8歳 新しい仕事
ジュリアさんのところに1年通った頃、旦那さんが今度はロシアに行くことになったらしい。
「やっとドイツ語を覚えたのに!!」
彼女は愚痴もドイツ語で言えるくらいになった。素晴らしい!
今回のように言葉で困らないように、旦那様が先だってロシア語の先生を見つけてくれたらしい。ロシア語かあ、、、未知の言語だな。ベルリンの下町の貧乏仕立て屋の娘には、一生関係がない。まあ、、、日本語も、、ないな。
そう言えば、、オオタはロシアにも行っていたな。あの人、ロシア語もできたのかしら?
ジュリアさんが一緒にどう?と、誘ってくれたので、私も一緒にロシア語を習うことになった。お昼ご飯付きで。
ロシア語はホントに、、、なんというか、まったく違う言葉だった。文字は記号みたいだ。知識は無駄にならないから、、、と、自分に言い聞かせる。
そんなある日、旦那様も一緒にお茶を飲んでいた時に、
「ねえ、エリス?もしよかったら、、、、うちの子にならない?」
飲みかけたお茶を、吹き出しそうになるほどびっくり発言があった。
「え???」
「僕たち二人でよく話していたんだけどね、君みたいな子がいたら、毎日がこれからも楽しいだろうなあ、って。僕たち、子供に恵まれないし、、、、秋には、ロシアに行かなくてはいけないし、、、、急な話に聞こえるかもしれないけど、、、、、考えてくれない?」
「・・・・・」
確かに、、、この家は中流階級。食べるのに困ることはない。
家に、、、食い扶持が減るのも、良いのかも、、、、でも、、、
「・・・いいえ、、、私は、、、ジュリアさんのいいお友達でいさせてください。生意気ですけど。」
「まあ、、、、生意気なんて、、、ごめんなさいね、、、そうよね?まだ8歳ですもの、、、」
「お手紙書きますね?落ち着いたら、住所を教えてくださいね?」
「ええ、、、、ええ、、、、」
泣いているジュリアさんをそっと抱きしめる。
秋になり、ジュリアさん夫婦は、ロシアに旅立った。
「ロシア語で手紙を書くわね!」
と、手を振るジュリアさんを、駅で見送った。
さすがに、、、、少し寂しい。
長いこと一緒にいたから、、、、残ることにしたのだから、頑張って、うちの貧乏を改革しよう、と、再度心に誓う。
そう、、、私が小間物屋で働いて得るささやかな給金でさえ、うちでは貴重な所得になっている。ジュリアさんの旦那様に、実家に仕送りを頼むわけにはいかない。
これから午前中は暇になったから、何か、新しいことを始めよう!
父は相変わらず、ギルドの寄り合いの帰りには、捨ててある新聞を拾ってきてくれている。ランプの近くによって、今日も、隅々まで目を通す。おかげで、政治、経済、ゴシップ、文化、、、、色々なことが理解できるようになってきた気がする。
・・・・前回の人生では、、、ここまでの理解はなかったかな。なんか、他人事みたいだったから、、、、オオタは凄いわ!とか、前提で話を聞いていたなあ、、、、
ま、、、次、次、、、、
【求人:翻訳者求む。フランス語をドイツ語に。】
「おっ!」
【フランスの雑誌を翻訳する仕事。出来高制。】
「うん、うん、、、」
父親に言って、新聞に求人を出していた出版社に行って、私の名前で仕事をもらってきてくれるように。年齢は伏せるように頼む。8歳なんて、、、門前払いが目に見えている。あとは、、、仕事が出来ればいいことだ。
私名義で銀行に口座を作ってくれることも忘れずに頼んだ。
次の日、早速出かけてくれた父は、夕方、5枚ほどの原稿を渡してくれた。
「とりあえず、これを1週間で翻訳してくれってよ。出来るのかい?」
「・・・・・」
ざっと目を通す。そんなに難しい文章ではない。2日もあればできるかな?
「大丈夫よ、お父さん。」




