7-5:ルヴィとパプリカのデュエット②
ルヴィがヴァイオレッド目掛けて走り込む!
そのルヴィに対し、”マギコード”を詠唱するヴァイオレッド!
右腕に、"VERDIGRIS"から発した”マギコード”の構文が収束し、灼熱を凝縮した"光弾"を形成する!
単調な攻撃だが、"VERDIGRIS"の魔力が上乗せされた光弾を浴びれば唯では済まない。増してや、もはやパプリカの魔法障壁も期待出来ないのだ。
左手に”光爪”を構成し――地面を滑らせる様に腕を振るう!
発生した五重の斬撃が、石畳ごと岩盤を砕いてヴァイオレッドに突進して行く!
「隙だらけですね!」
ヴァイオレッドの撃ち出した"光弾"が、”光爪”の隙間を狙って飛び込む!
しかし――――!
「弾けろッ!」
叫ぶとともに、指を打ち鳴らし――”光爪”の構成文の一部を解除する!
”光爪”はかたちを失い――高熱を帯びた光の奔流となって膨れ上がった!
「何ですってッ!?」
驚愕するヴァイオレッド!
彼女の眼前で、破裂した”光爪”の光に、"光弾"は飲み込まれ――
――暴発する!
爆心が一瞬レンズの様に歪み――眼をくらます閃光と衝撃が、放射状に広がる!
「甘いですねッ!」
爆風が届く寸前、ヴァイオレッドは眼前で腕を組み、魔法障壁を編み上げた!
爆炎の渦に飲み込まれる寸前、彼女の姿が光の繭に包み込まれて行く!
――だが、それは計算済み!
火炎が収まり、魔法障壁に身を包んだヴァイオレッドの姿が現れる。
"VERDIGRIS"の魔力で創られた青白い魔法障壁は、爆圧をものともしていない!
「どこへ行きました!?」
姿の見えなくなったルヴィを、頭を振って捜す。
探し物は――上だ!
未だ晴れぬ煙幕に半身を委ねたヴァイオレッドの頭上に、ルヴィは爆圧に乗って飛び上がっていた!
大きな身振りで少女の姿を捜すヴァイオレッドの姿に、ルヴィの影が重なる!
「上ですかッ!?」
こちらを見上げるヴァイオレッドの顔面を――タイミングを合わせたルヴィの蹴足が襲う!
蹴りは、魔法障壁を無抵抗ですり抜ける!
――――が!
寸前で左腕を上げ、顔に蹴りが入るのを防ぐヴァイオレッド!
「今だっ!」
ルヴィの合図とともに、巻き上がる煙から――パプリカが低い姿勢で飛び出す!
「何ッ!?」
折れて鋭利に尖った錫杖が、ヴァイオレッドの脇腹に刺突される!
鈍い音ともに、女隊長の腹に錫杖が突き刺さった!
呻き声を上げ姿勢を崩すヴァイオレッド。だが――!
空いた右腕で腰の片手剣を器用に抜き放ち――パプリカ目掛けて一閃!
鋭い剣閃が、パプリカの右腕を手の甲から肘までばっさりと斬り裂く!
「ぎゃああ……ッ!」
斬り裂かれた右腕から真っ赤な肉を覗かせ、パプリカの絶叫が響き渡る!
「パプリカっ!?」
蹴りの反動を利して着地したルヴィは、地面に膝をついたパプリカを見やる。
左手で、ヴァイオレッドの右腕を掴み、何とか上半身を起こしているパプリカ。その左手も、"魔装甲手"の高熱を帯びた"VERDIGRIS"を掴んで煙を噴き上げる!
肉の焦げる臭いが、辺りに立ち込めて行く。
「自分はこれでも戦士です。魔法による遠距離戦は元より、接近戦ではなおの事、お前たちに勝ち目はなかったですね」
ヴァイオレッドが冷めた目でパプリカを見下ろす。
左手に持ち替えた片手剣の切っ先を冷静にパプリカの額に突き付ける!
