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No11 私の行き先
築三百年の汚いビルの入り口をくぐり、エレベーター前の段ボールとペットボトルを足で払いのけ、悪臭を吸いこまぬよう息をつめる。揺れるエレベーターに乗って四階で降りる。とたんにアールグレイの良い香りがする。美しい壁画調の通路を通って突き当りが私の行先。クラシック音楽が耳に入る。あれは黒鳥の第九ヴァリエーションだ。急がないと。
ドアはアールデコ。その前にたむろしている人々を越え前に出る。この重いドアをいつまで開閉できるか。でも皆こうやって出入りする。入れぬ人々が目に涙をためて立っている。バレエグッズでいっぱいになったバッグを肩にかけて。踊りたいのに中に入れてもらえぬ人々。私もいつか年老いてそうなる。うらやましそうな視線を受けながら、ドアノブをやっとの思いで回して入室する。
「おはようございます」
狭いレッスン場は選ばれし人々で混雑している。部屋に入れるだけで光栄だ。安堵のため息が今日も出た。




