身体強化』『視力強化』」そう唱えた瞬間、ミノタウロスの斧はすぐ真横にあった。
僕はそれを飛び上がり、回避する。
(くそっ…!反応速度が早くなっても体がついてきていないせいでギリギリだ…!)
と、そんなことを考えた次の瞬間。
ミノタウロスの拳が脇腹に叩き込まれた。
その威力はまるで腹に岩でも投げつけられたかのような威力で、骨が軋む音が体中に響き、そのまま僕は吹き飛ばされ、地面にめり込む。
「かはっ…!?がぁ…!」
(防御が一瞬でも遅れていたら危なかった…)
そうして僕は身体強化の出力を上げる。
(魔力を大量に全身に回せ…!)
この出力で動けるのは5分が限界だろう。
だが、こいつを倒すためにはこうするしかない、そう僕は判断した。
『それで勝つつもりか?』
(…!こうするしかないだろ…!)
『そうか、まぁいい、考えろよ』
そうして僕は重力を利用し、踏み潰そうとしてくるミノタウロスの攻撃を起き上がって横にステップし、避ける。
地面には亀裂が入っているが、僕はその足にナイフで傷をつける。
(浅い…!それに胸当てのせいで心臓は狙えない…狙うとしても頭と首…!)
そうして飛んでくるパンチを受け流し、僕は脇腹にも傷をつける。
ほぼ血すら出ていない、なんて硬い皮膚だ。
そうして僕は、次の攻撃を回避し、そいつの右腕の手首にナイフを突き刺そうとした。
次の瞬間、僕の脇腹には綺麗に拳が入っており…またしても吹き飛ばされる。
「かはっ…」思わず血が口から吐き出される。
さっきもそうだったけどこいつ…僕の癖を理解している——
そうして、僕は立ち上がり追撃を避け、弾き、防ぎ続ける。
僕は憤怒にも言われた通り、防御や回避を行った際、左脇腹への注意が低くなるのだ。
じゃあ、ここからどうすればいいのか…考えろ、考えろ考えろ考えろ。
僕が考えながら防いでいる間も攻撃は止まることを知らず、刻一刻と時間は過ぎていく。
そうして僕はまたしても回避をする。
そうして、左脇腹に拳が飛んできた瞬間、僕は——
その右手首にナイフを突き刺し、捻った。
『ほぉ…?なかなか頭を使ったじゃないか…」
「グォォォォォ!」と怪物の苦しむ声が響き渡り、その一瞬を逃さず、僕はミノタウロスの頭へ刺突を仕掛ける。
(…!いける…!これなら…!)
と、そう思った瞬間。
身体強化が切れる。
(…っ…!まずい、魔力がっ…!)
そうして、僕は目の前まで迫ってくる鉄斧を見て、死を覚悟する。
『待ってろ!今——』と、憤怒の声が轟きそうになった瞬間。
『全く…君は僕と違って、対して強くないのに『傲慢』だね?』と、憤怒とは違う声が響き渡るのだった。
続く——
〜あとがき〜
主人公「カイン・アルステル」
偽名 「レン・ヴァルデス」
髪色 紺色→金色
髪型 まっすぐと下に伸びる髪で、短い。
瞳の色 紺色→赤色
身長(10歳) 136.2cm
身長(14歳) 172.2cm
現在の年齢14歳
適正属性 無属性
固有魔法 『七罰の分身』
取得魔法 「探知魔法」「身体強化ランクF」「魔力弾」「視力強化」「火種」「清水」「氷結」「灯」「変色」
人格「憤怒」
髪色 白
髪型 腰くらいまで伸びており手入れはされていない。
瞳の色 深紅より赤く、深淵より深い。
身長 172.3cm
現在の年齢 不明
適正属性 火属性
固有魔法 『怒りの豪火』
取得魔法 現在未公開
商人「アーモット」
髪色 茶色
髪型 想像にお任せ
瞳の色 黒
身長163.2cm
現在の年齢 現在未公開
適正属性 現在未公開
固有魔法 現在未公開
取得魔法 現在未公開
黒猫亜人「イリス・ルミエール」
髪色 漆黒
髪型 ショート
瞳の色 エメラルドグリーン
身長 127.1cm
年齢 10歳
適正属性 『氷属性』『火属性』
固有魔法 現在未公開
取得魔法 「氷槍」「火球」「「身体強化ランクE」「火種」「清水」「氷結」「灯」「氷武器」