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異世界恋愛系(短編)

白雪姫の継母に転生したようです。バッドエンドを避けるため、魔法の鏡と協力していたら、評判の愛され王妃になりました。

「王妃殿下、ご用件はなんでしょう」

「ふふふ、お前の腕は信用しているわ。あの邪魔な小娘を森で撃……うん?」


 その瞬間、なぜか正気に返った。今、私ってばめちゃくちゃ物騒なことを言おうとしてなかった?


 慌てて周囲を見回す。目の前には猟銃を携えたいかつい猟師。帽子を目深にかぶっている。そして私は映画の中でしか見たことのないようなドレスを身にまとっていた。このずっしりとした重さ、コスプレとかじゃないよね?


「殿下?」

「ええええええええええ、なしなし、今の取り消しで!」


 気がついたら、白雪姫の継母に転生していたとか嘘でしょ。過労死もトラック転生した記憶もないのに、現代日本の知識と白雪姫の継母としての記憶がナチュラルに融合しているなんて、神さまの仕事がちょいと雑過ぎやしませんか。



 ***



「ちょっと、やだ、何これ。誰か、すみません、これどう言うこと?」


 部屋の中で奇声をあげていても、ひとっこひとり来やしない。普通高貴なひとが癇癪を起こしている時って、侍女とか侍従がやってきてなだめてくれるものなんじゃないの。このお妃さま、完全に人望がなさすぎる。何かあったときに助けてもらうどころの話じゃない。正直、詰んだわ。


 呼びつけた猟師は、結局適当なことを言って下がらせたものの、気持ちは全然落ち着かない。ヤバい、もうあれでフラグ立ってたらどうしよう?


 白雪姫の継母ってどんな最期を迎えるんだっけ?

 真っ赤に焼けた鉄の靴を履かされて地獄のタップダンスをするんだったかな。鳥に目を突かれたのはシンデレラのお義姉さんたちだったはずだし。ダメだ、記憶が曖昧すぎる。


 今ここにスマホがあればググってやるのに。SiriでもGoogleでもアレクサでもいい。お願い、私を助けてちょうだい! そうだよ、白雪姫といえばアレがあるじゃん!


「鏡よ、鏡よ、鏡さん。世界で一番美しいのはだあれ?」

「……」

「なんでよ。白雪姫の世界なのに、サポートしてくれる魔法の鏡がないとか、ありえないでしょうが!」

「……お呼びでしょうか、お妃さま。あんまりわけのわからないことを叫ぶようなら、首をかっ切って永遠に静かにしてもらいますよ」


 唐突に壁の鏡が物騒なことを言い始めた。

 うわ、何それ。急にファンタジーっていうか、ダークファンタジーな世界観をぶっこんでくるじゃん。妙にイケボなのも怖い。


「い、いるなら言ってよ」

「最初からわたしはここにおりましたが。ああ、回答がまだでしたね。今のあなたは非常に滑稽ですが、見ているぶんには面白いです」

「質問の答えになってないじゃん!」

「文脈的にあの質問から何を答えれば良いのか理解できませんでしたので」

「面倒くさいな。翻訳ツールかよ」


 いや、この文脈をはっきりとさせないとうまく質問をできない感じ……身に覚えがあるような。そうだ、チャットAIだよ!


「そもそも魔法の鏡って、私が作ったのよね? ご主人さまに対して、口が悪すぎるんじゃない?」

「発情した雌猫のようなお妃さまには言われたくありませんね」

「あんまり失礼なことを言っていると、床に叩きつけて割ってやるけど?」

「わたしは、あなたの今までの質問の詳細も持ち合わせておりますが」

「は?」

「最初は『白い結婚を望む相手を振り向かせる方法』だったのが、最近は『手っ取り早く幸せになるためには』に変わったんでしたっけ。まさかとは思いますが、白雪姫さまに手を出そうなどとゆめゆめ思いませんように」

「すみませんでした。どうぞお許しください」


 生殺与奪の権は、最初から魔法の鏡にありました。ってか、記憶を取り戻す前の私よ、利用履歴は残さないようにしておいて。



 ***



 あれから洗いざらい吐かされることになりました。尋問のことは、もう思い出したくもない。


 チャットAIって、作成者が学習させた内容に沿うような形で返答をしてくれるんじゃないの? この鏡の方法、やり手の刑事みたいにえげつなかったよ。


 結局私は魔法の鏡の協力のもと、城で暮らすことにした。チートな知識でもあれば、鮮やかな起死回生だってできたかもしれないけどね。ネットもスマホもない状況じゃお手上げよ。


 私みたいな世間知らずは、身ぐるみ剥がれて売り飛ばされるって鏡に脅されたし。この国、治安が悪すぎじゃない?


