7-4:ルヴィとパプリカのデュエット①
”光爪”がヴァイオレッドを襲う!
その目線が合った瞬間――ルヴィは警告も牽制もなく、全力を込めた五重の斬撃を叩き込んだ!
理由は単純。以前にヴォルフケイジ大双壁で相まみえた際、フェズとふたりがかりで手も足も出なかった相手だからだ。
だが、今回もその状況に変化はない。
完全な不意打ちだったにも関わらず、ヴァイオレッドが右腕に展開した"魔法障壁"で、”光爪”を消し飛ばす!
弾き飛ばされた光の爪が、石畳を抉り土埃を巻き上げる!
「まったく……警告なし雷撃たない方がいいって言ったのは誰かしら?」
粉塵を吸い込まない様に、ローブの裾で口元を覆いながらパプリカが冗談半分の口調で愚痴る。しかし、その眼は笑っていない。
ヴァイオレッドの軽装鎧の右腕には――緑青に輝く魔導石。
「パプリカ、気を付けて! あいつの"魔装甲手"の魔導石は”VERDIGRIS”だ!」
「見れば分かるわ!」
ヴォルフケイジ大双壁の戦いで、ルヴィの手によって粉々に砕かれた筈だが、新しく仕入れたのだろう。
新調した”VERDIGRIS”の性能に、満足げな笑みを浮かべ、ヴァイオレッドがルヴィを睨みつける。
「貴女は確か……ヴォルフケイジ大双壁でフェズが人狼領に還そうとしていた人狼族の娘ですね?
命の恩人に、随分な態度ではないですか?」
確かに、ルヴィはヴァイオレッドに助けられた。
あの時、彼女がいなければ、ルヴィはこの世にはいない。
だが、それとこれとは話が別である――!
「ごめんね! けど、今はロザリオさんを助ける事がルヴィの最優先なんだ!」
「なるほど。それが目的ですか……」
頷くと、ヴァイオレッドはきょろきょろと辺りを見回した。
「それで、肝心のフェズはどこですか? 貴女のいるところ、彼女の影もあると思っていたのですが……」
「知ってても教えないよ!」
まぁそうだろう、と言う眼差しを送ったヴァイオレッドが銀髪を掻き上げる。
「良いでしょう。フェズとの因縁もケリをつけたいところではありますが……ルヴィと言いましたね? 貴女を人狼領へ返還する事も、わたくしの任務です」
腰の片手剣は抜かず――"魔装甲手"をはめた右腕を振るう!
彼女が組み上げた”マギコード”は、ルヴィから見れば至ってシンプルな構成文。
何の捻りもない直線攻撃の"光弾"を生み出す安直なコードである。
やはり本業は剣士。そこまで複雑な”マギコード”は操れないのだろう。
しかし、"魔装甲手"にはめ込まれた”VERDIGRIS”を通じて放出されたその"光弾"は――見た事もない程、高密度の熱を湛えていた!
あまりの熱量に、周囲の景色さえ歪ませる"光弾"に、ルヴィの背筋が凍り付く!
「撃ッ!」
鋭い気勢とともにヴァイオレッドの右腕から放たれる碧い裂光の弾!
「わたしの後ろに入って!」
抱いていたロザリオをルヴィに押し付け、パプリカが錫杖を構える!
先端にはめ込まれた一対の魔導石が共鳴し――三人の眼前に巨大な”魔法障壁”を展開した!
光の繭が完成するのと同時に、ヴァイオレッドの放った"光弾"が、接触する!
眼を焼く閃光と、耳を貫く轟音が迸り、”魔法障壁”で護られていた筈のルヴィとパプリカが衝撃波で薙ぎ倒される!
「きゃああッ!?」
身体を何度も石畳に叩き付けられ、ルヴィは悲鳴を上げた!
「素晴らしい!」
ヴァイオレッドの感嘆の声に顔を上げると、ルヴィたちのいた場所に大きなクレーターが出来ている。もうもうと上がる煙と粉塵の向こうから、声の主が悠々と現れた。
その右腕の”VERDIGRIS”が緑青色に輝きを放つ。
その光に魅入られ、ルヴィは言葉を失った。
ある疑問が、彼女の脳裏を走る。
ヴェニッタの”VERDIGRIS”はガーネットの命を吸収し、それを魔力の源としていた。
まさか……!?
「まさか……その”VERDIGRIS”にも、誰かの魂が封じ込められているの!?」
妹以外にも、犠牲になった仲間がいるのか?
いや、それ以前に、自分はヴォルフケイジ大双壁で、ヴァイオレッドの”VERDIGRIS”を一度、破壊している。あれにも――――!?
想像して、寒気が走る。
しかし、ヴァイオレッドは首を振って否定した。
「その心配はありませんわ。生命をまるまる封じ込めたのは、あれが初めてだそうですよ。ヴェニッタの言葉を信じるならば、ですがね……」
その言葉に安堵するルヴィ。それならば――――
「それなら安心したわ。なら躊躇なくアンタの”VERDIGRIS”を破壊出来る!」
ルヴィの背後から響くパプリカの声。
ルヴィの視界に、パプリカが入って来る。
「パプリカ! 大丈夫!?」
クレーターからもうもうと立ち上る煙幕の向こうにいたパプリカ。その姿にルヴィは息を呑んだ。
紅いローブはボロボロに焼け焦げ、栗色の髪もぼさぼさに乱れている。その白い肌は砕けた石畳の破片がめり込み、至るところで皮膚が裂け、真っ赤な肉が露出している。
「大丈夫よ」
割れた眼鏡を投げ捨て、血を吐き捨てて、ルヴィに微笑みかける。
だが、身体を支える錫杖は、半ばから折れていた。
当然、先端に輝いていた魔導石も、跡形もなくなっている。
魔導石がなければ、人間は魔法が使えない!
「止めておきなさい」
ヴァイオレッドの牽制が響く。
「魔導石を失った貴女は、もはや唯の小娘。武力はおろか、魔力でさえこのわたくしに及ばなくなったのです。大人しく投降しなさい」
「魔導師の真髄は魔力じゃなくて知識よ?」
言いつつ、指をぽきぽき鳴らすパプリカ。
パプリカの態度に肩を竦めるヴァイオレッドを尻目に、彼女はルヴィに近寄って、耳打ちして来る。
こちらが何か小細工をして来ると考えたのだろう。
まあ、その通りなのだが……。
ヴァイオレッドの瞳に、警戒の光が灯る。
「……危険だよ、そんな作戦。パプリカだって今度”VERDIGRIS”の攻撃を受けたら……」
パプリカの危険な提案に彼女の身を案じたルヴィだったが――
「フェズと貴女の約束、わたしは絶対に守らせるわ」
――パプリカの言葉に、目を閉じて頷く。
「任せたわよ、相棒!」
ルヴィの肩を叩くと、パプリカが大きく後ろに飛び退いた!
「うん!」
パプリカの作戦を胸に秘め――ルヴィがヴァイオレッドに飛び掛かって行く!




