思いもよらない出会い
日本人か、、、、かかわらないようにしよう、、、、
そう思っていたのだが、仕上がったアマガタ様のスーツをお届けするのに、言葉が通じない、と、店番の女の子に言われて、渋々、届けに行く。
届け先は、ベルリン市内の高級ホテルだ。まあ、そんな感じの人だったな。
フロントで用件を伝えると、ロビーで待つように言われ、ふかふかの椅子に座って待っていた。きちんとした格好で来てよかった。
[お待たせしたかな?]
やってきたのは秘書だった。ケン、って呼ばれていた。まあ、いい。
最初っから日本語ですか?
[いえ、先ほど着いたばかりです。アマガタ様のスーツが出来上がりまして。]
[ああ。]
部屋でくつろいでいたのであろう彼は、タイを緩めていた。まあ、、、いい男だ。
関係ないけど。
そそくさと、仕上がったスーツを渡し、お礼を述べて帰ろうとすると、フロントに荷物を預けた秘書が、付いてくる。
??
[ああ、アマガタが、夕方は危ないからお嬢さんを送っていくように、と。]
さんざん辞退したが、、、、聞き流された。ケンは無表情のままついてくる。
大きな公園を抜け、住宅街を通るころには、街灯に火が入り始めた。
[お前、なんで日本語なんか話せるんだ?]
唐突に、ケンが話しかける。
まさか、、、前世の記憶が、とも言えず、、、、
[ああ、、、実はフランス人のお友達がいて、フランス語を習ったので、、、、翻訳の仕事をしていまして、、、日本語からドイツ語に、って仕事もあって、、、まあ、辞書片手にですけど。]
[ふーーーん。それで、、、会話ができるなんて、凄いな。]
[え?ああ、でも、カンジは苦手です。中国語は出来ませんし。]
[ふん。僕らもよく中国人に間違われるよ。日本は小国だからな。]
[・・・・・]
あ、どうしよう、、、会話が続かない、、、
私たちは、夕暮れの街並みを黙々と歩いた。
酒場の店先に女の人がたむろして、ケンを誘っている。きらびやかな衣装に厚い化粧。隣の小さな劇場は、開幕準備らしい。
一本裏道を通って、古い教会の前を通ると、若い男女が語らっていたり、、、、
あ、、、メンドクサイ。
辻馬車にでも乗ればよかった。
やっとの思いで店にたどり着き、礼を述べて引っ込もうとすると、、
「いや、僕もスーツを注文していく。シャツもだ。」
「・・・・・」
閉店の準備をしていた店の子に言って、ケンの採寸をしてもらう。
「どのデザインで?生地の指定はございますか?」
「生地は見れるのか?」
隣の小間物屋に連れて行って、スーツ用の生地を選ばせる。アマガタ様は、飾ってあったチェックの生地を選んだが、ケンは黒に近いチャコールグレーの生地を選んだ。物は良い。地味だけど。今日のスーツもほぼ黒のストライプ。
「タイは、少し明るめになさったほうが良いですね。真っ黒に見えますから。」
そういえば、初めにこの店に来た時も、濃紺のスーツだった。
「いや、まあ、いいんだ。どうせ秘書だし。」
スーツを一組と、シャツを3枚。アマガタのシャツも3枚。
何時ものように長財布を取り出して、さっさと払った。
「こちらの注文書にお名前だけお願いします。連絡先は一緒ですよね?」
「・・・ああ、、、、」
ケン、は、さらさらと自分の名前をサインした。
ケンキチ アイザワ




