4-3:ルヴィの提案
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クラフトギルド『タンザナイト』。
「チャロ・アイア島東部の魔導石生産業を独占している組織よ。まあ、ライバル商会の頑張りもあって完全には実現出来ていないけれどね……!」
パプリカは、そう息巻く。
首都チャロ・アイアの目抜き通りの喫茶店。
通りが見える窓際に席を取り、オープンサンドをフェズと分け合って座るルヴィとフェズ。対面する席には、ジュースを飲むパプリカ。
三人が覗く視線の先には、ギルド『タンザナイト』の本部。
金にモノを言わせている事を、隠そうともしない絢爛豪華な佇まい。商業施設の建物と言うより貴族のお屋敷だ。
フェズが属していたアイオライド魔導石製造商会をトップに、大小様々な商会が集まり、組織している様だ。つまりは皆のものであるらしい。
フェズによれば、アイオライド商会の当主ヴェニッタは、会合と称して定期的にこの『タンザナイト』本部を訪れるとの事だ。予定通りであるならば――今日がその日であると言う。
「しっかし、考えたわね! ギルドの敷地内に魔導石製造工廠を隠すなんて。木を隠すなら森の中ってやつかしら?」
『タンザナイト』本部の建物を睨みながら、パプリカが歯ぎしりした。
パプリカが調べていた"VERDIGRIS"の製造工廠は――この『タンザナイト』本部の中にあるらしかった。
「ギルドの中に、プラントがあるのはダメなの?」
疑問に思った事を質問しただけだったが、そのルヴィに対してパプリカは頬杖を付いて苦笑いした。
「あら、アンタが話に入って来るなんて珍しいじゃない? 妹の事しか頭にないと思っていたわ」
皮肉った言い草にルヴィはムッとした表情をした。
何か言い返してやろうかと思ったが、それより早く隣のフェズが答えてくれる。
「ギルドって言うのは互助組織――わかり易く言うと、そこに属している人たちみんなのものって事だ。そこを、アイオライド商会の製造工廠が独占していたらズルいだろ?」
説明しながらフェズは、オープンサンドが残りひと欠片になった皿をルヴィの前に差し出す。それを受け取りながら更に問う。
「何でそんな面倒くさい事をするの? アイオライド商会の敷地に製造工廠があった方が早くない?」
「アイオライド商会を守る為よ」
今度は、パプリカが答える。
「アイオライドに製造工廠があれば、わたしの仕事はとっくに終わっているわ。――でも、こうやって手を組んで守られちゃ、そう簡単に情報を抜き取る事が出来ない。表向きはライバル同士ですって言ってる連中がアイオライド商会を守って、おカネを貰っているのね」
「スパイも褒められたモンじゃないけどな」
フェズの突っ込みにパプリカが半眼で睨みつける。
分かる様な分からない様な説明に頷きつつ、ルヴィは窓の外へ視線を戻した。
正直なところ、ギルドとアイオライド商会の関係性など興味はない。
ルヴィにとって重要なのは、ガーネットを無事に助け出す事だけだ。
だが、朝一番から張り込みを続けて既に数時間。
状況に変化はない。
「本当に今日来るのかな? アイオライドを逃げ出してから結構時間が経っちゃっているし、フェズたちにバレた事で予定を繰り上げたって事はないのかな?」
焦りからついつい語気が荒くなるルヴィの頭を、フェズが優しく撫でる。
「心配ないよ。何十社って言う商会が関わっているんだ。会合の日程なんてヴェニッタ様の一存じゃ変えられない」
そのフェズの言葉が終わるか終わらないかのタイミングだった。
「誰か来たよ!」
指についたソースを舐めながら――ルヴィは、窓の外を凝視した。
フェズとパプリカも、一斉に外を見やる。
大通りを行き交う雑踏から抜け出て『タンザナイト』の正面門前に姿を現したふたり組の男女。
ルヴィは見た事の無い顔ぶれだが――
フェズの顔を見上げて確認する。
「ヴェニッタ様とバリスだ!」
フェズが頷く。
彼女たちの目線の先にいる男女。
片や青い髪を短く整え、ピシッとした藍色のドレスを着込む眼鏡の女。アイオライド商会の当主は女だと聞いているので、彼女がヴェニッタだろう。
そして、付き従っている金髪の男がバリスだ。
アデルの姿は見当たらない。
流石に人目を避けて別行動か、それとも彼の役目はルヴィとガーネットをヴェニッタに引き渡して終わりだったのか?
このふたり以外に同行者はいない様である。
「……ガーネットは連れられてないみたい……」
ルヴィの落胆した声に、フェズが頭を撫でた。
「早まるなよ。人狼族の女の子なんて、目立つ方法で運ぶ筈がない。もう既に『タンザナイト』本部の中に連れ込まれているのかも知れないわ」
フェズの言葉に気を取り直して頷く。
『タンザナイト』の門の前で、守衛と思しきガラの悪い男たちとひとしきり談笑を交わし――ヴェニッタとバリスが本部の敷地へ入って行く。
そして、明らかに正面入口とは違う建物の裏手へと案内されて行った。
「さて――ターゲットを発見したところで――どうやって『タンザナイト』に入り込もうかしら?」
ぽきぽきと指を鳴らしてパプリカが、消えて行くふたりの後ろ姿を睨む。
「あたしの身分証じゃ、正面からしか入れないな」
フェズが"記録結晶"で身分証を投影する。
元アイオライド商会の魔導師であるフェズならば、ヴォルフケイジ大双壁に侵入した時と同じ様にその身分を利用する事が出来る。
だが、ヴェニッタが案内された裏手の方へは、正攻法で潜り込む事は難しい様だ。
「フェズ、この『タンザナイト』ってギルドも、ガーネットの誘拐に関わっていると思う?」
「どうかな? でもヴェニッタ様共々グルになっているのなら――関わっている可能性はあると思うよ」
ルヴィの問いに、答えてくれるフェズ。
逆に嘆息して呆れた視線をパプリカが送って来る。
「アンタは本当に妹の事しか考えられないのね? あんまり仕事の邪魔する様なら、レッドベリルに追い返すわよ?」
パプリカにベッと舌を出すルヴィ。
「違うもん。ちょっと思いついただけ」
「へえ、何を……?」
期待していなさそうな声をパプリカが上げる。
「あいつらがガーネットの事にも関わっているならさ――」
フェズの顔を笑顔で見上げる。
「――ここにいる人狼族の女の子を手土産に持って行けば――通してくれると思わない?」
ルヴィの言葉に――フェズとパプリカは、顔を見合わせた。




