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西部軍事キャンプ

 テンピオ村を出たロートスは街道を東進し、エクレール川口に架けられた橋を渡った。

 エクレール川口とは、ドゥーミン川の水源地から始まった川筋がエクレール海へと結ばれる場所だ。

 川と海岸が面した場所であるため、天気の変化が激しく、霧が発生することも間々ある。

 また、川に面した豊かな土地であるため、ゴブリンが大きな集落を作っていた。

 街道付近のゴブリンを間引きながら南南東にある西部軍事キャンプへと向かう。

 エクレール東部の治安維持のために建てられた場所でゴブリンと南の山賊を牽制している。

 西部軍事キャンプは木の柵で囲われ、外周は塹壕ざんごうが掘られている。

 逆茂木さかもぎと呼ばれる先端を尖らせた木の杭を外側へ向けたバリケードがキャンプ地の出入り口付近に設置されていた。

 草原には侵攻したゴブリンが押し寄せ、NPCノンプレイヤーキャラクターの兵士と一進一退の攻防を繰り広げている。

 肉眼で門を視認できる距離まで接近したロートスは街道の隅に横転した馬車と、それを守るように武器を構えた兵士がゴブリンと対峙しているのを目にする。 

 女性兵士の頭上にクエストマークが表示されているのを確認した彼は助太刀を申し出る。

「加勢します!」

 護衛は女性兵士を除いて男性が三人おり、彼らと協力してゴブリンを討伐した。

 一体一体は弱いがゴブリンは数が多く、群れとなり押し寄せると甚大な被害を及ぼす。既に交戦しているゴブリンだけを相手取り、不要な戦闘は避けることで消耗を抑えた。

「助けていただき、ありがとうございます。私は西部軍事キャンプの将校でフィニアと申します」

「冒険者のロートスです。他に手伝うことはありますか?」

「ええ。実は積荷をゴブリンに奪われてしまいまして……。冒険者さんのお力で荷物を取り返してくださいませんか?」

「わかりました」

 単独で行動しているゴブリンを中心に討伐し、同時に相手をするのは二体までとした。序盤は金銭的余裕がなく、ロートスは節約のためにポーションを購入していない。デスペナルティを回避するには安全マージンを図る必要があった。

 デスペナルティは戦闘経験値の二パーセントと装備品のエンチャント消失が主となる。その他にもストレージ内のアイテムをランダムにドロップや貿易品の破壊がある。

 まだ序盤ということもあり、仮に死亡しても損失は微々たるものだが戦闘経験値の消失は時間を無駄にするのと同義でもある。

 慎重に立ち回るべきだろう。


「荷物を集め終わりました」

「ありがとうございます。馬車は壊れてしまいましたが、お陰で荷物は全て取り戻せました!」

 ストレージから梱包された荷物を五つ取り出してフィニアの前に並べた。

 序盤のクエストアイテムなのでドロップ率は高く設定されている。そのため、十体のゴブリンを討伐したところで依頼を達成した。

「御者の荷物を取り返してくれてありがとう。もう一つだけ頼んでもいいか?」

「まだ困り事が?」

 フィニアからのクエストを完了すると、大男の兵士からチェーンクエストが発生した。

「ああ。あそこに見えるゴブリンの護符を破壊してくれないか? あれはゴブリンたちの力を上昇させるもので、破壊できればゴブリンたちを討伐するのがもっと楽になるんだ」

 兵士が指を差す方角には木の棒を十字に結んだものが地面に突き刺さっている。十字架の左右には動物の毛皮が掛けられ、中央の突き出ている先端からは動物の頭蓋骨がぶら下がっていた。これはゴブリンを脅かす敵を追い払い、自分たちに力を吹き込む呪術的な意味合いを持っている。

「いいですよ」

 クエストの内容はゴブリンの護符を三つ破壊すること。

 ゴブリンの護符は辛うじて目視できる距離にはあるが草原内に突き刺さっており、街道付近で小競り合いをしているNPCを利用することはできない。

 また、複数のゴブリンがオブジェクトを警護しており、戦闘は避けられない。道中も交戦する必要があり、連戦を強いられた。

 敵陣の真っ只中で休む暇など与えられず、立ち止まれば即座に取り囲まれてしまう。

「退け!」

 ゴブリンを突き除けてロートスは前へ進む。モンスターを倒せば経験値やドロップアイテムを獲得できるが、代わりに足を止めて戦わざるを得ない。一対多の現状では悪手であった。

「≪スラッシュ≫!」

 一つ目の護符を破壊する。周囲をキョロキョロと見回して進路を変更する。

 彼の後に続くように、無数のゴブリンが列を成していた。これは『モンスタートレイン』と呼ばれる迷惑行為であり、他のプレイヤーからは反感を買う行いだ。

 しかし、幸いなことに草原にいるプレイヤーは少なく、ターゲットが被らないように各々が自ら定めたテリトリーの内で戦闘を行っているのでMPKモンスタープレイヤーキルが起こることはない。ロートスが彼らのテリトリーを侵害しない限りは咎められる心配はない。

