ファンタジーが過ぎる
「ファンタジーが過ぎる」
思わず溢れた言葉に、白樹さんはくつくつと笑う。
「おいで」
当たり前のように差し出された手をとり、扉をくぐれば、広々としたお部屋が待っていた。なんだか、ど●でもドアみたいだ。
部屋は、全体的に落ち着いた焦げ茶色の家具はクラシカルな雰囲気で、深みのある赤い絨毯に、ガラス素材のランプシェード。大きな窓の上には、色ガラスはめ込まれて椿の模様が描かれている。
促されるままに布張りのソファーへと腰をかけたところで、扉がノックされた。
「失礼致します」
先ほど紹介してくれた三人がお部屋に入ってきた。
郎さんは白樹さんに何かを手渡し、雪さんと恋さんはお茶の準備をしてくれている。
「花様、どちらのお菓子を召し上がりますか?」
「えっと……チーズケーキをお願いします」
「かしこまりました。私どもには気軽にお話ください。敬語は必要ありませんよ」
「あ、はい……」
うわぁー! 背中がムズムズする!! 優しげなおじいちゃんの郎さんに、凛とした雰囲気の雪さん。私よりも年下に見える可愛らしい恋さん。
お屋敷の人たちが丁重にもてなしてくれているのは、とってもありがたい。
だけどね、一般市民の私からしたら過分な対応なのよ! もう、どうしたらいいのか分かんない!!
「少しずつ慣れていってください」
「恋さん……」
「恋と呼んで頂けたら嬉しいです」
優しい言葉に感動していたら、これまた優しく呼び方を訂正されてしまう。
そもそも、自分の今の立場もよく分かっていないのに、どうすればいいのかなんて分かるわけがないのだ。
「花と話をする」
白樹さんの一言で三人は退室していった。それなのに、部屋は静寂に包まれる。
「あの……」
この沈黙に耐えられなくなったのは、私だった。非常に濃いはじめましてだったが、出会ったてからまだ一時間も経っていない。気まずい。
「ここは、死後の世界じゃないんですか?」
「死後ではない。だが、真理花の世界でもない」
あ、真理花になった。さっきまでは、花だったのに。
……って、今はそれどころじゃない。死後でも私のいた世界でもない。そうなると、私が思い付く選択肢はあと二つ。夢か、異世界か……。
うん。異世界はないな。そんなの物語の世界だけだろうし。何より二十七歳にもなって、異世界転移だ! なんて思うことすら恥ずかしい。
そう。あり得ないのだ。あり得ないのに、心のどこかで異世界転移を疑っている。……私は中二病なのかもしれない。
「ここは、陽元。真理花の世界の言葉でいう異界だ」
「異界……」
えっと、異世界ってことだよね? 嘘でしょ? いや、現実なのか? 私の潜在的な中二病脳がそうさせているのか?
「真理花は俺の花嫁として呼ばれた」
「花嫁……」
ファ、ファンタジー!!
感想がこれじゃないのは、分かってる。だけどもう、これしか出てこない。ファンタジーが過ぎる。いや、これも中二病か?
……うん。正直に言おう。気を悪くするかもだけど、きちんと伝えることが大事だよね。
「ごめんなさい。意味が分からないです」
予想を越えたことをファンタジーと言ってきたけど、何もかもが意味不明。
陽元? なんじゃそりゃだし、花嫁とか理解不能。中二病脳だとしても、脳が受け入れを拒否してる。
「何が分からない?」
何がと言われても全てだ。だけど、白樹さんは説明が下手くそだ。それだけはわかる。こちらから聞いていくしかない。
私は鞄からメモ帳とボールペンを出すと、メモを取る用意をする。
社会人五年目。取引先で言葉足らずな上にミスを私のせいにする人だっていた。態度が糞みたいな人もいた。女だからと馬鹿にするクズもいた。
白樹さんは言葉は足りないけれど、人のせいにするようには思えない。大丈夫。一から確認しよう。