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4-2:ルヴィの魔導石

「ここが、我がレッドベリル魔導石製造商会(ベンダーズ)製造工廠(プラント)だ」


 誇らしげに腕を広げ、マゼンダが目の前に建つ大きな建屋を指し示した。

 彼女が誇示(こじ)するレッドベリル商会の魔導石製造工廠(プラント)は、ルヴィたちが寝泊まりしてる本館の裏手にあり、地上と空中の渡り廊下によって連結されている。


 レッドベリル商会の建物は、その本館・製造工廠(プラント)を含めたすべての建屋が(そろ)いの赤煉瓦(レンガ)と赤茶色の屋根瓦で造られており、周囲を取り囲む青々とした森林と対照的な色合いを成している。


 そのレッドベリル商会の敷地は高台を切り開いた丘の上にあり、眼下には大きくカーブした街道に沿()う様に密集した街が広がっていた。

 フェズによれば、”企業城下町”と言うらしい。


 敷地の背後には一面の大海原が広がっている。

 海岸には、港が整備され、五(せき)の大きな船が停泊していた。レッドベリル商会の紋章が描かれた特徴的な(くれない)の帆が、海の青とコントラストを成している。

 他の国に荷物を運ぶ”貨物船”と言う船の様だ。


 マゼンダとパプリカに(うなが)され、ルヴィはフェズに手を引かれて製造工廠(プラント)内に入って行く。

「やっほー、フェズさん、ルヴィちゃん! おはよー!」

 製造ライン――と呼ばれる二階をまるまる吹き抜いたフロアに入ると、(すで)に聞き慣れた軽快な声が彼女たちを出迎えた。

 紅のローブを(まと)った黒髪の(むすめ)――アテナが元気よく手を振っている。

 その背後では、同じ格好(かつこう)をした女たちが忙しそうに働いている。(みな)、この商会に属する魔導師だろう。


「アテナ、少しルヴィを連れてラインをひと回りしてやってくれ」

「分かりました!」

 マゼンダに指示され、アテナがルヴィの手を引いて連れて行く。もっとも、フェズたちもその後を着いて来るのだが。


「ここが原石の濃縮ラインだよ。ここで原石を一度気化させて不純物を取り出すの。流石(さすが)に部屋の中は防護服着ないと入れないけどね」

 製造工廠(プラント)(すみ)に位置するガラス張りの部屋を指してアテナが説明してくれる。

「気化した原石は、温度を下げて溶解液に戻すの。温度管理された保管庫に数ヶ月置いておくと、高濃度の結晶体が出来(でき)上がって行くんだよ」

「?」

 スラスラと丁寧(ていねい)に説明してくれるアテナだが、ルヴィの理解は(すで)に追い付いていない。もっとも、それはアテナも分かっている様で、ルヴィの様な子ども相手にも手を抜かない気(づか)いを感じた。


 ()いでファセット・カット。

 結晶化した魔導石の表面を削り、形を整える。表面を磨き、(あら)を取ると極めて高い透明度と屈折率を持つ宝石となる。公国軍(グランドアーミー)に支給されている様な量産品は、この時点で形を整えられる。魔導師の女たちが、テーブルに向かって座り黙々と研磨機(グラインダー)でかたちを整えている。

 一方で、魔導を本業とする魔導師本人は、この段階で自分の好きな形にカットするらしい。

 フェズのダガーやパプリカの錫杖(ロツド)に埋め込まれた魔導石も、自前でカットしたものだと言う。


「本当に、ひとつ貰っちゃっていいのか?」

 ルヴィが見学しているテーブルの向こうで、フェズがマゼンダに聞いた。

 テーブルの上に無造作に散らばった色とりどりの魔導石を品定めしている。

 製造工廠(プラント)に来た目的はフェズの魔導石調達だ。彼女のダガーに埋め込まれていた(あお)い魔導石は、ヴォルフケイジ大双壁での闘いで、ヴァイオレッド隊長に打ち砕かれてしまった。

