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第一話「プロローグ」

魔力が誰にでも宿り、生活のあらゆる場面で魔法が使われる世界。騎士でさえ魔法を駆使する中、トリス村に住む少年カイン・アルステルは、適正属性も固有魔法も持たず、平凡な日々を送っていた。しかし、ある日――村を襲う禍々しい炎と怪物との遭遇が、彼の運命を一変させる。無力だと思っていた少年の胸に、怒りと悲しみが混ざり合い、まだ誰も見たことのない力が目覚める。

はるか昔、この世界には「悪魔」がすべてを支配していた。人々は蹂躙され、破滅の淵に立たされていた。

それを憐れんだ神「ヘカテー」は、人々に祝福を与え、悪魔に立ち向かう力——「聖なる力」を授けた。

人類はその力を手に戦い、ついに勝利を収め、悪魔たちは魔界と呼ばれる異界へ退いた。

こうして、僕が住むこの国、リュミエール王国には神ヘカテーの伝承が語り継がれ、「聖なる力」は後に「魔法」と呼ばれるようになった。

ヘカテーは唯一かつ絶対の神として、人々に信仰される存在となった。

だが、悪魔たちもただでは引かなかった。やつらは置き土産として「魔物(モンスター)」を世界中に放っていった。

魔物(モンスター)はほとんど知性を持たないが、その数と力は脅威であり、今でも世界を脅かしている。

魔物(モンスター)を狩り、アイテムや報酬で生計を立てる「冒険者」と呼ばれる者たちも、各地に現れるようになった。


そんな世界で僕——「カイン・アルステル」は今日も生きています。


* * *


光暦 972年 4月14日 午前10時 トリスの森

光曆 悪魔に勝利した日を元年とする紀年法


「どわぁっ!?」

足元の根に足を引っ掛け、体は前に傾いた。手をつこうとしたが間に合わず、顔面から地面に突っ込む。

地面の落ち葉は宙を舞い、鼻と頬に強い衝撃が走り、息が一瞬止まるほど痛む。思わず手で顔を押さえると、かすかに血の味が口に広がった。

「いてて…今日の木の実集めは幸先が悪いなぁ…」と呟き、軽く土埃を手でパンッパンッと払うと、再び森の中を歩き出す。 

森はいつも通り緑が濃く、木々の間から光が差し込み、葉のざわめきが耳をくすぐる。


僕たちが住む村、「トリス村」はごくごく普通の小川沿いに石造りの小屋や藁葺き屋根の家が並ぶ、穏やかな農村だ。この国の中心都市、王都からも遠くはないし、近くもない距離に位置している。


「よしっと、木の実がこれだけあれば大丈夫!」

 

「今日のご飯も美味しいポリッジ〜♪」

そう言いながら皮袋に木の実を入れ、帰るために来た道を引き返す。


「お、おかえりカイン坊!」

森から帰ってきた僕に、農業をしていたおじさんが近寄ってきて話しかけてくれる。

「ただいま、おじさん」

おじさんの方を向き、「怪我は大丈夫か?」などと立ち話をしていると、家からおじさんの奥さんが出てくる。

「カインちゃん、明日楽しみだねぇ」

「明日? おばちゃん、明日なんかあったっけ?」と僕は首を傾げながら質問をする。

「もう! 10歳になるんだから、王都に魔力検査に行くんでしょ!」とおばさんは少し呆れたように言う。

「あ…そうだった、僕の魔法の適正属性と固有魔法か…」と言いながら僕は期待に身を震わせながらギュッと手を握りしめながら別れを告げ、その場を後にする。


「ただいま、母さん」

「カイン!おかえり!木の実はって、その傷どうしたの?」と母、ナイン・アルステルが僕を心配して駆け寄ってきてくれる。

「平気だよ、ちょっと森で転んだだけだから」と僕は言い、木の実の入った皮袋を手渡す。


「あなたはお父さんが死ぬ前に唯一残してくれた、私の宝物なの……。だから、自分の身を大切にしてね?」

母は少し悲しそうな顔で僕に告げる。

父は10年前、徴兵されて「帝国」との戦争に赴いたが、その戦地に現れた巨大魔物(モンスター)「テラシェル」によって命を落とした。

テラシェルは山のように巨大な亀の魔物(モンスター)で、動きは鈍いが圧倒的な防御力と強力な風魔法を操ったとされる。その圧倒的な力により、王国も帝国も共に甚大な被害を受け、やむなく戦いを中断し、不戦協定を結んで協力して討伐にあたった。


