4-6:ルヴィの悲鳴
強い衝撃と、全身を襲う激痛に、ルヴィの意識が目覚める!
「きゃあッ!?」
視界が空転し、身体が何度も地面をバウンドして叩き付けられる!
酷い耳鳴りと眩暈に身体が支配され、しばらく地面の上でのたうつ。
平衡感覚が徐々に戻って来て――ようやくルヴィは頭を上げた。
そこは先ほどと同じ様な石造りの部屋。
”ハイパーゲート”の様だ。
だが、その”ハイパーゲート”は”転送陣”を中心に大きく亀裂が走り、もうもうと煙を上げている。壁に埋め込まれた魔導石は幸いにも無傷だが……。
自分が無理やり入ったせいで壊れてしまったのか!?
軋む身体に鞭打ち、立ち上がる。
やけに肌寒い。ここはどこだろうか?
「……人狼領の寒さに似てる」
「その通りだよ!」
唐突に聞こえた男の声――バリスの声に身構える!
”転送陣”の煙の向こうからバリスが姿を現す。
「まったく……何て事をしてくれたんだ!?」
壊れた”ハイパーゲート”を見上げ、表情を歪める。
「危うくオレもお前も粉々に吹っ飛ぶところだったぞ! おまけに”ハイパーゲート”はこの有様!
修復するのに幾らかかると思っているんだ!?」
やはり、”ハイパーゲート”を壊してしまったらしい。と、言う事は……
「……フェズたちが来れなくなったってこと!?」
ルヴィが青ざめて叫ぶ。
「その声は……バリスか!?」
開け放たれていた部屋の扉の向こうから、ヴェニッタの声が響く!
「”ハイパーゲート”が破壊されました! このクソガキのお陰で……ッ!」
「それよりも加勢しろ! 人狼族どもの攻撃を受けている!」
「!?」
聞こえて来たヴェニッタの悲痛な声に、ルヴィはバリスと顔を見合わせた!
「まさか……この隠し砦の存在がバレたのか!?」
慌てて、部屋を飛び出して行くバリス!
「ちょっと待って!」
追って部屋を飛び出すと、その先は無機質な赤茶色のレンガで組まれた通路が続く。くり貫かれた窓から激しく吹雪く灰色の空が見える。
見紛う筈もない。これはルヴィの見慣れた人狼領の空だ。
通路の先は左右に道が分かれ、横通路を無数の”光弾”が飛び交っている!
その手前の壁を盾に防御する数人の人間。ヴェニッタとその同志たちだろう。
そこにバリスも駆け寄って行く。
「どうやら、隠し砦の存在が人狼族どもに知られたらしい」
頭上をかすめて行く”光弾”を躱しながらヴェニッタが呻く。その腕にガーネットが抱き抱えられているのが見えた。
「ガーネットッ!」
叫ぶルヴィ!
「なんだ……あの小娘も着いて来たのか?」
こちらの姿を見てヴェニッタが忌々しそうに吐き捨てる。そのヴェニッタの頭上の壁に”光弾”が着弾して爆ぜた!
「くそ……! 今はあれに構っている余裕はない!
バリス、魔道石製造工廠まで強行突破するぞ! 援護しろ!」
「分かりました!」
バリスが”マギコード”を組み上げ、”魔法障壁”を造り出す!
他の魔導師たちも、それぞれ”魔法障壁”を造り出し、それを盾に三又通路の奥へと消えて行く。
「逃げるなッ!」
慌てて追おうと走り出したルヴィの眼前に、何十人もの人狼戦士たちが逆側の通路から現れる!
「!」
思わず足を止めるルヴィ!
数人がこちらに気付き、「何だアイツは!?」と叫んで近寄って来る。
どの人狼戦士も、鍛え抜かれた肉体を持つ、部族の戦士たちだ。分厚い皮の鎧と、手に長大な片刃刀を構えている。
ヴォルフケイジ大双壁での出来事が、頭をよぎる――!