「高価なものでなければな」

 フェズの後ろでマゼンダが(うなず)く。

 これからパプリカと組んで仕事をするフェズが、丸腰では話にならないと言う事で、ひとつ譲って貰える事になったと言う。


 しばらく魔導石の山を(にら)んでいたフェズだが――

「どれがいいかな?」

 ――やおら顔を上げて、対面しているルヴィに聞いて来る。


「魔導石の事は、良く分からないけど……」

 話を振られて、ルヴィは色もかたちも様々な結晶体を(のぞ)き込む。

 彼女から見れば、キレイな宝石の山である。この宝石が持つ光の屈折の中に、魔力を通して魔法を編み上げるらしいが、その身ひとつで魔法が操れるルヴィにはピンと来ない話だ。


「目を閉じて、意識を集中してごらん」

 アテナの言葉に従って――ルヴィは目を閉じて、テーブル上の魔導石の山に意識を集中した。

 意識の暗闇で覗けば、魔導石は確かに魔力に呼応してぼんやりとした輝きを放つ。薄暗く目立たない青い光、不規則に明滅する緑の光。その中にひとつ、鋭く輝く紅い光を感じ取り――

 ルヴィは目を開けて、宝石の山の中からひと欠片(かけら)の魔導石を手に取る。

 彼女の瞳の様に深い赤と、規則正しい光の旋律を放つ様に感じる(・・・・・)魔導石。


「これなんかどうかな?」

 両手に乗せて差し出された魔導石を、フェズが笑顔で手に取る。彼女も魔導石を(ひたい)の前にかざして、目を閉じる。(わず)かなあいだ、意識を集中させる様子を見せ――

「これ、貰っていいかな?」

 ――マゼンダに魔導石を差し出した。


「ルヴィが選んだのならば仕方があるまい。後でアテナに加工させる」

 苦笑いして、マゼンダが頷く。

「ありがとう」

 魔導石を握り直して、フェズが頭を下げた。


 彼女たちのやり取りをにこにこと眺めていたアテナがフェズに歩み寄る。

「それじゃあ、フェズさんのダガーをお借りしていいですか?」

「頼めるかな?」

 アテナの厚意に甘えて、フェズはダガーを鞘ごとベルトから外す。

 刀身に埋め込まれた魔導石は真っ白にひび割れ、もはやまったく光を(とも)さない。


 その砕けた魔導石に手を当てて、フェズは最後の言葉を(つむ)ぎあげた。

 彼女の言葉に共鳴し、今度こそ碧い魔導石が硬い音を響かせて真っ二つ割れる!

「お願いね」

 差し出されたダガーを受け取り、頷くアテナ。

「はい! 任せて下さい!」


「何をしたの?」

 ルヴィの問いに、フェズが答える。

「"破壊の言葉(エンバーコード)"を流し込んだんだ」

 フェズが最後に流し込んだ"マギコード"は、"破壊の言葉(エンバーコード)"だと言う。

 魔導石を安全に廃棄する為に流し込む、文字通り最後の言葉らしい。すべての魔導石に必ず設定されるもので、この"破壊の言葉(エンバーコード)"が露見すると、如何(いか)に高品質な魔導石でも簡単に無効化されてしまうと言う。


「そろそろ先へ進むぞ」

 マゼンダに(うなが)され、製造工廠(プラント)の奥へと続く通路を進んで行く。

 先を歩くフェズの隣に小走りで駆け寄った。

「あたしの魔導石、選んでくれてありがとな?」

 ルヴィの髪を()でるフェズ。その彼女を見上げた。

「……もしかして、結構高い魔導石選んじゃった?」

「ルヴィは職人の才能あるかもな!」

 ケラケラと笑うフェズに照れ笑いする。

「……でも、魔導石って使う人との相性も大事(だいじ)なんじゃなかったっけ?

