2-3:女たちの戦い
――天照星の紅光よ! 紅蓮と成りて集い、数多に爆ぜよ! ――
「発現せよ! "連光弾"!」
叫びとともに、ペペローネがその錫杖の先端から”光弾”を連射する!
幾つも放たれた光が矢の様に『ゴーレム』に突き刺さり、爆裂する。
「――くッ!」
威力は大した事はなかったが、逃走を図る『ゴーレム』の足止めには充分だった。姿勢を崩し、地面に片腕を着く――!
フェズとしてはこの隙にこちらが逃げたかった――が、人狼族の少女の存在を知られてしまった以上、この『ゴーレム』を逃がす訳には行かないだろう。
ペペローネの放った”光弾”の明かりで、ありがたい事に、落としたダガーを見つける!
「おのれッ」
体勢を立て直した『ゴーレム』が、その額の魔導石から青い一条の光線を放つ!
「おっと!」
軽く左腕を突き出し――ペペローネが、彼女たちの眼前に光の障壁を造り出す!
左腕を中心に展開された”魔法障壁”がほぼ全身を包み込むように広がり――『ゴーレム』の光線を四方に無散させた!
「”魔法障壁”か!」
『ゴーレム』が叫ぶ!
魔法攻撃を跳ね返す魔力の盾だ。
それ自体は至ってポピュラーな術だが、ペペローネが展開させた”魔法障壁”は、かなり巨大だった。
普通は、直径数十センチの空間を防御出来れば良い方である。だが、ペペローネのそれは三人をまるまる包み込むほどの範囲を守って見せた。
「ならば――!」
『ゴーレム』が、丸太よりも太い腕を振り上げる!
直接、物理攻撃で来たか!
フェズが逆手に構えたダガーの魔導石に魔力を集中する――。
――天照星の赤光よ! 紅蓮と成りて集え! 光刃猛よ! ――
「へえ……?」
フェズの”マギコード”を聞いて、珍しそうな声を上げたのはペペローネ。
当然、そんなやりとりはお構いなしに、『ゴーレム』が両腕を振り下ろし、彼女たち三人を押し潰しにかかる!
ペペローネを背後に押し退け――フェズは構えたダガーで、それに真っ向から挑んだ!
「発現せよ! "殻紅光刃"!」
重い音がして――フェズの鋭い剣閃が、『ゴーレム』の左腕を、手応えもなく両断する!
そのダガーの刀身は、魔導石から発せられた光が流れ込み、光り輝く刃が形成されていた――!
「な――ッ!?」
驚愕の声を上げる『ゴーレム』!
切り落とされた左腕は勢いを失って地面に転がり、残った右腕は大きく狙いを逸れて近くの木の幹を圧し折る!
切断された”腕”の断面は、表面同様ただただ黒一色だった。
思わぬ反撃に体勢を立て直すべく身体を退く『ゴーレム』――だが。
「斬り裂けッ! ”光爪”!」
フェズの背後から鋭い声が響き――人狼族の少女が、フェズの肩に乗り上げ、大きく左腕を振るう!
指先に集められた光が鋭い鉤爪の如く撃ち放たれ、バラバラの軌道で『ゴーレム』を追撃する!
”光爪”――と呼ばれた五条の光の”爪”が、悉く『ゴーレム』の身体を斬り裂き、そのひとつが額の魔導石を撃ち砕く!
断末魔を上げ、地響きと土煙を巻き起こして、『ゴーレム』がに倒れ込む!
その姿が、光の粒子となって舞い上がって行った。
『ゴーレム』の姿が完全に消え去ったのを見て、フェズは身体の緊張を緩める。
「器用な術ね。ダガーの刀身に魔力を乗せて切れ味を上げているのかしら?」
ペペローネが、光り輝くダガーの刀身を興味深そうに覗き込む。
「逆だよ。何もないところに魔法のイメージを描くのが苦手なんだ。だから物体の刀身に魔法を乗せて形を安定させているんだ」
「器用なのか不器用なのか、良く分からない事をするのね」
クスクスと笑うペペローネ。その彼女に向き直り、礼を言う。
「ありがとう。助かったよ」
「それはこちらのセリフよ。さっきは貴女のお陰で助かったわ」
行儀よく一礼するペペローネ。
「けど、それとこれとは話が別――」
顔を上げ、ペペローネは険しい表情でフェズを見つめる。
「わたしを見た以上は、一緒に来てもらうわよ?」
それは、願ってもない申し出だった。
恐らく、ひとりになったら生き残れないだろう。
それに―――
「お前も、さっきは助けてくれてありがとな!」
後ろに立っていた人狼族の少女の頭を撫でようと手を伸ばす。
その少女の身体がぐらりと揺れ――
「おいっ!?」
――倒れ込んだ身体を、慌てて抱き止める!
ぬるりとした感触が、少女を抱き止めたフェズの手に伝わった。
見れば、さっき縫合した傷が再び開き、真っ赤な血が流れ出している。
やはり、フェズの拙い回復魔法では、充分に復元出来ていなかった様だ。
「ペペローネ、回復魔法は使えるか?」
フェズの問いに、ペペローネは頷く。
「まあ、人並み程度には――。でも、今ここでそいつを治してる暇はないわ」
「着いて来て!」と腕を振って促すペペローネに、フェズも頷く。
荒い息をする少女を背中に背負い直して、ペペローネの後を追いかけた。
***
「……帰って来ないね。僕の『ゴーレム』……」
"照明球"の明かりに照らされ、フェズやペペローネを追いかけて行った『ゴーレム』を待つヴェニッタとアデル。
「まさか……フェズに負けたと言うのか……!?」
ヴェニッタが爪を噛みながら声を荒らげる。
想定外の出来事に、彼女の心は焦りに支配された。
当然だろう、人狼族であるアデルとの密会を目撃されてしまったのだから。
対照的にアデルは、余裕の表情。
彼にとってヴェニッタの身の振り様など、どうでも良い事だった。
「人間の女の子如きに負ける筈はないんだけれどねぇ……。
何れにせよ、マズイ事になったね。僕たちの蜜月の関係が明るみに出てしまうかも知れない……。
まあ、何か証拠を掴まれた訳ではないから……大丈夫だとは思うけどね」
「何を悠長な!」
両腕を大きく広げ、怒りの声を上げるヴェニッタ。
「あのペペローネも気にかかる! やつは恐らく”西側”の魔導師だ! きっかけを掴まれた以上、あらゆる手段を持って、我々の関係を暴こうとして来る筈!」
"VERDIGRIS"の秘密を知ろうと、競合の商会が企業スパイを送り込んで来る事は、容易に想像が付いた。
ペペローネと言う魔導師にも警戒はしていた。
彼女がスパイだった事は想定内だったが――まさか、あそこでフェズに邪魔されるとは!
「何としても……奴らを始末せねばならん!」
「……それは、君の部下であるフェズと言う女の子も始末してしまって良い、と言う事かな?」
「惜しい人材ではあるが……止むを得まい」
ふう、と一息つき、アデルはヴェニッタに背中を見せる。
「わかったよ。僕は森の中で。もう一人の”実験体”を捜しつつ――逃げたふたりを追ってみるよ」
肩越しに眠ったまま地面に倒れた少女――ガーネットを見やる。
「その娘は確かに引き渡したから、逃げられないでおくれよ?」
最後にヴェニッタを一瞥し――アデルは森の暗闇へと姿を消した――――。




