マッチ占いの少女 ~なろうなママが、マッチ売りの少女の続編を即興で創りました~
「マッチ、マッチはいかがですか? マッチを買ってください!」
大みそかの夜、寒空の下。ひとりの少女が天に召されました。
少女は寒さをしのごうとマッチをすり、炎の中に幻を見ました。
最後は大好きだったお祖母さんの幻につつまれ、幸せな顔だったそうです。
菜蒔枝ママは、マッチ売りの少女を読み聞かせました。
声優の経験があるので情感たっぷり。
普通なら「最後は幸せでよかったね」と子どもが言うお話なのに、翔人くんは泣いてしまいました。
「うわぁぁぁん! しんじゃうなんて、かわいそうそうだよー! なんでドラゴンをうらなかったのー?」
菜蒔枝ママは、小説家になろうのユーザーです。
そこで見つけた「ドラゴン売りの少女」というお話を読み聞かせたら、翔人くんはご機嫌でした。
「うおー! ドラゴンすごい! ポ〇モンみたいでカッコいい! いけ、リ〇ードン、かえんほうしゃ!」
菜蒔枝ママは、翔人くんに言いました。
「いまのお話はね、マッチ売りの少女というお話を、面白くしたお話なんだぞー」
「わー、そうなんだ。じゃあじゃあ、マッチうりのしょうじょもよんで」
それなら、ということで、菜蒔枝ママは読み聞かせたのですが……。
菜蒔枝ママは、翔人くんを泣き止ませる方法を考えます。
頭の中で木魚を叩く音が続き、最後に「おりん(仏壇に置かれていて、棒で叩くと甲高く澄んだ音が出るお椀のような形をしたもの)」が響きました。
「(よし、続きを創ろう!)」
この様子を見ていた童話の神様は、菜蒔枝ママにネタを降らせました。
「!」
菜蒔枝ママもなろう作家です。ほとんど無名ですけどね。
でも、童話の神様のご加護は抜群! すぐにお話ができました!
童話の神様、「冬の童話祭2021」のおかげで力が漲ってますからねー。
「大丈夫だよ~、翔人くん。このお話には、まだ続きがあるから」
こうして、菜蒔枝ママは、童話の続きを語り始めました。
~~~(ここから先、『』内が菜蒔枝ママのお話です)~~~
『天に召されたマッチ売りの少女は、神様の前に立っていました。
神様は、少女にこう言います。
「きみの生涯、可哀そうすぎるっすー! もう一度生まれ変わって、今度は幸せになるっすよ!」
「私が……? 生まれ変わって……? 幸せ……に……?」
神様に言われたことの意味が分からず、少女はキョトンとしています。
いつも先走り気味な神様は、構わず言葉を続けます。
「きみには、炎の中に幻を出せる能力があるっす! その力で他の人を幸せにして、自分も幸せになるっすよー!」
「???」
最後まで訳が分からないまま、少女は生まれ変わりました』
菜蒔枝ママがここまで話すと、翔人くんは、すっかり泣き止みました。
なろう童話をいくつも読み聞かされているので、転生モノに慣れ親しんでいるからです。
たいていは、ハッピーエンドですからね。
「ねえママ、つづきは、つづきはどうなるの?」
「あわてな~い、あわてない。ひと休み、ひと休み……」
翔人くんを優しくポンポンと叩きながら、菜蒔枝ママは続きを考えます。
頭の中はフル回転。ハムスターが、回し車の中で全力疾走している感じですね。
…………。
……。
どうやら、続きがまとまったようですよ。
『マッチ売りの少女は、マッチ職人の娘に生まれ変わりました。
父親のジッポラが作るマッチは王室御用達。少しぐらいの風や雨では火が消えない、素晴らしいマッチでした。
貴族でもひと月待ち、一般市民は最低でも半年待ちのマッチです。
適正価格で売っても、生活にはゆとりがありました。
母親のイブルードは元占い師。結婚を機に引退した身ですが、今でも困った人が彼女を訪ねてくるほどの腕前です。
イータと名付けられた少女は、そんな両親の背中を見て、すくすくと育ちました』
菜蒔枝ママがひと息つくと、翔人くんが尋ねます。
「ぼくしってるー。しょくにんのあさは、はやいんだよね?」
「そうだよー。自分で選んだ仕事だからねー」
子どもって、移り気です。
翔人くんも、例外じゃありません。
菜蒔枝ママは、ちゃんと話を合わせました。
『七歳の大みそかの夜、暖炉の火と御馳走を見ていた少女は、神様の言葉を思い出しました。
「(私には炎の中に幻を出せる能力がある。その力で他の人を幸せにして、私も幸せになる……)」
少女は、どうしたらそれができるのかを考えました……』
と、ここで、翔人くんが口をはさみます。
「ぜんせのきおくはもどらなかったの?」
「つらい記憶だから、神様が戻さなかったんじゃないかな? それに、もし戻っても、チートできそうにないし」
「あっ、そっかー」
翔人くん、それで納得しちゃうんですか……?
菜蒔枝ママは慣れたもの。
ニコニコしながら続きを語り始めました。
『次の日。
少女は、母親から習った占いと、自分の力を組み合わせることを思いつきました。
でも、ひとりでマッチに火をつけるのはいけません。危ないですからね。
少女はマッチを持って、母親のところへ行きました。
母親は、タロットカードを並べて難しい顔をしていました。
何かを占っているけど、結果が出てこない。
そんな感じがします。
「お母さん、どうしたの?」
「ああ、イータか。いま、偉い人に頼まれて、悪い人がどこにいるかを探してるんだ。でも、なかなか見つからないんだよ」
「ええっ、それは大変じゃない。私も手伝う。悪い人のことを教えて」
話を聞き終わった少女は、母親の前でマッチに火をつけました。
もちろん、OKはもらってますよ。
「こ、こんなところにいたのか……!?」
なんということでしょう!
マッチの火の中には、悪い人が隠し扉を開けて、隠し部屋に隠れる場面が映ったのです。
「凄いぞイータ! すぐに偉い人に知らせなきゃ」
母親は少女を思いっきり抱きしめ、全力で褒めました。
少女は母親が幸せなのだと感じ、自分も幸せを感じました。
「(そうか、神様が言ってたのは、こういうことだったんだ……)」
こうして、少女は何度も母親を助けました。
やがて、少女は国一番の占い師になり、マッチ占いの少女と呼ばれました』
畳みかけるように語り終えた菜蒔枝ママは、どや顔で翔人くんに尋ねます。
「どう、ちゃ~んとハッピーエンドだったでしょ?」
「うん。マッチうりのしょうじょは、マッチをうらないしょうじょになったんだね!」
菜蒔枝ママは、思いっきり脱力しました。
やっぱり、最後は子どもが全部持っていくんですね……。
「ねえママ、いまのおはなしもとうこうするのー?」
「そうねー、翔人くんが喜んでくれたから、投稿してみようか」
「わーい。みんながしあわせにおもってくれたらうれしいな」
「そうだねー」
「よーし。ぼくもおおきくなったら、おはなしをとうこうするぞー」
こうして、なろう作家予備軍が増えていくのでした。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
神様の計らいで生まれ変わったマッチ売りの少女の成功譚を書くつもりだったのに、どうしてこんな話に……?
それと、自分で書いててアレですが、子どもに「ドラゴン売りの少女」を読み聞かせたらアカンやろ(笑)
※この作品は100%フィクションです。
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