 ルヴィが良いって感じたもので大丈夫なの?」

「そこはあれだ。相性も大事(だいじ)だけど、選ぶ行程も大事って事さ!」

「?」


 疑問符を浮かべるルヴィの肩をアテナが叩く。

「それじゃあ、わたしは仕事に戻るね」

「うん! 案内してくれてありがとう!」

「またね!」

 通路に立ち止まり、手を振って見送るアテナ。


「アテナさんは来ないんだ?」

 特に誰に対して質問した訳ではなかったが、マゼンダが振り返って答える。

「ここから先は、責任者以外立入禁止だ」


 マゼンダが指し示した先には、大きな鉄扉(てつぴ)と、他の壁とは異なる強固な石材で守られた部屋。入口の横には"魔導錠(マギロツク)"が(ほどこ)されている。

 ぱっと()、"ハイパーゲート"に似ているが?

「パプリカ、開けてくれ」

「はい」

 指示されたパプリカが、"魔導錠(マギロツク)"に手をかざして"マギコード"を流し込む。

 

 招かれた扉の先は――光り輝く部屋だった。

 壁一面が淡い光を放っている。

「壁が光ってる……!?」

 ルヴィが目を丸くして声を上げる。

「違うよ、光ってるのは壁じゃない」

 フェズが光る部屋を見回す。


 ルヴィが輝く壁に顔を寄せると――それは壁ではなく、(しつら)えられた棚に並ぶ無数の"記録結晶(フイルグリフ)"だった。

「これ……ヴォルフケイジ大双壁でフェズも持ってたヤツだね」

「そう、フィルグリフって言うんだ」

 腰のポーチから"記録結晶(フイルグリフ)"を取り出し、起動させて自分の身分証を表示する。

「こんなにいっぱい……!」

 壁一面にずらりと並んだ"記録結晶(フイルグリフ)"を見回し感嘆(かんたん)の声を上げる。


「ちんまりしているが、我が商会のデータベースだ」

 マゼンダが、謙遜(けんそん)の言葉を吐きつつも、自慢気な表情で大量の"記録結晶(フイルグリフ)"の中から一枚を手に取る。

「パプリカ、起動してくれ」

「はい」

 マゼンダから"記録結晶(フイルグリフ)"を受け取り、部屋の中央に置かれた六角形のテーブルの上に置く。両手をその上にかざし、”マギコード”を組んで起動させる。


 空中に光の粒子で地図が描き出される。

 地図はこのチャロ・アイア島全体のものだ。

 地理に(うと)く人間の文字が読めないルヴィにはさっぱりだったが、地図に事細かに記された文字や記号が記されている。おそらく町や村などの所在が書き込まれているのだろう。

 どこででも手に入る普通の地図の様だが……。


「この色のついたマークは何?」

 ルヴィが地図を指差して質問する。彼女の指摘通り、地図上には様々に色分けされたマークがびっしりと描き込まれている。


「各商会の勢力図か……」

「その通りよ」

 フェズの言葉にパプリカが頷く。

 色とりどりのマークは、それぞれが各商会のシンボルの様だ。言われてみれば、レッドベリル商会やアイオライド商会の紋章も確認出来る。


「こりゃまた集めるの大変だったでしょ? と言うか集めちゃいけない情報も混じってそうだね?」

 肩を(すく)めるフェズを無視して、パプリカが続ける。

「わたしが調査した限り、この地図上に表示されたアイオライドの商会や工廠・支店は、"VERDIGRIS(ヴエルデグリス)"を製造している形跡は見られなかったわ」


 投影された地図に両手を(かか)げ、マゼンダがフェズに(うなが)した。

「約束だ。お前の知っている"VERDIGRIS(ヴエルデグリス)"製造工廠(プラント)の位置を入力してもらおう」

「ああ……分かった!」


 指先に魔力を集中させて――フェズは地図のある一点をタップした。

「ここが――"VERDIGRIS(ヴエルデグリス)"製造工廠(プラント)だ」


 フェズによって、新たに打たれたアイオライド商会のマーク。

 それは首都チャロ・アイアを示していた。

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