だが、討伐から十年が過ぎた今でも両国は互いを睨み合い、中断された戦争が再び始まるのは時間の問題だと囁かれている。


その日の夜、布団に入ってもなかなか眠れなかった。

(明日になれば、僕の魔力の適性も、固有魔法も分かる……)

 

期待と不安が胸をいっぱいにして、何度も寝返りを打つ。


* * *


光暦 972年 4月15日 午前11時


どうやら魔力検査には農家のおじさんがついて来てくれるらしい。

(母さんは少し体が弱いから仕方がないか)

と考えながら、荷物をまとめ、僕は母親に「行ってきます!」と元気よく言い、村の出入り口へ向かう。

「カイン坊、緊張してるか?」

「大丈夫だよ、それにこの後馬車に乗ると言っても『王都』に着くのは2日くらい後なんだから、今のうちに緊張しててもしょうがないでしょ」と言いながらおじさんに僕はついて行く。

「はは、確かにそうだな」とおじさんは僕の頭を撫でてくれる、まるでお父さんみたいだと思い、僕は少し笑みを漏らす。


そうしてその日の夜、僕は強い馬車の揺れで目を覚ました。

月明かりが木々の間から漏れ、森全体は銀色の闇に包まれ、うるさいほどに木々は揺れ、ガサガサと音を立てている。

「カイン坊、盗賊の襲撃だ…静かにしてろよ」

おじさんは僕の頭にポンッと手を置き、外に出て行った。

だが、好奇心と怖い物見たさから、僕は馬車の荷台から顔を少し出してしまった。

「うわっ!?」

次の瞬間、横から突然、服の首根っこを強く掴まれ、体が浮き上がる。

足は宙に浮き、重心を失った僕は必死に手足をばたつかせる。

「や、やめ…!」声にならない声が喉を震わせる。

「なんだこのガキ、男のガキは売ってもそんなに金にならねぇんだよなぁ、殺すか?」

盗賊の腕の力は予想以上で、抵抗しても簡単には逃げられない。

その冷たい手に触れられ、恐怖が全身を駆け巡った。

(どうする…どうするどうするどうする!?)と思考を巡らせるが、何も思い浮かばず、僕は恐怖により目に涙を浮かべる。

そうして天高く掲げた男のナイフが振り下ろされ、鮮血が飛び散る。

だが、それは僕の血ではなかった。

 

「ぐっ…!」

見ればナイフはおじさんの左腕に刺さり、貫いている。

瞬間、僕は理解した——おじさんが僕を守ってくれたのだ、と。

「おい、邪魔すんなよおっさん!」

男がナイフを引き抜き、もう一度刺そうとした瞬間。

風の矢(アエロスパイク)…ッ!」

おじさんの唱える声に呼応するように、掌から鋭い風の矢が飛び出す。

空気を裂く音と共に矢は盗賊の足元を貫き、血しぶきが辺りに飛び散った。

盗賊は悲鳴を上げてよろめき、風の衝撃で体勢を崩す。

「はぁっ…はぁっ…」

息を荒くしながらおじさんはその場に膝をつく。

「こ、このクソジジイがぁ!」

目を血走らせて怒鳴る盗賊が立ち上がり

闇の衝撃(シャドウインパクトォ)!」と唱え、拳から黒い球状の魔法を放つ。

僕はおじさんごと横に倒れ、魔法は空気を引き裂き、僕達の頭上を通り過ぎた。もし食らっていたら——体が震える。


「死ねぇぇぇ!」

激昂した男がナイフを構え、倒れている僕達に振り下ろそうとした。

だが、次の瞬間、男の脳天には風で作られた剣が突き刺さっていた。

風の刃(ギャストブレード)…」

そうおじさんが言い終わるや否や、男の体は前のめりに崩れ落ち、もう呻き声ひとつ上げない。

それと同時におじさんは意識を失っていた。

額には汗がにじみ、呼吸は乱れている。剣が突き刺さった腕からは血が止めどなく流れ出していた。

 