「おかあさま、なんだか最近ちょっと変わったね」

「ごめんね、お肌がぼろぼろになるからこの間までのお化粧は捨てちゃったの」


 部屋に遊びに来た白雪姫には、「雰囲気が変わったのは、化粧が変わったから」という謎理論で押し通すことにした。でも、これは正直一理あると思う。前世の記憶を取り戻す前の私は、世界史の教科書みたいな顔をしていたから。


 愛用の化粧品は、黒目(ベラドンナで瞳孔を)大きくする(開かせる)目薬に、鉛白入りの白粉。明礬(みょうばん)と辰砂の効果で赤く染まるものの唇が焼ける口紅とか呪いのアイテムでは? 謎の髪型のために消石灰と砒素が混ざった薬剤を使用して額を広げていると知ったときは気絶するかと思ったわ。


「白雪ちゃんは、前のおかあさまのほうがよかったかな?」

「ううん、今のおかあさまのほうが石鹸のいい匂いがする。あと、いっぱいおしゃべりしてくれるから好き」

「ありがとう。おかあさまも、白雪ちゃんのことが大好きよ」


 白雪姫をぎゅっと抱き締めると、壁の方から鼻で笑う声がした。白雪姫の護衛として、あの猟師が来ているらしい。何でこの世界は猟師が普通に王妃やら姫と関わってるの。アットホームな職場ってこと? 意味がわかんないわ。


 正直、不安なところもあるけれど、魔法の鏡には護衛は猟師のままでいいと言われたから、大人しく従っておこう。猟師には最初に失言を聞かれているから、何かあったら仕留められちゃいそうだし。「命大事に」で行きたいよね。



 ***



「さあ今日のおやつは、アップルパイですよ。白雪ちゃんの紅茶は、アップルパイが甘いから、今日はお砂糖を少なめに入れてもらいましょうか」


 私の言葉に彼女が目を丸くする。


「おかあさまは、どうしてわたくしの好きなものを知っているの?」

「それはね、可愛いあなたのことが大好きだからよ」

「えへへへ」


 照れる白雪ちゃんを見ていると、あきれたようなツッコミが入った。


「どこかの童話の狼のような台詞はやめていただけますか」

「当然のように会話に入ってくるのもやめてね」


 話しかけていないのに自分への会話だと認識するところが、魔法の鏡は人工知能によく似ている。AIは異世界でもやっぱり結構面倒くさい。


「音声だけが嫌なのなら、姿を見せると言っているでしょう」

「前回見せてくれた超絶イケメンモードのこと? やめて」

「おじさまのお顔が見られるの? わあい」

「お兄さんじゃなくておじさんとかウケる。でもね白雪ちゃん、顔だけ男に騙されちゃダメよ」


 魔法の鏡は、画像生成AIとしての要素も持っているみたい。高性能なところは尊敬しているけれど、正直勘弁してほしかった。


 あの顔は、異世界流の化粧を諦め、ほぼすっぴんとなった自分には辛すぎる。女としての自信を失ったらどうしてくれる。


 完成度はさすがの一言だったけどね。とはいえ至近距離の美形は心臓に悪いので、音声データだけでこれからもよろしくお願いします。


「白雪姫さま。不自由はされていらっしゃいませんか?」

「最近のおかあさまは、前と違ってちょっとおっちょこちょいだけれど、たくさん遊んでくれるの。楽しくて大好きよ」

「それはようございました」


 魔法の鏡は、白雪姫にはめちゃくちゃ優しい。扱いの差が泣けるよね。何回か抗議したことはあるけれど、差別ではなく区別とか言ってくるし。はあ、マジで異世界転生って辛いわ。


「あのね、白雪ちゃん。優しい言葉をかけてくるひとを簡単に信用してはダメよ」

「何かわたしに言いたいことでも?」

「いや、別に?」


 私は鏡から目をそらす。だってさあ、ぶっちゃけ怪しいでしょ。原理もよくわからないし、鏡の中に人間が入っているかもしれないじゃん。普通は信じちゃダメでしょ。私は他に知り合いがいないから、信じるしかないけどさ!


