表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/49

ファ、ファンタジー……


 これから、白樹(はくじゅ)さんの家へと向かう。今日から私がお世話になる家だ。


「それは、持っていくか?」


 そう言って指を差したのは、私の可愛いミルクティー色の軽自動車。持っていくも何も、私の宝物である。


「もちろんです。この子には、私の夢と希望が詰まっています!」


 そうなのだ。この子に乗れば、どこにだって行ける。私のパートナー。テレビでこの子を見たときに一目惚れをして、貯金をはたいて買った愛しい子だ。


「そうか」


 白樹さんは、それだけ言うと着物の胸元から短い棒を出して振った。すると、それはガチンと音を立てながら伸びて、杖のようなものになる。


「帰るぞ」


 白樹さんは杖のようなもので、私と白樹さん、それから私の愛車の周りをぐるりと囲む円を描いた。


「指一本も円から出るな。無くなる」

「無くなるって、何が──」


 白樹さんが杖の先で地面をトンッと叩く。


 ちりーん、ちりーん……、とまた風鈴の音が聞こえたと思った瞬間、私はどこかのお屋敷にいた。



「ファ……ファンタジー」


 魔法だ。魔法が存在していた。瞬間移動しちゃったよ。

 ……夢ならそろそろ覚めても良い頃合いだと思うんだけど、起きないということはここは死後の世界なのだろうか。


 大正ロマンを思わせる石段の上にあるお屋敷を見上げ、私は心のなかで小さく首を傾げる。

 決して悪いことはしなかったけれど、特別良いことをしたこともない。どこにでもある平凡な人生を送っていた私がこんな好待遇(こうたいぐう)を受けられるとも考えにくい。


「あの、ここはどこですか?」

「俺と真理花の住む家だ」


 そうなのかもしれない。だけど、聞きたいことはそれじゃない。


「ここは、死後の世界でしょうか」


 じっと白樹さんの目を見る。


「死後? ……説明不足だったな。珈琲(コーヒー)は飲めるか?」

「あっ、はい」


 どういうこと? コーヒーを飲みながら説明してくれるってこと? なんか、白樹さんって言葉が足りない気がするんだよね。

 うーん。これは、根掘り葉掘り聞けるときに聞いておかないと。


「案内しよう」


 スタスタと歩きだし、後ろも振り向かないと思いきや、白樹さんは私に手を差し伸べている。


「えっ……と」

「手を」


 手を? 手を繋ぐってこと? 初対面なのに?

 うーん。どうしようか。正直、こんなキレイな人と手を繋げるなんておいしい展開だよね。

 だけどなぁ……。指先まで美しい手に自分の手が重なると思うと、なんか違うんだよね。


「どうした?」


 本当に不思議そうに見詰められ、悩んでいることが馬鹿馬鹿しくなる。

 まぁ、いっか。考えても仕方がない。人生はなるようにしかならないのだから。


「何でもありません」


 差し出された手を取る。文字を書くために握られた時も思ったけれど、白樹さんの手は大きい。優しく握られた手は私の手なんかすっぽりと収まってしまう。


 あれ? 手を繋ぐって思ったけど、エスコート? 


 うっわ! 恥ずかしっ!! 勘違いしてた。結婚だとか言ってたから、手を繋ぐんだと思っちゃったよ。

 埋めて……。誰か、私を埋めてくれ。たった今、私のメンタルは恥ずか死んだ。心の埋葬をしないと……。


「行こうか」

「はい……」


 心の埋葬が終わらぬまま、白樹さんにエスコートをしてもらい、歩き始めた。

 石造りの階段を一段上ると、エスカレーターのように動いて一番上の段にたどり着く。そして、重厚な扉もまた、何もしていないのに勝手に開かれた。

 ファンタジーな展開に、思わず開かれた扉を凝視してしまう。


「屋敷は主人が分かるからな」

「え?」

「これからは、真理花も女主人だ。屋敷も真理花の良いようにしてくれる」


 何を言っているのか、またしても分からない。言葉足らずにも程がある。

 もう少し分かりやすく話してもらわないと……。



「おかえりなさいませ」


 たくさんの人たちが左右に別れて並び、頭を下げている。おかしい、扉が開かれた瞬間はいなかったはずなのに。


「妻だ」


 うえっ! いきなり?

 もう、何から突っ込めば良いのか分からない。妻になることを了承していないことを言えばいいのか、あいさつをすれば良いのか……。

 とりあえず、あいさつだよね。どのみち少しの間はお世話になることになるだろうし。


「はじめまして。()──」

(はな)だ」

「はい!?」


 いやいやいや! 白樹さん、私の名前を知ってるよね? (はな)って誰よ? 何故に遮って別の名前を言うの?


(はく)……むぐぅっ」


 名前を呼ぼうとしたら、斜め後ろにいた白樹さんの手が伸びてきてそっと口をおおわれる。


「俺のことは、(はく)と呼んでくれ」

「えっ! あ、はい?」


 いきなり口を塞がれたと思ったら、白樹さんを(はく)と呼んでくれ? え? あだ名で呼ぶの? このタイミングで? それに、なんか距離近くない!?


 私の頭のなかは疑問符だらけなのに、白樹さんはマイペースだ。


「執事の(ろう)に、メイド長の(ゆき)だ。この子は花の担当メイドの(れん)

「あ、えっと……。よろしくお願いします?」


 あぁ! 疑問系になっちゃったじゃん。展開が雑な上に急だから、気持ちが追い付かないんだよ!


「よろしくお願いいたします、奥様」

「奥様!?」

「はい。白様の奥方様でいらっしゃいますから」


 いや、了承していないんだけど。どうにかしてよ。そんな気持ちを込めて白樹さんを見れば、にこやかに頷いてくれる。

 よし! 伝わった。


「花はここには慣れていない。よくしてやってくれ」

「もちろんでございます」


 ちょっと、待てーい!! よくしてやってくれって、頼んでくれたのはありがたいけど、そうじゃない! そうじゃないよね!?


「奥様じゃなくて、名前で呼んでくれませんか?」

「かしこまりました。花様」


  にこやかに頭を下げてくれて、ホッと息を吐く。後で白樹さんから、奥様じゃないってちゃんと伝えてもらわないと。そもそも名前も違うんだけども。

 結婚について保留にしている間に、どんどん周知の事実になっては困る。


「まずは花と話をする。そのあとに案内を頼む」


 そう言って白樹さんが足を踏み出せば、ちりんという風鈴の音とともに目の前に扉が現れる。

 そして、やっぱり誰も触っていないのに扉は開かれた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