「そ、そんな…僕のせいで、おじさん!」

出血の危険に気づき、僕は叫ぶ。

その声に反応したのか、馬車の御者が駆け寄る。

「こ、これは!?一体何が…いや、今はそんなことを言っている場合じゃない…!」

御者はおじさんに近寄ると、手をかざし回復魔法を唱え始める。

治癒ヒール!」

光が腕の傷を包むと、血の流れは徐々に止まり、おじさんの呼吸も安定していった。

僕はほっと息を吐き、安堵した。


* * *


光暦 972年 4月16日 午前10時


やっと王都が見えてきたと言う時、おじさんは目を覚ます。

「おお…カイン坊、無事か…?」目覚めて早々そう言うとおじさんは僕の頭にポンッと左手を置く。

「っ…おじさん…ごべんなざい…っ…」

涙が頬を伝い、熱くて少し苦い味が口に広がる。嗚咽が喉に引っかかり、声にならない。どうして僕は何もできなかったんだろう…守れなかったんだ…。

震える手でおじさんの肩を掴む。全身が小刻みに震え、涙と鼻水で視界がにじむ。目の前にいるおじさんは、血のにじむ左腕を抱えながらも、辛そうな顔は見せず、僕の目をじっと見つめていた。

「別に気にすることはない! 間違いは誰にでもあるからな!」

おじさんは力強く微笑み、僕をそっと抱きしめた。胸の奥までじんわりと温かさが染み渡る。

「…僕…でも…でも…」と、嗚咽混じりに呟く僕に、おじさんはそっと頭を撫でる。

「カイン坊、お前は確かに間違いを犯した、でもな、それを謝れた、次に活かそうと思った、それだけで十分なんだよ」

その言葉に、胸の奥にあった重いものが少しだけ溶けたような気がした。涙はまだ止まらないけれど、痛みだけじゃない温もりが心に残る。

「ありがとう…おじさん…」

小さく震える声で呟くと、おじさんはにっこり笑った。

「よし、泣き終わったら、次は強くなる番だぞ、カイン坊」

 

その言葉に僕は少しだけ笑みを返し、泣き顔のまま頷いた。涙と鼻水でぐちゃぐちゃになったけれど、胸の奥には確かな希望が生まれていた。


そうして僕達は都市全体を囲う防壁を通過し、市場や家々が立ち並び、人々が忙しそうに行き交う街、『王都』に辿り着くのだった。

「いいパンの香りだね」とおじさんと談笑をしながら魔力検査のために御者の人と別れ、「リュミエール大神殿」へと歩みを進める。

リュミエール大神殿は、この国の名前を使用していることもあり、最も神聖な場所だとされ、毎年ここで大司教により魔法の適正属性と固有魔法の検査が行われている。


そうして僕達は大理石の大神殿に足を踏み入れた。

白く光る床にステンドグラスの光が映り込み、壁にはヘカテーの姿を刻んだ壮麗な彫刻が並ぶ。

ひんやりとした空気が背筋を伸ばさせ、遠くで響く鐘の音が神聖さを告げていた。

 

重厚な扉を押し開けると、祈りを捧げる「エルヴィオール大司教」の姿があった。

「おや、時間通りですね。」微笑みながら振り向く大司教の視線に、僕は自然と背筋を伸ばした。

「よ、よろしくお願いします!」一歩踏み出すと、エルヴィオール大司教は慣れた手つきで僕の前に立ち、検査の準備を始め。

静寂と緊張が大神殿の空気に満ち、僕の心臓も小さく跳ねた。


永遠にも感じられる数秒が過ぎた後、大司教は口を開いた。

「適正属性は『無属性』ですね。ですが、初めて見る固有魔法の形と流れです。恐らく自身を強化するものだとは思うのですが……申し訳ありません。」そう言うと、大司教は深々と頭を下げた。

「え、ええ!?ちょ、ちょっと!」

「大司教様!頭をあげてください!」

「あなた様が謝るようなことじゃありませんよ!」

そう言いながら、僕は内心で無属性なことを少し残念に思った。

「それより、今日はありがとうございました。神のご加護が在らんことを」そう言って、僕はニィッと微笑む。

「…ふふ、はい、神のご加護が在らんことを」

大司教様もそう言うと、優しく微笑み返してくれた。


* * *

 