「うおおおおおおおお!」

 二つ、三つと続けてゴブリンの護符を破壊してクエスト内容を達成する。そのまま街道沿いで戦っているNPCの兵士たちの下へと進んでいく。

 とても一人で捌き切れる数ではなく、トレイン状になったゴブリンを兵士に押し付ける算段だ。

「な!? モンスターの大群が来るぞ! 構えろ!」

「あの小僧……! なんてことしてくれやがる!」

「少しの間お願いします!」

 兵士たちの間を通り抜けて十分に距離を取る。

 地面に剣を突き刺し、そのまま両手を柄頭に被せて全体重を預ける。

「……ぜー、はー……ぜー、はー……」

 このゲームにはスタミナというシステムがあり、走行限界が各自に定められている。

 スタミナが限界に近づくと現実同様に疲労感と息切れを起こす。これが今の彼が陥ってる状態であり、安静にしていれば徐々に回復していく。

 また、スタミナのレベルを上げることで持久力の限界値を延ばすことができる。レベルを上げる条件は単純で、走るだけで経験値が貯まっていく。

「……ふぅー。よし!」

 呼吸を整え、杖のようにして体を支えていた剣を地面から引き抜いた。

「ご迷惑をお掛けしましたー!」

「……ったく、本当だぜ」

「早く手伝ってくれ!」

 戦場に戻ったロートスは兵士の行動に合わせて剣を振るい、的確に経験値とドロップの権利をかすめ取っていった。

 粗方のゴブリンを討伐して依頼者の下へと向かう。

「終わりました」

「ありがとう、助かったよ。でも、危ない行動は控えてくれよ」

「あはは……」

 非常識なロートスの行動を兵士は咎めた。それを彼は笑って誤魔化す。

「私たちは軍事キャンプへ帰還します。お礼がしたいので後ほど作戦司令部にお越しください!」

 兵士の言葉を引き継いだフィニアに「わかりました」とロートスは頷く。

 塹壕ざんごうに架けられた橋を渡ってロートスは西部軍事キャンプに足を運ぶ。

 内部は外周と同じく木柵で隔壁が作られており、あちこちに天幕が張ってある。

 一際大きな緑色の天幕へ入る。中央には大きなテーブルが置かれており、数名の兵士が囲んでいた。机の上には燭台と水差し、そして地図や本が散乱している。兵士の中には先ほど別れたフィニアの姿もあった。

「フィニアさん!」

「あ、いらっしゃったんですね! 本当にありがとうございました」

「君がフィニアの言っていた冒険者だな? 私はこの西部軍事キャンプを任されているクリフトンだ。部下が世話になった。これが今回の報酬だ」

 クエスト達成の報酬としてロートスは戦闘経験値とスキル経験値、そして幾許いくばくかのゴールドを受け取った。

 経験値には戦闘とスキルの二種類があり、レベルアップしたからといってスキルポイントが増えることはない。レベルアップの恩恵はステータスの上昇だけであり、スキルは戦闘を重ねてポイントの経験値を個別に貯める必要がある。

 ゴールドとはゲーム内通貨の名称で、NPCやプレイヤーとの売買で使われるものだ。

「さて、ここからが本題だ。丁度作戦を誰に任せるか議論していたんだよ。迫りくるゴブリンの攻勢を相手にして、奴らの親玉であるスカルを撃退することができる実力者を。将校フィニアは君を積極的に推薦していたが……どうだ? この重要な役割を果たす自信はあるか?」

「もちろん」

「……良いだろう。しかし、準備はしっかりしろよ。鍛冶屋のミグルのところに行って防具を調達するといい」

 作戦司令部を出て、商業区画へとロートスは向かった。

 商業区画には武器商人と鍛冶屋、材料商人の三人のNPCがそれぞれ天幕を構えている。

「すみません。クリフトン隊長に言われてきた冒険者のロートスなんですが……」

「おう、話は聞いてるぜ。防具は『クロース』、『レザー』、『プレート』の三種類がある。好きなのを受け取ってくれ」

 クロースは物理防御力が低い反面、魔法防御力に秀でている。反対にプレートは物理防御力が高く、魔法防御力が極端に劣る。レザーは防御力に偏りがない代わりに特化した防具と比べると数値が低く設定されている。

 魔法で攻撃を行う相手がいない現状ではプレートが最適解であると思われるが、スキルによって防具を同じ種類で統一することで追加効果が与えられる。

 クロースは魔法攻撃力と詠唱速度を上昇させ、プレートは物理攻撃力と体力を上昇させる。そしてレザーは攻撃速度とクリティカル率を上昇させる。

 主に魔術師や僧侶がクロースを装備し、一撃を重視する者や味方を守る重戦士がプレートを装着する。最後にレザーは速度や手数に優れる軽戦士が装着するものとなっている。

「レザーで!」

「ほらよ!」

 レザー装備とは動物の皮を素材とした軽い鎧だ。動きやすさを重視しているので軽量化のために人体の急所のみを守る作りとなっている。

「俺がやった鎧はどうだ?」

「ええ、悪くないです」

 装備の具合を確かめてロートスは返答した。

 彼の装いは鉢金はちがねと胸当て、前腕を覆う指抜きのレザーグローブに脚絆きゃはんとなっている。

「そうか! もっといい装備が欲しかったらいつでも来い。もちろん、ただというわけにはいかないけどな!」

 ハハハ、と一頻ひとしきりミグルは笑うと続けて発言する。

「……さて! あそこでフィニアが待っているぞ。行ってやれ」

 区画を隔てる木柵の出入り口付近にフィニアが佇んでいた。ロートスは彼女の下に小走りで近づいた。

「防具は受け取れたようですね。スカルを誘き出すには、まずゴブリンファイターを退治しなければなりません」

「はい」

「ゴブリンファイターは貴方が今まで相手してきたゴブリンよりも強敵です。ですが、奴らはスカルの配下なので倒すことで手がかりが得られると思います」

 彼女の言葉にロートスは黙って頷いた。

「奴らはキャンプ地の北側に駐屯地を構えています。我らの命運は貴方に懸かっています。ご武運を」

≪ステータス≫

ロートス Lv.5


【片手剣マスタリー】

スラッシュ[Lv.1]


【盾マスタリー】

シールドストライク[Lv.1]、防御態勢[Lv.1]


【コモンスキル】

レザーマスタリー[Lv.1]、スプリント[Lv.1]

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