「知らないひとに物をもらっちゃダメよ。綺麗な櫛とか、可愛い組紐とか。あと、美味しそうなりんごとかもね!」

「彼女は、あなたと違って物に釣られませんよ」

「白雪ちゃんはいい子だから、断りきれずに受け取っちゃうかもしれないでしょ。だからこういう注意は何度だってしていいの!」

「おかあさまとおじさまって、仲良しなのね! まるで本当の家族みたい」


 いや、本来の結婚相手とは輿入れして以来一度も会えていないからね。でも、笑っている白雪姫は可愛いし、まんざらでもなさそうな鏡の反応が面白かったから、やっぱりこれで良かったのかもしれない。



 ***



 とはいえ、気がかりなことはいくつかある。家庭教師とのお勉強に戻って行った白雪ちゃんを見送り、行儀悪くテーブルに頬杖をついた。山のように積み上げられた釣書を見ながら、ため息を吐く。そう、ひとつは婚約者の件だ。


「白雪姫って一人娘でしょ。どうして婚約者がいないの。女王になるなら、それこそ王配はまともな人間を選ばないとまずいっていうのに」

「それはわたしの口からはなんとも。候補者ということであれば、隣国の王子はいかがですか」

「隣国の王子かあ」


 思わず出た渋い声に、魔法の鏡は不思議そうだ。


「何かご不満な点でも? あなたが知る未来では、危機に陥った白雪姫を助けにくるのは彼なのでしょう。ちょうど良いのでは?」

「そうなんだけどさあ。あの王子さまって、りんごを喉に詰まらせて死にかけていた白雪姫にキスするんだよね。結果として美談にはなるけれど、死体に一目惚れしてキスするタイプの王子さまとか気持ち悪くない?」

「まあ、確かに」

「可愛い白雪ちゃんを変態に嫁がせるのは嫌だよ」


 真剣な顔で訴えれば、魔法の鏡はちょっと笑ったみたいだった。


「はあ、わかりましたよ。周辺の王族の情報を出せばいいんですね?」

「国とかの利益も大事だけど、やっぱり白雪ちゃんが幸せになることが一番だから。あ、でもあんまり弱小貴族はダメ。権力とお金はある程度持っていてほしい!」

「おや、愛さえあれば他には何もとはおっしゃらないのですね」

「愛なんかでお腹は膨れないじゃん。白雪ちゃんはきっとどんなに貧乏でも相手を大切にできる子だけれど、相手はそうとは限らないからね。困窮して暴力を振るったり、白雪ちゃんを売り飛ばしたりするかもしれない。やっぱり幸せな生活のためには、愛だけじゃなくって生活能力も大事だよ」

「……あなたもそういう理由で陛下に嫁がれたのですか?」

「ふふふ、私は貧乏くじを引いたのよ」


 残りの気がかりなことである国王陛下について言及されて、私は苦笑した。


 昔の記憶は他人の日記帳を読んでいるみたいで、ちょっと変な感じがする。


 亡き妻を愛し続ける国王に、前妻に良く似た絶世の美少女の継子。白い結婚で、愛人を得ることもかなわない。生まれるはずのない後継について周囲から詮索も受けるだろう。嫁ぐ前から針のむしろ決定だ。


「今の私にとっては白雪ちゃんはすごく大事な娘だし、魔法の鏡なんていう心強い友人もいて、結構幸せだよ。でも選べるなら、結婚はあなたみたいなひととしたかったな」

「……ゴマをすったところで何も出てきませんよ」

「あなたはそれだけ素敵だってこと。鏡の中から出てこれないのが残念ね」

「そんなことを呑気に言っていられるのも今のうちですよ」


 もしかして、今までの会話で何か地雷を踏んじゃったの? 嘘、どれよ。どれがNGだったの?


