4-5:ルヴィの闘い
ぱちん! とアデルが指を鳴らす。
一瞬の間をおいて――空間を裂き、漆黒の切れ目から、二体の”巨人”がずるりと姿を現す!
これは――『ゴーレム』!?
身の丈三メートルはある、焦げ茶色のボロボロのローブに白い仮面をつけた”巨人”。その額には碧い魔導石が煌々と輝いている。ローブの裾から下半身は生えておらず、空中を静止したままの上半身が無機質に漂っている。
「さあ、キミたちは”VERDIGRIS”の精製を急いでくれたまえ」
「分かった! 任せるぞアデル!」
頷いて、ヴェニッタが”ハイパーゲート”の光の中へ姿を消して行く!
「待ってくれ! ヴェニッタ様!」
叫んだのはフェズ。
”ハイパーゲート”の前で転送待ちをしているバリスの下へ駆け寄ろうとする。が――!
『ゴーレム』が振り下ろした拳に阻まれ、押し返される!
「くそッ!」
腰のダガーを抜いて、”マギコード”を組み立てる!
魔導石が紅い光を放ち、幾重もの光の糸が絡み合い、刀身を覆い尽くして紅刃を形成する!
「これならどうだッ!」
ダガーを逆手に構えて再び突進するフェズ!
『ゴーレム』が両腕を突き出し、その先端に”魔法障壁”を成す!
フェズの見慣れない術に警戒したのだろう。
だが――!
張り巡らされた”魔法障壁”をものともせず、振り抜いたダガーの刃が、『ゴーレム』の片腕を斬り飛ばす!
「ぐあッ!?」
濁った呻き声を上げた『ゴーレム』が、右腕を庇って床に崩れ落ちる!
「へえ……!」
大して驚いている様にも見えない表情で、アデルが感嘆の声を上げる。
この隙を逃す手はない!
ルヴィは、腰を屈めて跳躍し、背を丸めた『ゴーレム』の頭上を飛び越した!
左腕を振り上げ、その五指の先端に白熱の光を生み出す!
狙いは、バリス!
威力を抑えなければ、彼が抱えるガーネットを巻き込んでしまう!
左腕を振り被り、狙いを定める!
「斬り裂け! ”光……!」
「させないよッ!!」
地上でその行方を見守っていたアデルが無造作に、手にした杖を振り上げる。
先端から放たれた”衝撃雷”が――火花を散らしてルヴィの身体を絡めとった!
「きゃあああッ!?」
全身を駆け抜けた痛みに悲鳴を上げる!
ルヴィが生み出した”光爪”は、狙いを逸れてあらぬ方向に着弾する!
「ルヴィ!」
「不用意に前に出るんじゃないわよ!」
地面に叩きつけられたルヴィを心配するフェズの声と、非難の声を張り上げるパプリカ。
双方とも、『ゴーレム』との一対一を強いられている。
フェズのダガーを受けた『ゴーレム』は警戒し、二度とその攻撃を受けない様に注意を払いながら残った左腕で彼女を攻撃し――、パプリカの方は、元々戦闘向きではない為『ゴーレム』相手に防戦一方になっている。
まだ痺れて痙攣する身体に鞭を打ち、立ち上がる。
「ボクのところに帰って来てくれてうれしいよ」
「!?」
頭のすぐ上で聞こえたアデルの声に驚いて見上げれば、いつの間にか間近まで近づいていた人狼族の男!
その顔がルヴィの目の前にまで迫っていた!
「く……ッ!?」
慌てて間合いを取るルヴィの髪を、アデルが腕を伸ばして掴む!
赤い髪を引っ張られ、走った痛みに悲鳴が上がる。
「離せッ!」
髪を掴むアデルを引き離そうともがくが、少女の腕力ではまるで動かせない。
ふとアデルの背後を覗き見れば――既にガーネットの転送が始まり、残すはバリスのみとなっている。
「けど残念だ。キミの事は諦めていたから、妹の分の用意しかしてないんだよ」
髪を引っ張り上げて、ルヴィの顔を強引に持ち上げるアデル。
「ガーネットを……どうするつもりだッ!?」
「……?」
眉間にしわを寄せて睨むルヴィに、アデルがきょとんとした表情を返す。
「ああ、そうか! まだ、そこまでは調べがついていないんだね」
「アデル、つまらん話は止せ! 早くそいつらを始末しろ!」
背後から、バリスの叱責が飛ぶ。
見れば、間もなくガーネットが”ハイパーゲート”の光に消えるところだった!
