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第三話 スカル

 ゴブリンの駐屯地は街道沿いに存在しながらも自然と一体化した巨大な洞穴どうけつで、大きな口を開けた入口は堂々としていながらも一見しただけでは風景と同化していて気が付かない者も多いだろう。

 隆起した地面の下に作られた空間はそのまま地中へと続いており、ロートスは迷いなく足を踏み入れる。

 壁際には立て掛けられた松明が点在しており、荷車や木箱といった人工物が壊れたものも含めて散乱している。

 ここがゴブリンに占拠される以前は採掘場であったことが容易に想像できた。

 武装したゴブリンファイターを手堅く仕留めながら最奥に進むとそこには一回り程大きなゴブリンが佇んでいる。

 クエストのイベントモンスターであるゴブリンは他のファイターと同じく武装しているが幾分か良い物を身に付けているように見える。

 じっと眼前のゴブリンの身形みなりを観察していると相手が口を開く。

「配下が騒がしかった原因はお前だな? 人間一人にやられるとは情けない」

 イベントモンスターという特殊な立場だからかゴブリンは人語を介して同胞を嘲った。

 初見で話すモンスターを目にした時は驚きと感心を覚えたロートスだが二回目ともなれば心が動かされることもない。

 筋書きを知る彼もゴブリンに倣って口を開く。

「スカルの側近だよね? とっとと終わらせようか」

「笑わせてくれるぜ、人間風情がこのリデル様に勝つつもりとはな!」

 同時に地を駆け、互いの剣が交差する。

 剣戟は幾合と続き、鉄がぶつかり合う甲高い音が洞穴内に反響する。

 剣が衝突する度に火花が散り、徐々に武器の耐久度を減らしていくが主導権を握っているのは常にロートスだった。

 少しずつ斬撃がリデルの体を傷付けていき、攻撃が命中する度にその勢いは増していった。

 為す術なく刻々とHPを減らしていったリデルは胴体を斬られて後退りをすると「ま、待ってくれ!」と恐怖を滲ませた声で言う。

「あんた、俺たちを嗅ぎ回ってる人間の仲間だろ⁉ 俺を見逃してくれたらスカルの情報をやる! だから命だけは勘弁してくれ!」

 リデルはボスであるスカルの悪口を交えつつ、その隠れ家をロートスに教えると粒子となって体を霧散させた。

 それを見送り、西部軍事キャンプに戻ったロートスはクリフトンにクエスト達成報告をしていた。

「我々も何度か調査には赴いていたが、まさかリデルが現れるとは……。スカルの拠点捜索と並行して洞穴内の再調査も行う必要がありそうだ」

 ――此方こちらは部隊編成に時間が掛かる。君にはスカルの隠れ家へ先行してもらいたい。

 続け様にクリフトンはそう告げるとチェーンクエストの受注ウィンドウが開き、迷わずYESを選択して踵を返す。


 スカルの隠れ家だと教えられた場所は草原のど真ん中だった。

 所々に大岩が転がっているだけでそれらしい拠点は見当たらない。

 しかし、一帯をゴブリンが闊歩かっぽしている事からもゆかりのある地であるのは明らかだ。

 連戦は避けられず、これが始めたての初心者ならばイベント前に消耗させられてしまうだろうがロートスの足取りに迷いはない。

 一つの大岩に向けて悠々と歩みを進める。

 その大岩は自然に出来たように見えるが実際には入の字に近い形で更に大きな岩が蓋をして出来上がった人為的なものだった。

 子供が入れそうな隙間が空いており、その中から見張りのゴブリンが顔を覗かせている。

 目が合った見張りのゴブリンが大きく息を吸い込んで「グギャア!」と鳴いた。

 それを合図に丸で蟻が巣から出てくるようにワラワラとゴブリンたちが出入口から姿を見せる。

 イベントモンスターであるゴブリンに加え、リポップした通常のものも一度に相手取らなければいけないソロプレイヤー殺しのイベント。

 本来は他のプレイヤーとパーティを組む切っ掛けを与えるお試し会のようなクエストであり、ベータテスターであるロートスは当然内容を把握していた。

 それでも一人で敢行する理由はひとえに次の街に早く行きたいから。

 スタートダッシュしたとはいえロートスが誰よりも早くクエストを進めているわけではない。他にも同じクエストを受注してる者もいるだろうが従来のパソコンでやっていたMMOとは違い、リアルさも追及している〈ALO〉でのパーティの募集は不便なのだ。

 専用の掲示板で募集を掛けて希望者とコメント欄でやり取りして現地集合が一般的な方法だが、次点では最寄りの拠点で声出しという原始的な方法くらいしかない。

 ボタン一つで申請できた昔とは違い、メンバーが揃うまでに掛かる時間は無視できるものではなく、探す手間を考えれば一度は一人で挑戦しておいても損はなかった。

 手堅く一体ずつゴブリンを倒していき、時には二体の攻撃を防いで五分が経過した頃、大岩に亀裂が走り内側から弾けた。

 ゴブリンとは到底思えぬ巨躯が大岩の内側から飛び出してきたのだ。ロートスよりも頭四つは高い大柄な姿はボスと呼ぶに相応しいもので、頭には角が生えた獣の頭蓋を被り、大きな剣を手にしている。

