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爆華繚嵐 ~Ride on Multiverse True Ending~  作者: 夕景未來
【始章】冒険者達の回顧録
4/50

【第3話】時空の守護者と陰謀論

 時空管理局―――無限に広がる多元世界(マルチバース)の秩序を守る為に活動する国家直属の公安組織である。その中でも並行世界特務調査課(P.S.I.D.)と呼ばれる前線実働部隊は、世界秩序を乱す時空犯罪者を取り締まる務を担っている。その活動内容から"時空警察"という俗称で呼ばれる事もある。

「多分あの化け物を確保する為に駆り出されたんだと思うよ?僕らがその場から逃げる理由なんて無くない?」

 ショッピングセンターのフードコートに現れた化け物じみた男との乱闘騒ぎに巻き込まれた僕―――御刃多嵐(ごばた らん)は、騒ぎを延焼させたと言っても過言ではない相棒の麻英田華(まえだ はな)に言った。華は神妙な面持ちで言う。

「そうだな。でもあの場に留まってたら例の騒ぎに関わったって事で任意同行を求められる。今のあんたの立場は何だ?時空監獄(タイムプリズン)から抜け出した"脱獄囚"だ。あんな狭い箱に逆戻りは嫌だろ?」

「そ、そうだけど…」

 囚人は何故脱獄を図るのか。自分に罪の意識があるのであれば、刑期満了まで大人しく処罰を受けるだろう。だが脱獄を図る囚人が少なからず存在する。愛する誰かに会いたい、冤罪(えんざい)の主張が届かない、監獄生活に耐えられない等。僕の場合は自分の意志ではなく、洗脳で操られた様に重罪を犯した身。とは言え収監されて然りの身分だと罪の意識は十分持っている。でも僕は華の手で自由を得た。外部援助ありとは言え脱獄には変わりない。僕が自由に手を伸ばした理由、それは僕らが危険を冒してまで世界を飛び回る理由でもある。


―――公安組織ですらも対処できないであろう、世界を脅かす巨悪に立ち向かう為だ。


「実際あの場で派手に暴れ回っちまった事もあるし、私としても会うと面倒な相手ではあるな」

 華は少し困った表情で言う。

「ま、まぁ……確かに」

「手っ取り早くここを出るぞ」

「逃げたら逆に怪しまれる気もするけど…まぁ、華ちゃんが言うなら……」

「よし、決まりだ。行くぞ」

 僕は急ぎ足の彼女の背中を追い、ショッピングセンターを後にした。


「この世界線にも居づらくなっちまったな…」

 華が呟く。

「そうだね…」

 行く先々で騒ぎを起こしている僕らは、自分で言うのもなんだが敵を作り慣れている。

「おっし、勘違い野郎(FMG)。次は何処へ行きたい?今度はあんたに選ばせてやる」

 そうだ、これはまだ僕の時空渡航者としての感覚を取り戻す為のアイスブレークだ。でも、あんな騒ぎに巻き込まれたせいか、思った以上に早い段階で感覚が戻ってきてしまった。

「感は戻ったし、そろそろ本題に…」

 そう言いながら僕は上着の懐に手を突っ込む。

(あれ…?)

 僕は言葉を失った。

「Hey, are you alright?」

(嘘だろ、そんなまさか!?)

 焦って上着やズボンのポケット、果ては鞄の奥底まで漁る僕を、華は首を傾げ見つめる。彼女と目が合ってしまった僕は少し目を逸らして声量を落として言った。


「あのメモ、さっき逃げてた拍子に落としちゃったみたい…」

「Whaaaaaaaaat!?」

 華の絶叫が都市部の空に響いた。

 

 B21世界線某所のショッピングモール。凄惨な光景となったフードコートには規制線が貼られている。床にめり込んだ状態で意識を失った屈強な男を担架で運ぶ鑑識を横目に、僕―――亜久津野薔薇(あくつ のばら)は目撃者から事情を聞いていた。

(影を操る男、暴れん坊のハンマー使い…)

 目撃者からの証言は現実離れした点が散見される。だが、その証言が噓でない事は現場の惨状を見れば明らかだった。聴取を終えた僕は溜め息を吐くと現場から離れようとする。その時、床に落ちた一枚の紙が目に留まる。

(これは?)

 僕はそれを拾い上げる。そこには丁寧なボールペン字で何か書かれていた。


《果ての世界の石柱

"冥より出でし闇夜より暗き者

永久(とこしえ)に消えぬ黒にて世界を覆う

訪れるは再生の叶わぬ破滅"

→世界の終焉?闇夜より暗き者とは?》


("果ての世界"…"終焉"、だと!?)

 メモ書きを持った手が震える。同時に激痛を頭が貫く。果ての世界は座標位置不明世界線の俗称であり、並の時空渡航者でも到達困難な場所である。それ故、時空管理局すら安易に手出しできないのだ。このメモの持ち主は果ての世界へ一度でも行った事のある稀有(けう)存在だ。だとしてもそこで世界終焉という最悪のシナリオを見た、と言うのは公安に身を置く者としては聞き捨てならない。

(このメモの持ち主は相当(たち)の悪い陰謀論者だろうな)

 僕は溜め息を一つ吐くと、頭を貫く鋭い痛みに耐えながらメモをジャケットの胸ポケットへ乱雑に仕舞った。

「どうしたんですか、野薔薇先輩?何だか顔色悪いですけど」

 後輩調査員の末田力(まつだ りき)が僕の顔を覗き込み問う。僕は彼から少し顔を逸らし、一つ咳払いをすると言った。

「心配はいらない。それより、先刻の件の関係者を追うぞ」

「了解です」

 力は一つ返事をしてフードコートを後にした。それを見送った僕は、目撃者からメールで送られた画像に目を通す。床に倒れ伏す屈強な男の前に立っている二人の若者の姿。白衣を纏った男性、恐らく過去の大規模時空テロで収監されていた筈の脱獄囚―――御刃多嵐だ。完全に顔が一致している。そして、機械仕掛けの巨大ハンマーを携え猟奇的な笑みを浮かべている女性の横顔。彼女が恐らく脱獄囚の協力者、と言ったところか。目撃証言によれば化け物男に止めを刺したのはそのハンマー使いだという。彼等は既に現場から姿を消している。これから僕等はとんでもない厄介者と対峙する事になるだろう。

「絶対に見つけ出す、仕事潰しと陰謀論者を…」

 そう独り言ち、僕は現場を後にした。

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