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一つのベッドで(エロではありません)


 食事も終わり、扉で移動して入浴も終えた。


 お風呂ではあちこちの傷が染みたが、それが私を現実に繋ぎ止めてくれた。

 一人になると、呻き声も助けてと言う声も大きくなったのだ。抱き締めていたはずなのに、どんどん消えていく感覚もまだ鮮明だ。



「白樹、いつ寝に行くの?」


 何故か白樹が部屋に帰らない。ストライプ柄のソファでくつろいでいる。


「今日はここで寝る」

「……はい?」


 幻聴だろうか。白樹がここで寝ると言った気がする。


「今日は真理花と寝る。手は出さないから安心しろ」

「……私とって、このベッドで寝るの?」


 私が使わせてもらっているベッドは広い。白樹と二人で寝ても余裕がある。 

 でもね、同じベッドだよ? 手は出さないって言ってくれたけど、同じベッドってありなの? あ、一応夫婦だからありなのか? 

 でも、だって、と頭の中で自問自答していれば、ひょいっと白樹に抱っこされてベッドへと運ばれてしまった。


「……白樹は抱っこするの好きだよね」

「好きな女に触れたいのは当然だろ? ほら、寝るぞ」


 白樹は私の口元まですっぽりと布団をかけると、自身もまた布団に潜る。そして、私を優しい力で抱きしめた。


 白樹の好きな女に触れたい発言と、簡単に逃げ出せてしまうほどの優しい腕に動悸(どうき)が止まらない。


「俺が部屋に帰ったら、真理花は寝ないだろ?」

「そんなことない」


 寝るつもりはある。けれど、目を閉じると(まぶた)の裏に(よみがえ)る光景に、まだ眠れそうもない。

 だから、もう少しだけ組紐を編もうかと思っているだけ。


「私、もう少し起きているから、白樹は部屋に帰ってゆっくり休んで?」

「嫌だ。今日は真理花と寝ると決めた。一緒にいて欲しいと言っただろ?」


 少し口を尖らせて言う姿は、拗ねているみたいでちょっと可愛い。


「でも、まだ私は寝ないから。白樹にはゆっくり休んで欲しいな」

「真理花と一緒にいたい。駄目か?」

「……だめじゃないけど」


 その聞き方はずるいと思う。好きな人にそう聞かれてだめだと言える人っているの? 私には無理だ。


「眠くなったら寝る。俺のことは気にするな」


 優しく私の頭を撫でたあと、その手はゆっくりと私から離れていった。


 ちりーん、という風鈴の音とともに三十センチないくらいの扉が現れる。そこを開けて白樹は一冊の本を取り出すと、ぱらりとページをめくった。


 一緒にいたいと言ってくれてるけど、本当は心配で一緒にいてくれてるんだろうな……。心配だからと言えば、私が大丈夫だと突っぱねるから。


 ありがとう。


 心の中で何度目か分からないお礼を言って、私も組紐を編む。だが、糸がすぐに足りなくなってしまった。


「白樹、糸ってさっきの小さい扉みたいなのから出せる?」


 本から視線を上げた白樹と視線が交わった時、ちりーんという音とともに小さな扉が現れた。扉を開いてくれ、そこには糸があったのだが……。


「少ないな」

「少ないね」


 私が大量に使ってしまったせいだろう。糸がほとんどない。


「明日、買いに行くか」

「えっ?」


 今、誘われた? いや、一人で行く感じかもしれない。独り言という線も捨てきれな──。


「ついでに街を見て、昼食もとろう。まだ街を案内していなかったな」

「……討伐は?」


 また明朝に討伐に行くと言っていたはずだ。


「休みになった」

「そんなこと、あります?」

「何で敬語なんだ?」


 可笑しそうに白樹は笑うが、私の頭の中は疑問でいっぱいだ。

 凶暴化した獣を放っておけば大変なことになる。それは私よりも白樹の方が分かっているはずだし……。


「凶暴化した獣は善と悪がいれば倒せる。今は新たな報告もない」

「そうなんだ」


 あれ? それなら何で討伐に行くことになっていたんだろう。そんな私の疑問を表情から感じてくれたらしく、白樹が言葉を付け足してくれる。

 最近は言葉が足らなくて分からないことも随分と減った。


「毎日、森の方から凶暴化した獣の報告が上がる。だから、朝から森にいるんだ」

「そうなんだ。……それなら、明日も森に行った方がいいじゃないの?」


「……ドクターに怒られた」

「えっ?」


 ドクターに? 何で?


「働きすぎだそうだ。善と悪でも倒せるのだから、たまには休めと言われてしまった」


 それで明日がお休みなわけか。確かにここ最近は討伐ばかりだったもんね。


「私が森に行くのはありかな? 白樹の代わりに行って、浄化を──」

「駄目だ!! 真理花、明日はおとなしく俺と出掛けろ」

「えっ、でも……」


 白樹が休みなら余計に大変だし、浄化ができた方がいい気がするけど。

 それに、私は絶対に浄化をしなくちゃいけない。


「言い方は悪いが、真理花を守るのにも人員がいる」


 あ、そうか。そうだよね。

 浄化ができるというだけで、戦闘経験はない。武術の経験もない。足手まといになる未来しかないのか。

 絶対についていくと勝手に決めたけど、私が行くことで困ることもあるんだよね。


「真理花の今の仕事は組紐を編むことだろ? まずは糸を買いにいこう」

「分かった。無理言って、ごめんね」


「いや。真理花が皆のためを想ってくれているのに、すまない。でも、俺は嬉しいんだ。明日は真理花と出掛けられる。そのことか嬉しくて仕方がない。真理花は違うのか?」


 またそういう言い方!! そんなこと言われたら、嬉しいに決まってる。


「私も、嬉しいよ」


 こんなに幸せでいいのかと思うくらいに。


「明日、楽しみだな。嫌という程、編むことになるかもしれないぞ」


 からかうような口調で白樹は言う。けれど、本当に嫌という程の数が必要なのだ。

 まずは組紐をたくさん編むのが最優先。討伐に着いていくのは、もう少し先になりそうだ。

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