「何だお前は!?」
ルヴィよりも二回りも大きい巨体を持つ男が迫って来る。
「ルヴィは……っ!」
「貴様、アデルとともに姿をくらました双子の片割れだな!?」
「ち……違うよッ!」
ルヴィの釈明に耳も貸さず、男は丸太の様な脚でルヴィの横っ面を蹴り倒す!
「ぎゃッ!」
途轍もない怪力で吹き飛ばされ、ルヴィの身体は”ハイパーゲート”の部屋まで転がった!
上体を起こし、口の中に感じた異物を吐き出す。
血とともに、白い歯が一本、石の床に転がった。
「な……何だこの部屋はッ!?」
ルヴィを追って”ハイパーゲート”に入って来た人狼戦士たちが狼狽える。
彼らは、人間の造った”ハイパーゲート”など初めて見るだろう。
「おのれ……神聖なるグーズグレイに、こんな禍々しいモノを造りおって!」
憎しみに満ちた表情で、”ハイパーゲート”を見回す人狼戦士たち。
足元に倒れていたルヴィのローブを掴み、その身体を軽々と持ち上げる。
「貴様もアデルとともに、人狼族を裏切ったのか?」
「違う……よっ!」
否定するが、この状況では信用してもらえまい。
「お前たち! そんなヤツに構っていないで人間たちを追い込むぞ!」
通路の奥から、別の声が響く。舌打ちして男はルヴィの身体を床に打ち捨てた。
「行くぞ!」
男が吠え、仲間を引き連れて”ハイパーゲート”から出て行く。
どうにか命までは奪われずに済んだか……!
床にへたり込んで、ほっと息を着く。
が――!
重い音が響き渡り――ルヴィの視界が暗闇に支配される!
「えっ!?」
顔を上げるが一寸先も見えない真っ暗闇となった”ハイパーゲート”の部屋。人狼戦士たちが、”ハイパーゲート”の鉄扉を閉じたのだ!
「ちょっと……ッ!!」
慌てて扉に近づき、ちからを込めて押すが――
――”魔導錠”で封じられた扉はびくともしない!
「嘘でしょッ! 出して……ッ! 出してよッ!!」
真っ暗な闇の中で、ルヴィは鉄扉を叩く!
だが、ルヴィの悲鳴など聞く耳持たず、扉の向こうの足音が遠ざかって行く……。彼女を助けようなどと考える者が、扉の向こうにいる訳がない。
ならば……ここから二度と出られない!?
脳裏に浮かぶ、赤い眼鏡の魔導師の顔。
「パプリカが”ハイパーゲート”を直せば、助けてくれるかも……!?」
一瞬頭に浮かんだ希望は、背後で無惨に崩壊した”ハイパーゲート”の惨状に打ち砕かれる。
『タンザナイト』本部の”転送陣”を修復出来たとしても、肝心のこちら側を直す術がない。
物音ひとつ聞こえない、何も見えない部屋の中でルヴィの心に恐怖が広がる!
「助けてッ! 助けてフェズ! 助けてよパプリカッ! パプリカッ!」
鉄扉にすがりつき、拳に血が滲む程殴りつける!
まったく歯が立たない鉄扉から、よろよろと距離を取るルヴィ。
自力ではどうにもならない事を悟る。
人狼領で、誰が彼女を助けてくれると言うのか?
パプリカの制止も聞かず、”ハイパーゲート”に飛び込んだ自分の軽率を呪う。
頬を涙が伝い、脚が震えて心臓の鼓動も早くなる。
恐怖で、少女の頭はいっぱいになった。
「ちくしょうッ!」
取り乱し、両手に”マギコード”を編み上げて、渾身の炎を鉄扉に叩きつける!
だが――頑丈なハイパーゲートの部屋は、その程度の攻撃では傷もつかない。
何度も、何度も繰り返すが、結果は同じだった。
ルヴィには思い至らなかった……。
密閉された空間で炎を放てば――限られた空気があっと言う間に消費されてしまう事に―――。