 誰もが一目ひとめで分かる。その背丈に加え、特徴的な頭部の被り物から連想される髑髏――目の前の個体こそがスカルだと。

 地面に着地すると同時にスカルは咆哮を上げ、衝撃波が襲ってくる。

 風圧で体が押し出され、距離が離れていても僅かなダメージを負わされる。

 咆哮の後、スカルは敵を視界に収めるとトップスピードで駆けた。

 直線故に回避は難しくはないが、その巨体から繰り出される突進には全力の回避を強いられる。

 大きく横転するがスカルは目と鼻の先におり、既に剣を構えていた。そのまま草刈りでもするかのように薙いだ大剣を急いで避ける。

 前転でスカルの横を通って背後を剣で斬り付けるが当然ながらダメージは浅い。敵を追って振り向いたスカルの大剣を避けて攻撃の機会を窺うが、大振り故に攻撃の全てが範囲攻撃なので慎重にならざるを得なかった。

 隙を突いて僅かに攻撃を挟む、その繰り返しがじれったい。

 相手のテンポをリセットする為にも剣の間合いから外れる必要がある。

(けど中近距離は相手の間合いだし、後ろに下がっても詰められるだけ――)

 ――だったら!

 相手の大振りを再び前転で避けて、同様にスカルが横薙ぎのモーションに入ろうと振り向くタイミングに合わせて動く。

 動きを強制されるスキルは使わず、常に背後を取るように意識しながら戦う。

 通常攻撃では僅かなダメージしか入らないが安全に立ち回ることで確実に相手のHPを削っていく。

 幾らクエストボスのステータスが高く設定されていようとも、所詮はプログラミングされた動きを行うだけの存在。

 時間は掛かってもまれば格段に難易度が下がる。

 この戦略はゲーマーとしての経験が無意識的に発揮されただけで特別ロートスが知恵者だったからとかではない。

 単なる偶然に過ぎないが、それでも自分よりも遥かに体格の優れた相手の攻撃を掻い潜りながら戦う胆力は未熟な初心者プレイヤーたちとは一線を画する技量と言えた。

 着実に削っていったHPバーが半分を切ったところでスカルの体から黒いもやのようなものが溢れ出し、その姿が徐々に包まれて見えなくなっていく。

「アンガーモード⁉ 仕様変わってるじゃん!」

 まだ先の話となるが、これはフィールドボス特有の状態でHPが一定値まで減ると発動する第二段階だ。

 ボスの体から黒い靄が漂うのが特徴でステータスが大幅に向上する。

「グギャアアアアア‼」

 二度目の咆哮。

 スカルの体を覆い尽くす程の濃い靄が、丸で卵の殻を破るかのように内側から弾けた。

 暴風がロートスを襲い、強制的にノックバック状態となって跳ね飛ばされる。

 その怒りに満ちた叫びが衝撃波となり、身動きが取れないロートスを水切りの石のように何度も弾き飛ばした。

 エアースマッシュ――<ALO>に存在する状態異常の一つでその名の通り空中に浮いている間に攻撃するとボーナスダメージが発生するCCチェーンが前提にあるシステムだ。

 発動させること自体が難しい点から当たれば百パーセント発動する仕様で、それを自然と発生させてしまうスカルはかなりの強化を施されていた。

 絶対にソロではクリアさせない、そんな運営側の意図が見え隠れしている。

 断続的に減少するHPが残り三割で止まったのを視界の隅で確認して起き上がろうとした刹那、頭上に大きな影が差した。

 あまりにも不自然な現象。戦闘中という事もあって嫌な予感がぎる。

 不安の正体を確認するまでもなく、ロートスは即座に駆け出した。

 直後、先程までいた地点に巨大な黒い塊が降ってきた。

 大地を抉る轟音と落下の衝撃が体を伝い、ロートスが目にしたのは拳を地面に打ち付けるスカルだった。

 エアースマッシュを受けて動けない自分に飛び掛かってきたのだろう。

 HP残量からして命中してたら確実に殺されていた。

 眼前の光景に今更ながら冷や汗が垂れるが、それでも臆することなくスカルとの距離を詰める。

 大技を放った際に発生する僅かなディレイタイム。数秒といえど一撃を放つには十分な時間だった。

「――<スピンスラッシュ>!」

 両手で持った剣を回転の遠心力を利用して放つそれは右上から斜めに振り下ろされた。

 今ロートスが覚えているスキルの中で最も強力なスキルであり、クリティカル率百パーセントを誇る大技だ。

 これがワールドボスであれば焼け石に水だったであろう攻撃も、所詮はクエスト用に調整された理論的にはソロでも倒せる相手。

 如何に高いステータスを備えていようがそれには限度があり、事実ロートスの一撃でHPは大きく削れていた。

 ディレイが解けたスカルが動き出し、再び間近で相対するが今度は後手に回るような事はしない。

 相手の大振りの横薙ぎを最小限の動きで避けて懐へ入り、刺突の構えを取る。

「<ピアース>!」

 剣先から直線状に放出された剣気がスカルの胸を穿ち、HPの尽きた体が粒子となって消滅した。

≪ステータス≫

ロートス Lv.13


【片手剣スキル】

グラウンドスライス[Lv.1]、スラッシュ[Lv.1]、スピンスラッシュ[Lv.1]、ピアース[Lv.1]


【盾スキル】

シールドストライク[Lv.1]、突進突き[Lv.1]、ボイドシールド[Lv.1]、防御態勢[Lv.1]


【コモンスキル】

レザーマスタリー[Lv.1]、スプリント[Lv.1]

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