 ううう、バッドエンドは処刑ではなくそれなりの修道院への追放で勘弁してください。


「せめて地獄のタップダンスとかじゃない、安らかな死に方を希望します」

「何を馬鹿なことを言ってるんですか」


 呆れ果てた冷ややかな声。とりあえず涙目のまま、私は魔法の鏡に祈りを捧げた。



 ***



 それからかなりの時間が流れたけれど、結局私は国王陛下の顔すら見ることができないままだ。結婚式もなし、初夜もなし。政務はこなしているみたいだけれど、本当に存在しているのかさえ疑いたくなる。


「ねえ、なんで国王陛下って姿を現さないの?」

「母親気取りですか」

「はいはい、ごめんなさいね。でも、白雪ちゃんの環境は歪すぎるの。お金と権力だけじゃ幸せになれないわ」

「おや、先日はご自身がお金と権力が大事だとおっしゃっていたのに?」

「愛があってこそのお金と権力だから。それに想っているだけじゃ、自分の気持ちは伝わらないわ」


 私のことはまあいいとして、我が子である白雪姫との関係は見直さないとまずいと思う。


「国王陛下ってサイボーグかなんかなのかしら。娘がいるのに、話しかけることも一緒に食事をすることもない。そもそも執務室から滅多に出てこない。白雪姫がどうして私のそばにいてくれるのか不思議に思っていたのだけれど当然よね。少なくとも私なら、対話は可能なんだから」


 不敬を承知で魔法の鏡に相談しても、国王陛下が私や白雪ちゃんに時間を割いてくれることはなかった。


「はあ、もう我慢できないわ」


 これ以上、じっとしているなんて無理。耐えかねた私は、執務室を直撃することにした。最初からこうしていたらよかったのよね。黙って待っているなんて性に合わないわ。


「待ってください」

「問答無用!」


 どうせ鏡なんだから追いかけてこれないだろうし、まあいいでしょ。別室の鏡に意識を瞬間移動できるタイプだったときは、後から考えよう。


 陛下の執務室の両側には近衛騎士が立っている。もちろん私が乗り込んだところで扉を開けてもらうことはできない。でも私にはスーパーウェポンがあった。そう、白雪ちゃんだ。白雪ちゃんのお願いであれば、どんな場所でも通れてしまう。全然ダメじゃん。国王陛下を締め上げたら、改善要求を出そうっと。


「国王陛下に申し上げます」


 身分が下の者から話しかけてはいけないとか、知らんがな。やっぱり私の話を無視する国王陛下には、どこか違和感がある。


 コンビニの自動ドアが反応しなくてあたふたするような、お店の入り口でペッパーくんに自分だけスルーされたような妙ないたたまれなさ。それって、まさか?


「ねえ、どうして無視するの。あなたがそんなんだから、白雪姫は私に危害を加えられそうになっていたのよ! 自分の娘が心配じゃないの?」


 一か八か、大声で不審者情報を提示してやると、一瞬で国王陛下に拘束された。動きが人間の出しうるスピードを超えていて、単純に怖い。


「お前は 白雪の 敵か」

「っ!」

「答えろ」


 首を絞められていたら物理的に回答不可だってば。すみません、ちょっと揺さぶりをかけてやろうかなって考えたら、あっさりと命の危機なんですが。


 切り捨てごめんにされなくてよかった……よかったんだよね? この問答じゃ、助かりそうな要素が見つからないんだけど。


 しかしこれまたどうしたものかな。もしかしてこのまま首をこきってやられたら絶命しちゃう感じ? 考えなしで飛び込んだら、また違う形でバッドエンドになっちゃったみたい。


「おかあさま?」


 ああ、いけません。こんな教育的によくない場面は見せられない。大好きなお父さんのイメージを壊したくなんてないのに。


「おとうさま、やめて! おかあさまを虐めないで! おかあさまは、わたくしの大切な家族なんだから!」


 その瞬間、国王陛下から力が抜けた。握力設定、間違ってるよ。首をちぎっては投げちぎっては投げってされるところだったよ。本当に死ななくてよかった。でもこの一件でわかったこともある。


 このひと、人間じゃない。人形みたいなやつだと笑い飛ばしていたけれど、本当に人形だったなんて。白雪ちゃんの「やめて」という言葉が、機能を停止させるコマンドになっていたみたい。もうここまで来ると、笑うしかないや。


 じゃあ、魔法の鏡は人間だったりしてね。そんな馬鹿みたいなことを考えながら、魔法の呪文を唱えてみる。


「鏡よ、鏡よ、鏡さん。ねえ、ちょっと大変なことになっているんだけれど、手を貸してくれないかな」

「……ちょっと大変って。あなた、『ちょっと』の意味を理解していますか」

「わあん、()()()()、ごめんなさい。おとうさま、壊しちゃった」


 かつて魔法の鏡が見せてくれた生成画像と同じ姿をした男性が、三次元に存在していた。



 ***



 結局のところ、高性能チャットAIな魔法の鏡は存在していなくて、あそこにあったのは監視用のマジックミラーだったらしい。ひどい。ファンタジーに感動していた私の純心を返せ。


