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No29 鬼判別バレエピアニストの話
私はバレエピアニストだ。例えばコリオグラファーが「王子の登場シーンから」と言ったらその何小節前から音を出す。特にAの指示は厳しい批評が飛ぶ。でも私は頑張る。今日もAは腕組みをして視線をダンサーに向けたまま私に怒鳴る。
「そんなスピードにしろと誰が言った?」
私はAを見ずにステージ壁面の鏡を見る。鏡にはAの横顔があり、真っ赤にして怒っている。その背後に私しか見えないがAに覆いかぶさる長身の赤鬼がいる。現在は赤鬼担当らしい。そのほかには青鬼と黄鬼がいて交互に憑依している。Aはそれを知らぬ。これらの鬼はバレエに精通している。Aの振り付けがバラエティにとんでいるのは三種の鬼のおかげだ。この事実を私だけが知っており、鬼たちも私がそれに気づいているのも知っている。赤鬼は鏡越しに私にウインクした。このパターンだとラストは黄鬼だ。彼に憑くと黄色い金切り声で怒鳴られるがこれも平気だ。良い作品になるから。




