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笑う恋々


 走り出した恋々は、カッコいいの一言だった。

 

 しなやかな動きで、(むち)を使って獣を打っていく。波打つような鞭に当たった獣は、打たれた場所から弾けて消えていった。

 けれど、粒子のようにキラキラとは輝かない。ただ何もなかったかのように、消えるのだ。

 

「すごい。まるで恋々の一部みたい」


 私が鞭を振れば、自分に当たったり、周りのものを倒したりしていた。それなのに、恋々は自由自在という言葉がピッタリなのだ。


 私の編んだ鞭は、三メートルほど。恋々と相談して決めた長さだが、実際に見てみると圧巻(あっかん)の一言だった。



「キャハハハハハ。私に勝とうなんざ、一億万年早いんだよ!! 二度と現れるんじゃねーぞ。何度だって、殺してやらー!!」


 楽しそうだ。完璧にキャラが変わってる。恋々は笑いながら戦うのか。うん、ちょっと怖いかも。

 あぁ、引かないで。味方だから。


 鞭を振り回し、二体の穢れを倒していく恋々の姿に、討伐隊の人たちは明らかに距離をとっている。


 そんな仲間のことを全く気にすることなく、恋々は凶暴化した獣のみを見ている。


 攻撃をしてくる手や足を鞭で打つ。打たれて消えていくのを眺めることなく、次々と鞭を振るう。そして、素早く弱点に打ち込んだ。


 ぱんっ、と一瞬で散った。


 そこに凶暴化した獣がいたなど信じられないほどに一瞬だった。もう一体も瞬きの間に倒してしまう。

 地面に残された体だけの遺体と、飛び散った赤が異様に思えるほど、そこには何もなかった。



「花様ー! やりました!! 花様特性の武器は最強でしたよ!!」


 嬉しそうに手をぶんぶんと振りながら、恋々は私のところへと戻ってきてくれる。

 あと一体いた、一際(ひときわ)大きい穢れはいなくなっていた。木々に隠れて見えないところから、あんなにもじっと私を見ていたように感じたのは気のせいだったのだろうか。


「恋々、ありがとう。怪我はない?」

「はい。楽勝でした。鞭って殺傷力がないから使う人はいないんです。でも、対穢れなら最強ですね」


 嬉しそうに言う恋々の背中に、ぶんぶんとしっぽを振る幻覚が見える。さっきまであんなにも嬉々として戦っていたのに、まるで別人だ。

 私の知っているいつもの恋々に戻っている。



「おい!!」


 怒りを隠さない、感情をぶつけるかのような声がした。声がした方に視線を向ければ、まだ若い討伐隊の青年が(かたき)でも見るような憎しみのこもった目を私に向けている。


「やめろ! あいつも覚悟の上で参加してんだ。運が悪かった、それだけだ」

「うるせぇ!」


 止めにきた別の青年を突き飛ばし、こちらに大股で近付いてくる。恋々は(かば)うように、私と青年の間に立ってくれた。

 けれど、戦闘以外では恋々の背中に隠れるつもりはない。私は、恋々の半歩前に立った。


「花様!?」

「私は弱いけれど、戦闘以外で(れん)の後ろに隠れるつもりはないの。少しでいい。見守ってくれないかな?」


 恋々はかなり渋々といった様子だが、もう一度私を背に庇うことはしなかった。


 逃げられないようにだろうか、怒鳴りながら彼は私の腕を掴んだ。

 加減など全くしていない力で掴まれたので、痛みに思わず顔をしかめれば、更に強い力を込められる。


「なんで、(よう)を助けてくれなかったんだよ」

(だい)、やめろ!」


 突き飛ばされた青年は、必死に私の腕を掴む大と呼んだ青年の手をほどこうとしている。けれど、彼は止まらない。


「その武器なら、お前らなら、すぐに助けられたじゃねーか。この人殺し!!」

「やめろって!」


 必死に止めてくれる青年に、大丈夫だからという気持ちで小さく首を振る。そして、空いている方の手を、懸命にほどこうとしてくれる彼の手に重ねた。


「ありがとう。大丈夫だから」


 だって、彼の言っていることは当たっている。

 鞭を使えば、助けられたかもしれない。私が強ければ、踏み出す勇気があれば、死なずに済んだのかもしれない。それに──。


「大丈夫なことなんかねーよ。お前が殺したんだ!!」


 激昂(げきこう)する姿に、誰かのせいにしないといけないほど、心が傷ついているのだと思うから。

 けれど、それでは何も良い方向に向かわない。


「私は確かに見殺しにしてしまった。けれど、殺したのは凶暴化した獣。そして、あなたは……大さんは、洋さんを助けられなかった。私と同じよ」

「違う! オレは討伐隊として戦っていた!!」

「それを言うなら、私たちは討伐隊ですらないわ。勝手に忍び込んでついてきたもの」


 そう。私は部外者なのだ。着いてくることを認めてもらえていない。残念だけど、それが現実だ。

 

 

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