ゆっくりと顔を上げるパプリカ。
眼前に突き付けられた片手剣のきっさきを凝視し――笑う!
「あっそ! 悪いけど、わたしは最初から魔法で闘うつもりだったわよ!」
「魔法ですって……!? 今の貴様にどうやって――――」
表情を引き攣らせるヴァイオレッド。
傍にいたヴァイオレッドよりも、耳の良いルヴィの方が聞き取っていた様だ。
パプリカの詠唱する"マギコード"を!
パプリカが掴むヴァイオレッドの右腕。その"魔装甲手"にはめられた"VERDIGRIS"が、鋭い光を放つ!
「まさか! わたしの"VERDIGRIS"を利用するつもりですか!?」
パプリカの顔面を蹴り飛ばし、大きく飛び退く!
地面に叩き付けられたパプリカが、そのまま倒れて動かなくなる。
彼女の"VERDIGRIS"は――パプリカが離れてもなお、激しく、碧く輝きを増して行く!
「バカな! 術者が離れれば魔法の発動は止まる筈……!?
そもそも、魔導石は簡単に他者が使える物ではないのではないか!?」
「今のは――”破壊の言葉”だよ」
「何ですって!?」
既に、意識が混濁し動かなくなったパプリカに変わり、ルヴィが答える。
「パプリカは、アンタの"VERDIGRIS"のちからを消滅させたんだ。もうその"VERDIGRIS"は魔導石じゃない。唯の石ころだよ……!」
「バカな! 何故その女が、”破壊の言葉”を知っているのですか!?」
「さっき、アイオライド商会でガーネットの"VERDIGRIS"の”破壊の言葉”を調べた時に、リストの中にアンタの"VERDIGRIS"もあったみたい」
商品と使用者を紐づけした膨大なリストだったが……ヴァイオレッドの名前はすぐに見つかった。
なまじ、所持者が有名だった事が仇になった様だ。
"VERDIGRIS"に込められた魔力が次々と抜けて行き、次第にその光は弱まり、細く途切れて行く。
やがて、"VERDIGRIS"は輝きを失い――唯の宝石へと戻って行った。
「おのれッ!」
叫んだヴァイオレッドが、倒れたパプリカに走り寄る!
ぴくりとも動かないパプリカの首筋目掛けて、片手剣を振り被った!
首を斬り落とすつもりか!?
「させるかッ!」
ルヴィが、一足飛びにヴァイオレッドとパプリカのあいだに飛び込む!
指先に”光爪”を湛えた左腕を、ヴァイオレッドの首筋に突き付ける!
パプリカに向けられた片手剣の切っ先は――その首筋の寸前で止まっている。
睨み合うふたり。互いの顔に、大量の汗が浮かんだ。
「このわたくしが……こんな素人相手に命を掴まれるとは……っ!」
ヴァイオレッドが毒づく。
「剣を棄てて!」
ルヴィの声に従い、ヴァイオレッドは片手剣を投げ捨てる。乾いた金属音を響かせ、細身の剣が石畳の上を転がって行った。
優位を取ったルヴィは、それでも警戒心を解かずに”光爪”を突き付け続ける。
その彼女の長い耳が、ぴくりと動く!
「……!」
「貴女にも聞こえましたか?」
ヴァイオレッドもルヴィを見据えたまま、耳を澄ましている様だった。
街の向こう――広がる平原の彼方から、石畳を踏み鳴らす足音が近づいて来る。
それも、かなりの数が――!
「騒ぎを聞きつけて、わたくしの部下たちが行軍して来た様ですね」
ルヴィの心に、焦りが広がる。
公国軍に取り囲まれれば――もはや勝ち目はない!
いや、それ以前に……。
ルヴィは、地面に倒れたパプリカを見下ろした。
大量の血の海に沈んだ彼女の肌は――既に生気を失い、真っ白になりつつある。
「このままじゃ、パプリカが……!」