光暦 976年 8月7日 午後15時 トリスの森


4年の時が流れ、魔法を学び、弓やナイフの技も身につけ、身体的にも魔法的にも成長したカインは、いつもの森へと足を踏み入れた——。

カイン・アルステル、14歳。


「よっと!」木の根を軽く飛び越え、森を駆け抜ける。

探知魔法(サーチ)」と唱えると弓を構え、矢を放つ。空気を切り裂き、近くの茂みに飛んでいき、その対象に命中する。

「よし!」

矢が命中したのは、小さなウサギだ。

持っていたナイフで手早く下処理を済ませ、皮袋に入れると、いつも通り村への帰路を辿る。


そうして村に近づくにつれ、異様な『違和感』を覚えた。

焦げた匂いが鼻を突き、村の方向の空には黒い煙が渦巻いている。

「あんな大きな黒い煙、まさか村全体が燃えてる…!?母さん!」と叫び、足元の石や倒れた枝を蹴飛ばしながら、僕は必死に走る。

村の入り口が見えると、炎が家々を飲み込み、木造の屋根が次々と崩れ落ちていた。

悲鳴や泣き声は一切なく、焦げ臭い煙が肺に痛みを走らせる。

「母さん!村の人たちは…!?」

胸の奥が締め付けられるように痛み、足は止まりそうになるが、必死に前へと進む。


そうして、目にしたのは、倒れている村の人々だった。

…その中には、おじさんや母さんの姿もあった。息絶えたまま倒れ、顔には炎の熱と黒煙の跡が残っている。


足元でパチパチと木材が燃える音が響き、空気は熱気でゆらゆらと揺れている。

息を呑み、必死に炎の間から手を伸ばそうとするが、熱で皮膚が痛み、近づくことさえできない。

(こんな……こんなことが……)

 

思考がぐちゃぐちゃにかき乱され、視界は涙と煙でぼやける。

その時、 探知魔法(サーチ)が何かを捉えた。

それは禍々しい魔力だった——。

涙を拭いそちらに目を凝らす、蜃気楼で歪んだそこには…3mはあろう巨体にツノを生やし、コウモリのような翼を背中に携え、尻尾を振り回す怪物がいた。

それを見て僕は直感的に「悪魔だ」と確信する。

(神話の中の存在じゃ!?)などと思考をしているうちに、やつが村を焼いた犯人だと理解する。

悪魔の翼が羽ばたくたび、炎の熱風が巻き上がり、木々の葉が燃え上がるかのように揺れる。

その時、胸の奥で何かが弾けるような感覚が走り、カインの心に「復讐心」「怒り」「悲しみ」…『憤怒』が宿った。

血液が沸騰し、魔力が溢れ出す感覚がし、今にでも悪魔に弓を放ちそうになる。

その次の瞬間、脳内に声が響き渡る。

「なんだ?どう言う状況だ」と…その声は確かに自分の声だった。


炎の中で、何かが変わろうとしている。悲しみと怒りが交錯し、14歳の少年の力が目覚める瞬間だった。


続く

 

〜あとがき〜

主人公「カイン・アルステル」

髪色 紺色

髪型 まっすぐと下に伸びる髪で、短い。

瞳の色 紺色

身長(10歳) 136.2cm

身長(14歳) 172.2cm

現在の年齢14歳

適正属性 無属性

固有魔法 現在未公開

取得魔法 「探知魔法(サーチ)」「|身体強化(コルプスエンフォル)」」魔力弾(ノクティス)」「視力強化(オキュルスエンフォル)」「火種(ピルナ)」「清水(アクル)」「氷結(グラナ)」「(ルナス)


農家のおじさん

髪色 茶色

髪型 オールバック

瞳の色 黒

身長 184.5cm

適正属性 風属性

固有魔法 「何かを乾かす(ドライアス)

取得魔法 「探知魔法(サーチ)」「|身体強化(コルプスエンフォル)」「火種(ピルナ)」「清水(アクル)」「氷結(グラナ)」「(ルナス)」「風の矢(アエロスパイク)」「風の刃(ギャストブレード)


馬車の御者

髪色 黒色

髪型 ツルツル

瞳の色 黄色

身長 164.2cm

適正属性 光属性

固有魔法 現在未公開

取得魔法 「探知魔法(サーチ)」「|身体強化(コルプスエンフォル)」「火種(ピルナ)」「清水(アクル)」「氷結(グラナ)」「(ルナス)」「治癒(ヒール)」「光の矢(ルミアアーカス)


主人公の母「ナイン・アルステル」

髪色 紺色

髪型 三つ編み

瞳の色 紺色

身長 158.3cm

適正属性 未公開

固有魔法 未公開

取得魔法 未公開

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