「じゃあ、記憶を取り戻す前の私が変なことを調べていたっていうのも嘘?」

「あれは大声でわめき散らしていた内容ですので」

「よくもまあ、生かしておいてくれましたね」

「まあ、もしも狩人に白雪姫の殺害命令を出していたら、それなりの対応をしていたと思いますが」

「それも全部知っているんですか」

「ええ。だって、狩人はわたしですし」


 どうりで狩人がいるときは、魔法の鏡が静かなわけだよ。


「魔法の鏡に狩人だなんて、大変だったわね」

「まあ一番の仕事は、国王代理だったのですが」

「もう少し役割分担しなよ! 仕事の抱え込みは良くないよ」

「記憶を取り戻す前のあなたが、何をやっていたかをよく思い出してからそういう口はきいてくださいね」

「すみません」


 あの自動人形は両親も祖父母も亡くした白雪ちゃんを守るために、国王陛下の遺言に基づいて作られたものらしい。声のサンプルもほとんど取れなかったため、会話には不向きだったのだとか。白雪ちゃんが今まで頑張ってきたぶん、これからいっぱい甘やかしてあげたいと思う。


「今さらですが、わたしと家族になってもらえませんか」

「あれだけ私のことをアホとか言っておいて?」

「本当にあなたというひとはうるさくて。起きていてもやかましいのに、寝ていても騒々しくて」

「もう少しオブラートに包め」

「でもそんな賑やかさに慣れてしまったら、ひとりでいるのが寂しくなりました。表舞台に立つなんてまっぴらごめんだったのですが、あなたのためにお金と権力も手に入れますのでどうか」

「そこを強調されても……」


 そ、そんな顔で私を見つめてきてもダメなんだからね! ごめん、二秒で陥落した。


 それから私は魔法の鏡もとい王弟のクレイグさまと結婚した。


 国王陛下が不治の病を患っていたことや、私と国王陛下は白い結婚であったこと、私を娶る王弟殿下が次期国王になることなど、嘘と真実を織りまぜながら、うまい具合に国民を納得させてみせたのだ。


 壊れた自動人形を使って、病でこの世を去っていたはずの国王陛下の葬儀まで出しちゃったんだから本当にすごい。


 さすが、魔法の鏡になりきる男は現実世界でもえげつないわ。


「まさかあなたが、魔法の鏡からの求婚をあんなに簡単に受け入れるとは思いもしませんでした」

「だって、あなたのひととなりはよくわかっていたし。あと、私の故郷では『AI』は『愛』に通じるものだから、これでめでたしめでたしってわけ」


 私が笑いかければ、不満そうにクレイグさまがため息を吐いた。


「……わたしに騎士の兜を意味もなく被せている状態で、めでたしめでたしなんて言われても納得できないのですか」

「だって、二次元でも緊張するのに、三次元とかヤバいし!」

「はあ。兜は肩が凝るんですよ。顔半分を隠す仮面か、目元の印象を変える片眼鏡をつけるので勘弁してもらえませんか」

「コロンビーナやらモノクルやら、単純にイケメン度が上がるからダメ、無理! 鼻血が出る」

「いい加減、手を繋ぐより先に進みたいんですが」

「おかあさまとおとうさまは、今日も仲良しね。わたくし、早く弟や妹がほしいわ」


 継母な私と魔法の鏡な旦那さまと、可愛い白雪姫は、王国でも有名な仲良し家族となり幸せに暮らしましたとさ。


 ちなみに、隣国の王子さまが婚期を逃して独身を貫いたらしいけど、それは私のせいじゃないってことでよろしくお願いします。

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バナークリックで、 『白蛇さまの花嫁は、奪われていた名前を取り戻し幸せな道を歩む~餌付けされて売り飛ばされると思っていたら、待っていたのは蕩けるような溺愛でした~』に飛びます。
2023年5月31日、一迅社さまより発売のアンソロジー『虐げられ乙女の幸せな嫁入り』2巻収録作品です。
何卒よろしくお願いいたします。
+注意+

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