ガーネットの転送が終わるまで数分程度だろう。
バリスが”ハイパーゲート”に逃げ込めば、追い付く事が出来なくなる!
「この……ッ!」
一瞬、意識がバリスの方へ向いたアデルの隙をついて――ルヴィは思い切り頭を引き抜いた!
ぶちぶちと音を立てて、髪の毛が引きちぎれる!
「あらら……、せっかくのキレイな髪が台無しだ」
手のひらに残ったルヴィの髪束と、千切れてボサボサになったルヴィの頭を交互に見やる。
「ま、これはこれで良い物をもらったよ」
言ってアデルは、髪を棄てるでもなく、その腕をローブの下に戻す。
「先に行くぞ、アデル!」
バリスが、光の中に姿を消そうとしている!
「ああ、すぐに追いつくよ!」
「逃がすかッ!」
叫んでルヴィは”マギコード”を組み上げる!
走り込むルヴィの軌道上に、阻止すべく立ちはだかるアデル!
「行かせないよッ!」
大きく振り被ったアデルの腕に、どす黒い闇が収束し――腕を突き出す動作とともに、撃ち出される!
闇は分裂し、幾重もの鋭い刃となって上下双方からルヴィに襲い掛かる! その様は、少女を嚙み砕かんとする闇の牙!
「こんなもの――!」
対するルヴィも左腕を払い、光爪”を撃ち放つ!
鋭い光の爪と闇の牙が交差し――牙は爪によって粉々に引き裂かれる!
単純な魔力の差勝負であれば、男は女には敵わない! 増してルヴィとアデルは同族だ。そこに種族の差も存在しない。
もちろん、アデルもそれは承知の上だろう。
迫りくる”光爪”を紙一重で躱――そうとするが!
「スキありッ!」
『ゴーレム』と闘っていたフェズが、不意打ちでアデルにダガーを投げ飛ばす!
「何ッ!?」
咄嗟に上半身をよじり、顔面目掛けて飛んで来たダガーを避けるアデル! だが、大きく姿勢を崩した彼に”光爪”を避ける術はない!
「アデル様!」
フェズと闘っていた『ゴーレム』が、残った左腕を伸ばしてアデルを庇う!
五発の”光爪”の内、四発がその腕に突き刺さり、残る一撃はアデルの焦げ茶色のローブを貫いた!
”光爪”はそのまま床に突き刺さり、アデルのローブを縫い留める!
「しまったッ!」
想定外に動きを封じられ、アデルが床につんのめる!
『ゴーレム』は”光爪”を受けて両腕を失い、アデルは体勢を崩している!
その背後で光り輝く”ハイパーゲート”への道筋がルヴィに開いた!
意を結して走り込む!
「くそッ!」
倒れ込みながら”衝撃雷”を乱射するアデル!
だが、元よりルヴィはアデルと闘う気などない!
狙いの甘いアデルの攻撃を躱し、バリスへ!
「何をやっているんだッ!?」
まんまとルヴィに出し抜かれたアデルに、バリスが非難の声を上げる。
慌てて”転送陣”の中に身を翻すバリス。
その姿が光の粒子となって消えて行く!
「逃がすかッ!」
精一杯腕を伸ばし――消え去るバリスのローブを掴む!
「ダメ! キャパオーバーよッ!」
響き渡った絶叫は、パプリカ!
だが――時既に遅く、バリスのローブを掴んだルヴィの身体が、もろとも光の粒子となって吹き飛ぶ!
”ハイパーゲート”の光が歪み、鋭い火花と眩い閃光が、周囲を包み込む!
今まで感じた事のない痛みが全身を走り抜け――ルヴィの視界は真っ白に染まった……!




